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藤原帰一氏の安保3文書に関する朝日新聞での論評について [メディア・出版・アート]

kfujiwara2228tw.jpg(『世界』連載についても追記
藤原帰一氏の安保3文書についての論評が朝日新聞の『時事小言』に12月21日に掲載された。東大のサイトにも掲示されている。ご本人がツイッターで紹介されている。

この文章はその始めの方で、政府の安保戦略が、それが目的に掲げた「抑止力強化」の役に立つのか、戦争を防ぐことはできるのか、という「角度」から考える、としている。そしてその結論は最後の数行に要約されていると思われる。その部分を引用する。
侵略に対する抑止は必要であるが、抑止に頼る対外政策は戦争の危険を高めるリスクがある。このジレンマがあるからこそ、抑止戦略と並んで外交による緊張緩和の可能性を模索しなければならない。/外交によって中国や北朝鮮との緊張を打開することは極度に難しい。だが、岸田政権には外交の機会を模索した跡が見られない。抑止力強化に積極的な政権の、そこが危うい。
つまり冒頭の問いに即して端的に言えば、「抑止力強化」の役に立たない、戦争を防ぐことはできない、と読める。しかしそれ以前の本文には、次のように、軍拡容認派が使う決まり文句が、相対化されることなく自身の言葉として散りばめられている。

”日本を取り巻く安全保障環境は厳しい”、”北朝鮮はミサイル発射を繰り返し”(正しくは「ミサイル実験」- 引用者注)、”日本の戦力は、米国とその同盟国の持つ抑止力の一環”、”抑止力強化の試み”、などなど。

したがって読者は全体として、3文書が主張する軍拡は「抑止力として必要」との主張と受け取ってしまうかも知れない。「結論」と見做して引用した最後の数行でも、軍拡不要、逆効果と断言している訳ではないので、実際そうなのかも知れない。

しかし同氏の、『世界』2022年9月号掲載の論説(「壊れる世界」と題するシリーズの第1回)では、アメリカが起こした戦争について、「...ベトナム戦争からイラク戦争に至るまで、アメリカが行った軍事介入は、(中略)行われた侵略の数においても規模においても際立っている。」(p.65-66)と書かれている(完全な引用はこちら)。にもかかわらず、今回の中台間の軍事緊張をめぐっては、これをアメリカが主導して戦争に持っていく危険性については全く指摘されていない。むしろこれこそがいま重視するべき点ではないのか。実際、今回の緊張のきっかけを作ったのがペロシ訪台であったことは誰もが認めるだろう。

同氏は、イラク戦争を題材にした対談形式の著書「戦争解禁」(ロッキング・オン、2007年)で、対談者の「日本だと、私は軍事通です、国際事情通です、みたいな人があまり批判してなかった。欧米ならば『反対派』に属してた人種がしてなかった」という問いかけに、「この戦争に反対って人が日本では少なかった。(中略)結局日本での〈現実主義〉というのは、〈アメリカがすることが現実だ〉っていう〈現実主義〉なんですね」と述べている(254-5ページ。次のURLに該当箇所を引用)。
https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2022-10-02#realism

今回の藤原氏の論説を見ていると、イラク戦争の時と同様に、「欧米ならば『反対派』に属してた人種」が沈黙する、お茶を濁す、という事態にならないか心配である。そう思うのは私だけか?

追記:上で言及・引用した同氏の『世界』連載だが、2023年1月号までの5回を通読した。ロシアのウクライナ侵略をめぐっての国際政治の専門的な分析として、学べることが多くありそうだ。ただ、一つ解せないことがある。経済の要素についても議論しているが、もっぱら平和への契機、つまり経済の相互依存が主として平和につながる、という議論だけである。逆の、経済が戦争の原因、推進力となること、つまり、よく言われる巨大な軍産複合体の圧力や、軍事ケインズ主義(→関連記事)などはまるで存在しないかのようである。影響はあっても、さほどのものではない、という見方だろうか。それとも、6回目以降で議論されるのだろうか。(軍産複合体の影響力については、テレビの人気解説者さえも取り上げた[注]。)

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[注] フジテレビ「池上彰緊急スペシャル!! なぜ世界から戦争がなくならないのか」
Daily Motionで今も視聴できる。
その1その2その3
また、筆者ブログはその画面を多数コピーして展示しています。
前半部分 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2016-02-18
後半部分 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2016-02-13
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