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「中国が南西諸島に侵攻する」のか? - 平和のためのメモ - [反核・平和]

(末尾に筆者の関連投稿へのリンク 9/11 最後の節に少し加筆しました。青色部分。9月12日英語バージョンを作成しました。)
国際政治や軍事問題の専門家でもない私が、東アジアの軍事緊張についてコメントしても、テレビのワイドショーでのタレントの発言と同じで、ほとんど誰にも真剣には読んでもらえないでしょうが、自分自身の備忘として、まさにウェブ・ログとして、書いておきたいと思います。(この部分、本文冒頭の繰り返しです。)

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「中国が南西諸島に侵攻する」のか?
- 平和のためのメモ -
要約
台湾"有事"を契機として日本国内で戦争が起きる可能性とは、いきなり中国が南西諸島に侵攻することが想定されているのではなく、懸念される台湾戦争に米・日がどういう形であれ参戦することで、その反撃(もしかしたら予防攻撃)として想定されるものであろう。

現在有効な日中間の条約や共同声明を前提とすれば、台湾戦争はあくまで内戦であり、これに日本が介入することはこれらを破棄することなしには出来ない。アメリカも今のところ「一つの中国」の立場であるから同様である。

内戦であれば、それへの軍事介入には国際法上の根拠がない。主要メディアではアメリカの介入がさも当然のように語られるが、その法的なベースについての議論を見たことがない。

現在進められている南西諸島のミサイル基地化は、このような違法な軍事介入の準備であり、「安全保障のディレンマ」のメカニズムによって中国の警戒感を高め、軍拡を助長する。

「抑止」による平和は不安定で、戦争の延期に過ぎない。ユネスコ憲章前文にある、「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を想起すべきである。これは精神論でも理想論でもなく、恒久平和への唯一の道であろう。
1.はじめに
国際政治や軍事問題の専門家でもない私が、東アジアの軍事緊張についてコメントしても、テレビのワイドショーでのタレントの発言と同じで、ほとんど誰にも真剣には読んでもらえないだろうが、自分自身の備忘として ― まさにウェブ・ログとして ― 書いておく。しかし以下で述べることは全くの一般的知識・常識の範囲内であって、特に専門的知識が必要となる話ではない。むしろ、素人でもこの程度の議論 ― しかも世間の大勢とは反対の議論 ― が可能ということを示したい。先日紹介した、浅井基文氏の講演録に触発されての作文である。もし間違っているところがあれば、コメント欄などで指摘して頂ければたいへん有り難い。

2.なぜ日本が「台湾有事」に巻き込まれるのか?
報道によれば、自民党副総裁の麻生太郎氏は、台湾"有事"を念頭に、「沖縄、与那国島にしても与論島にしても台湾でドンパチが始まることになれば戦闘区域外とは言い切れないほどの状況になり、戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と語り、日本国内で戦争が起きる可能性に言及したという。そして「自分の国は自分で守るという覚悟」を強調したとある。(朝日9/2)

最近の中・台・米の軍事的緊張の印象から、またさかんに報じられる中国の軍備や基地の拡張、そしてウクライナへのロシアの侵攻もあり、多くの人が「そうかも知れない」と思いそうだ。しかし、なぜ日本国内で ― ここでは南西諸島を指すと思われるが ― 戦争が起きることになるのか、よく考えると不思議である。おそらく、台湾の統一/独立をめぐって、中・台間で軍事衝突が起こり、戦争に拡大、それにアメリカと日本が巻き込まれる、という展開を考えているのだろう。そうではなく、中・台関係と無関係に、いきなり中国が南西諸島に侵攻したり、ましてや日本本土に侵攻する、などということを考えなければならないとしたら、逆に日本が朝鮮半島や中国をいきなり侵略するということも(昔やったように)、当然同じように想定しなければならなくなる。安全保障に関しては、絶対に安全が守れる方策も、また警戒が絶対に不要な事象もなく、すべてどちらがより蓋然性が高いかという比較の問題だからである。

ではなぜ中・台間の軍事衝突に日本が巻き込まれることになるのか。その理由はただ一つ、日本がこの紛争に介入する意思、というより、介入するアメリカに追随する意志を持ち(あるいはむしろそのように洗脳されていて)、その準備をしている、ということに他ならない。日本が正面に立って介入するのではなく、アメリカの戦争の後ろについて自衛隊がこれに加わる、あるいはひょっとすると逆に、台湾と日本に戦争をさせて、アメリカはそれを後ろから見ている、ということになるかも知れない。もちろん沖縄を中心に日本はアメリカに基地を提供していて、しかもアメリカとの軍事同盟によって自衛隊は事実上米軍の指揮下にあると言われるので、戦争ともなればこれら日・米の基地は当然相手方の攻撃対象になる。

3.「台湾有事」とは本来は中国の内戦である
さて、そもそも危機が言われる台湾戦争に日本やアメリカが関わる、関わらなければならない理由があるのだろうか?

1972年の日中共同声明[1]の第2項と第3項には、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」し、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」とある。また1978年の日中平和友好条約[2]第三条には、「・・平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従」うとある。またアメリカも、今のところは「一つの中国」の立場を取っている。つまり、もし台湾戦争が起こったとしても、それは「内戦」であることを米・日ともに認めざるを得ないし、内戦には関与できないということだ。中国が台湾「統一」のため武力に訴えることは最悪の事態だが、だからと言って外国が武力でこれを阻止することは出来ない。少し前には、香港をめぐる「一国二制度」の約束を破っての強引な併合にも、外国がこれに軍事力で介入できなかったのと同じ事だろう。

4.法的な妥当性は無視?
このような法的な制約があるにも関わらず、冒頭に引用した麻生発言のような政治家だけでなく、テレビに出るような学者・専門家連までもが、台湾戦争に日本が加わる、ないし巻き込まれることがあり得ること、ないしやむを得ないことのように語っている。しかしそのことの正当性、法的根拠についての議論を、このような論者から聞いたことがない。(もしかしたらどこかでは述べているのだろうが、まだ見つけていない。)ただ聞かれるのは、このような軍事緊張をまるで自然現象でもあるかのような前提にして、「安全保障環境の悪化」という枕詞で防衛費増大に明確に反対しない、ないし当然視する言説である。

例えば、軍事問題の専門家を自認する小泉悠氏は、防衛省が過去最大の規模となる2023年度概算要求を決定したニュース(日経8月31日)への短いコメント[3]で、次のように述べている。前半の部分を引用する。
昨今の安全保障環境を考えるに、防衛費の増大がやむを得ないのは確かであると思います。しかもロシアのウクライナ侵略によって米軍の抑止リソースはかなりの程度欧州正面に回さざるを得なくなるでしょうから、対中抑止の信憑性を確保する上で日本の果たす役割はかなり重要である筈です。
ここで、「米軍の抑止」なるものが当然のように前提とされ、したがってそれを補完するのが日本の当然の役割だという理屈だが、その元々の正当性や根拠は語られない。関係する国際法をネットで調べると、国連憲章が認める武力行使禁止原則の例外は(1)武力攻撃の発生時に緊急的な個別的または集団的な自衛権の行使(2)平和に対する脅威、破壊、侵略行為に対する措置として安保理が決定する行動、の二つだけのようである[1は国連憲章51条、2は42条]。しかし(1)に関しては台湾は加盟国ではないし、(2)は安保理の決定を待たなければならない。ロシアの侵攻を非難する根拠には当然ながら国連憲章が引用されるし、おそらく小泉氏も同じだと思うが、アメリカなどの中台戦争への介入の場合は国連憲章はどうでもいいと考えるのだろうか。それとも他に法的根拠があるのだろうか。

9.jpegまた小泉氏はさらなる「防衛費」増大を認めるのであるから、南西諸島のミサイル基地化という自衛隊軍拡にも反対ではないのだろう。しかしこれが「必要」となるのは、対ロシアでも対朝鮮(DPRK)でもなく、まさに台湾戦争においてだろう。しかし、上に述べたように日本は台湾戦争に関与することは条約上も国連憲章からもできないのだから(もちろん憲法前文や9条からもそうなのだが、そのことはここではあえて除外した)、これに備えることなどあり得ないはずなのである。(右の図は毎日新聞2022/5/2から)

5.「備え」は逆に相手方の軍拡の要因、口実となる
むしろ、南西諸島での自衛隊軍拡がたとえことさら対中国ではなく一般的な「抑止力向上」のためとしても[4]、周辺国から見れば紛れもなく脅威であり、よく知られた「安全保障のディレンマ」のメカニズムによって、他国の軍拡の要因、さらにはその正当化の根拠となる。つまり「抑止」のつもりが戦争を呼び込むことになるだろう。中国の軍拡は速度も規模も大きく、それに比べれば日本のそれは相対的に小さいかも知れないが、安保条約のため日米一体としての軍事力、と見るべきであろうし、当然中国もそのように捉えているだろう。むしろ実態としては、自衛隊は米軍に従属しているのではないか。もちろん日本には、沖縄を中心に多数の米軍基地がある。中国の艦船が「航行の自由作戦」とばかりにアメリカの真似をしてカリブ海を通るようになるまで待とう、などと言うつもりはないが。

ロシアのウクライナ侵略を正当化するものではないが、NATOの東方拡大だけでなく、直前のウクライナの軍拡も、その遠因になったのかも知れない。少なくとも前者がプーチンに口実を与えたことは周知の事実だろう。(もちろん逆に、ウクライナ自身の軍拡が十分でなかったから侵略を招いた、という議論も可能だろう。どちらが正しいか、その判定を「正しく」できる人がいるとも思えない。)

台湾は国連加盟国でないとは言え、14カ国が国交を持ち、さまざまな国際組織に参加していて、実質的に独立国の様相が強い。そのような地域と住民を中国が武力で強引に支配下に置こうとする行為に出るとすれば、それは全く不当だ。同時に、それに外国が介入することは前者の不当性を薄め、ないしは打ち消し、逆に正当化さえしてしまうかも知れない。「武力による国家分断を阻止するため」のやむを得ない措置である、と。もちろんより大きな人命の損失と共に。

結論は、軍事力による「抑止」による平和は不安定で、戦争の延期に過ぎないと言うことだ。軍事力というのは工業技術と不可分であり、そしてその技術競争は不可避で、それを一定の水準に止めることは即、遅れを取ることになるのというのは周知の事実である。つまり軍事バランスとはその力が互いに増大し続ける「バランス」のことで、不安定であらざるを得ない。これを防ぐには、縮小バランスに移行する意図的な努力か、軍備撤廃を目指すほかはない。

ユネスコ憲章前文の「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を想起しよう[5]。これは精神論でも理想論でもなく、恒久平和への唯一の道であろう。つまり、平和主義者が増えないと世界は平和にならないのだと思う。国家も同じで、平和主義の国家が増えることがいちばん重要だと思う。

[1]日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
[2]日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_heiwa.html
[3]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA265VN0W2A820C2000000/#k-think
[4] たとえば日経の9月4日の鈴木一人氏の記事「日米「統合抑止」への変革 台湾有事想定し戦略・制度も」。「中国との戦力不均衡是正が急務」としている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA199ZG0Z10C22A8000000/
[5] たとえば次の文科省のページ。
https://www.mext.go.jp/unesco/009/001.htm
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