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非暴力行動で世論を動かす--アンジー・ゼルターの新しい本(その2) [反核・平和]

activism-for-life-by-angie-zelter-sample.jpg2023/10/29追記:翻訳出版のためのクラウドファンディング実施中(12/8まで)
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7/2追記:久留米大学図書館と佐賀大学図書館に所蔵
前回の4月28日の記事に続いて、"Activism for Life"の3章から6章(全部で9章)の内容を紹介します。あちこちに面白い、スリリングな、時に抱腹絶倒のエピソードもあるので、あまり詳しく書くと「ネタばらし」になり、これから読む人の楽しみを奪ってしまいそうです。それで、映画を紹介する時のような用心をしなければなりません。

本題に入る前に、彼女が執筆/編集した他の2冊と、関連する2冊を挙げておきます。(1〜3は佐賀大学図書館で所蔵)
1) Angie Zetler, "Trident on Trial – The Case for People's Disarmament", Luath Pr, 2001
2) Angie Zetler (編集), "Faslane 365", Luath Pr, 2008
3) Stellan Vinthagenほか,"Tackling Trident", Lulu.com, 2012
4) John Mayer, "Nuclear Peace – The Story of The Trident Three", Vision, 2002
Trident on Trial.jpgFaslane 365.jpgTackling Trident.jpgNuclear Peace.jpg
(1)は本書5、6章の「メイタイム」非武器化行動とその裁判のことが書かれています。(2)は、本書8章で数行触れられているだけの「ファスレーン365」の詳細、(3)はさらにそのうちの学者による封鎖のことをまとめたものです。この2冊には私も短い文を書いています。
(4)は(1)の裁判で弁護士を務めたジョン・メイヤーさんが、この件での法的側面を中心に書かれたものです。メイヤーさんは長崎の証言の会の「証言 ヒロシマ・ナガサキの声」第21集(2007年)に6頁にわたる文章を書かれています。

「メイタイム」非武器化行動と「ファスレーン365」に関しては筆者もリアルタイムで関わっていて、次のサイトに詳細情報があります。このブログにも多数あります。
ゴイル湖の平和運動家を支援する会ファスレーン365(日本)

以下で [ ] の中の数字は、原書の該当するページと、そのページ中の何番目の段落にあるかを示します。また、上付きの数字は末尾にある注の番号です。
    *    *    *
それでは3章から始めましょう。80年代初頭、反戦運動の甲斐あって巡航ミサイルやINFの配備は撤回され,核戦争の脅威が減ったことから、もともとの関心事であった先住民の権利の問題に復帰します。1991年、マレーシアのサラワクで森林乱伐防止活動を国際チームで実施。伐採木材を積んだバージを占拠し、逮捕、2週間の拘留。グループのうち6人は早期釈放のため有罪を認め、アンジーともう一人(アンニャ・ライト)は無罪を主張し、裁判で有罪に。刑務所内で他の囚人たちと拘留し、それら「犯罪者」の実態と背景の社会を知ることになります。

保釈を認められた後、秘密警察の尾行をうまく逃れることに成功し、しばらく現地の住民と生活します。そこで森林とともに生きる人々の暮らしと、それが破壊される様を見聞します。どのようして出国できたかは不明ですが、本国に戻ると、この「違法に伐採され輸入された」木材を使った商品に対する「倫理的万引き」、つまり商店から品物を取って警察にどどける活動を開始します。CRISPO (the Citizens' Recovery of Indigenous Peoples' Stolen Property Organisation)と称します。

この活動は大きな反響を呼び、木材輸入業者のためのセミナーや、1995年には「マホガニー円卓会議」が開催されます。

実は伐採された木材の多くが日本の建設業に行ったとのことで[43-3]、むしろ最大の当事者は日本だったかも知れません。サラワクの原生林は11%以下しか残っていないとのこと。

4章では、インドネシアに輸出される直前のジェット戦闘爆撃機の非武器化(破壊)がテーマです。この戦闘機は東チモールの住民の虐殺に使われることが明白だったため、用意周到な工作を実施します。3人の実行チームと時間差でメディア対応などにあたる1名(アンジー)、さらに表には出ないサポート役6人の計10人で、1年がかりで計画を練ります。包括的な資料と20分のビデオを制作、また10年の刑を覚悟して、家族への配慮などの準備もします。

この「最後の手段」に出る前に、まず穏便な方法で輸出を止める努力をします。関係者に手紙を書き、ヴィジルをやり、製造者ブリティッシュ・エアロスペース(BAe)の株主に訴え、また会社幹部にも申し入れをしました。これらの事前の努力の実績は、法廷で裁判官と陪審員に「最後の手段」を取らざるを得なかったことの正当性を理解させるのに重要であったようです。

1996年1月29日早朝に格納庫に侵入して非武器化を実行(家庭用のハンマーで部分的に壊すのですが、彼女らは'disarm'と称します)[53-4]。3人は格納庫内の電話で新聞社に連絡、警察も来てすぐに逮捕されましたが、アンジーは2月6日に共謀罪で逮捕されるまでメディアに事情を説明するなどの時間を確保できました[53-4,54-2].影のメンバーの6人は、裁判が開かれている期間リバプールの通りでの行進を組織するなど世論に訴える活動を行います[53-2]。事前に作ったビデオは検察側も証拠として使ったため、陪審員へのアピールの効果も持ちました[55-2]。7月30日に無罪評決。この顛末については岩波の「世界」にアンジー自身が詳細に書いています1

釈放された後は「武器取引反対キャンペーン」(CAAT)のボランティアとして様々な活動を行っています。
なお、本書には書かれていませんが、この3年後、同様の戦闘機破壊とそれに対する無罪判決がアイルランドでありました。事件が2003年、判決が2006年の「ピットストップ・プラウシェアズ」事件です2

5章と6章は、イギリスの核兵器「トライデント」に対する非武器化行動と基地撤去キャンペーンについてです。国際司法裁判所の「核兵器は一般的に違法」とする1996年の「勧告的意見」にインスパイアされて、これまでもっぱらモラル(良心、道徳)をベースにした平和運動に、より強い根拠として法律、特に国際法が使えると考え、再度核兵器問題に取り組みます。イギリスの唯一の核兵器システム、トライデント原潜を、直接行動の手段を使っても非武器化する「トライデント・プラウシェアズ」(TP)を設立します。原潜の基地ファスレーンの詳細、原潜の構造、仮に原潜に侵入しても安全のため絶対に立ち入ってはならない場所、非暴力の原則など、活動の原則や必要な情報を網羅したA4サイズ2段組175ページの詳細なハンドブック作成し(筆者らはこれを日本語訳3[63-1])、準備にかかります。当のファスレーン基地の司令官がハンドブックを1部申し込んできたそうです[61-4]。通常と同じ代金を請求したとのこと。運動開始の宣言は1998年5月2日、広島、ロンドンなど5都市での記者会見で同時に行われました[61-3]。

banner.jpg1999年6月,アンジーを含む3人の女性による、ゴイル湖(Loch Goil)での原潜試験施設「メイタイム」の内部の機器を破壊[67-1]。法廷ではアメリカの著名な国際法学者フランシス・ボイル教授やドイツの判事が証言に立ちました。特に、ドイツの判事ウルフ・パンツェル氏はムートランゲン基地封鎖のメンバーの一人で4、同じ地位にある人の証言は担当のマーガレット・ギムブレット判事の判断に大きく影響したのではないかと書いています。

10月には判事が「無罪とすべき」と陪審員に説示、陪審はこれにしたがって無罪評決を下しました。メディアの反応は大きく、いくつかの新聞は「4人の中年の女性5はいかにして英国の防衛力を撃沈したか」と書きました。

maytime-in-march2000w1800.jpg困惑した政府は、スコットランド最高法院に対して「法務長官の事件付託」という手続きに出て、判例としての効果をなくす試み(?)に出ました。結果は政府に有利な裁定を下しましたが(2001年3月30日)、英国の司法制度では一旦出された無罪判決は覆されないので、無罪は変わりません。(なお、同年3月上旬には筆者らはアンジーを日本に招待、北海道から沖縄まで8年10会場で講演してもらいました。右チラシ、詳細はこちら、講演内容は「世界」2000年9月号に掲載→こちらに転載

アンジーら3人は、翌2001年に、「もう一つのノーベル賞」と言われるライト・ライブリフッド賞を受賞します。ちなみに、この賞の唯一の日本人受賞者は高木仁三郎氏(故人)です。

これより先、1999年2月にはバロー(Barrow)の 原潜のドックで2人の女性グループが原潜そのものの損壊行動を実施、これは2000年9月に不一致陪審となり、事実上の無罪になっていますが、この件についてはこの本には記載がないようです.

このほか、私も含む日本人チーム12名が参加したTPの行動に「ファスレーン365」がありますが、これについては、冒頭に挙げた別の本"Faslane 365"にまとめれれているので、本書の中では8章でわずか数行触れられているだけです。(日本チームの参加記は「世界」2008年1月号に掲載

7章、8章は、IWPS(国際女性平和サービス,パレスチナ)の活動、韓国・ジェジュ島での軍港建設反対の行動のことが書かれています。ここはまだ読んでいません。

最後に、目次は以下の通りです。
1 The Beginning:Cameroon, Sustainable Living and Greenham
 カメルーンでの経験.先進国による支配,収奪を体験,グリーナム・コモン運動に参加
2 Carrying Greenham to Norfolk and the Snowball Campaign
 「スノーボール」キャンペーン
3 Building Networks of Resistance at Home and Abroad
 サラワクでの活動,投獄を経験,地元ノーフオークで”CRISPO”運動
4 Preparing and Following Up Actions
 東チモール・プラウシェアズ行動,CAAT(武器取引反対キャンペーン)
5 Reclaiming International Law and Making it More Accessible
 「トライデント・プラウシェアズ」キャンペーン,準備
6 Legal Challenges
 ゴイル湖のトライデント「非武器化」行動(disarmament action)と無罪判決
7 International Solidarity  イスラエル,パレスチナ
8 Continuing the Struggles Worldwide
 ファスレーン365(別著に詳細),韓国・ジェジュ島での行動
9 It Never Ends
10 Police, Prisons and Hot Springs 警察,監獄,温泉
11 Linking Our Struggles in One World (世界中の闘いと結び合う?)
12 Lessons Learnt 教訓集
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1) アンジー・ゼルター「地球市民の責任 東チモールとプラウシェアの平和運動」、『世界』1999年11月号、120~128ページ。次に転載。
http://ad9.org/pegasus/peace/sekai9911.html
2) https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2006-07-31
3) ウェブで公開.http://ad9.org/pegasus/peace/tp2000/handbook/tdihb0.html
4) ブログ記事「ミサイル配備に反対して座り込んだドイツの判事たち」参照。
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2012-09-27
5) 被告3人と女性判事の4人.
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