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「新しい戦前」をどうキャンセルするか [反核・平和]

「福岡県大学・研究者後援会ニュース」(共産党の後援会)最新号に掲載された拙文を転載します.3年前に同紙に掲載した「南西諸島の『軍事要塞化』と護憲運動」のアップデートのような文章です.状況がいよいよ厳しくなっていることを書いています.1,500字のところ少しはみ出しましたが,それでもなかなか書き足りません.

内容がどうしても重苦しいものなので,あえてタイトルに軽い言葉を入れました.
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「新しい戦前」をどうキャンセルするか -- 南西諸島への自衛隊軍拡問題
        →English version
         豊島耕一(元佐賀大学理工)

tamori.jpg南西諸島の軍事要塞化の問題だけでなく、軍事問題一般に私は特に詳しいわけではないが、本紙に4年前、第90、91号への連載の関係で原稿依頼が回って来た。そこで、あらためて関係サイトや報道などを出来るだけ探索してまとめ、意見も少し述べさせてもらうことにしたい。

前回の記事では、これが明白な戦争準備の最新かつ重大な動きであるのに、これに対抗すべき平和運動は、特に本土ではほとんど見られず、また、一般紙はもちろん「赤旗」の報道量も少なすぎると指摘した。残念ながらその後の推移は、反対運動が大きく高まることもなく、3月16日には南西諸島で唯一基地のなかった石垣島にまで陸自の進出を容認することとなってしまった。

しかし、昨年来いわゆる「台湾有事」がメディア等で喧伝され、昨年の「安保3文書」の軍拡・敵地攻撃容認、そして軍事費倍加予算で、もはや日本が戦争に突き進んでいること、そして南西諸島の自衛隊軍拡がまさにその導火線であることが、もはや多くの人の目に明らかになった。またアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)がその机上演習の報告書を発表、その多くの「シナリオ」で日・米・中国がこうむる莫大な損失の規模が報道された[1]。(ただしその「損失」には住民の人的・物的損失は含まれない。)

まず、南西諸島への自衛隊配備のこれまでの経緯を簡単に見てみよう。沖縄本島より南西の地域には自衛隊基地は長く存在しなかったが、まず沖縄本土復帰の1971年、宮古島の米軍レーダー部隊を引き継ぐ形で、航空自衛隊の基地ができたのが最初のようである[2]。2009年にはここに対中国の目的で電波傍受装置が設置された[3]。2016年3月、与那国島に陸上自衛隊の駐屯地と沿岸監視隊を創設、2019年には奄美大島、宮古島に陸上自衛隊の駐屯地が開設、宮古島にはその後ミサイル部隊が配備された。そして2023年3月、南西諸島で唯一基地のなかった石垣島に陸自基地が開設されるに至る。

遠く離れたところだけではない。私たちの目と鼻の先でも「南西シフト」や「台湾有事」と密接に関係する事態が急展開を見せている。オスプレイの佐賀空港配備(=佐賀市への自衛隊基地新設)である。防衛省自身が、この計画と南西諸島の自衛隊軍拡と一体のものであることを住民説明会資料でも明確に示しており、私自身もブログなどでもこのことを強調して来た。地元の反対運動は、当然、騒音、墜落の危険、有明海の汚染など、この基地による環境破壊を主な理由として来たが、最近ではこれが戦争と平和に直結する問題との認識も深まっている。例えば、3月24日のNHK佐賀のニュースで、オスプレイの佐賀空港への配備計画をめぐり、地元の自治会長らが条件次第で容認の姿勢を示したことが報道されたが、その条件として、ミサイル攻撃に備えた地下シェルターの整備にまで言及した。オスプレイ配備が戦争のための計画であることを、この自治会長たちが認めたのである。

戦争へ国民を誘導するための言説の定番は、常に他国の「脅威」であるが、ウクライナへのロシアの侵攻という現実はこれにそれなりの説得力を与えている。実際、上記の米戦略国際問題研究所の報告書を伝えた毎日の記事にも、戦争が起きないことが望ましいが「しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、他国の『悪意』によって戦争が起きる現実を見せつけた」、存立危機事態と認定されれば、自衛隊が武力を行使することも可能、とある。したがってこれにどう説得力を持って反論するかが問われる。

そもそも「台湾有事」は、1972年の日中共同声明を前提にすれば中国の内戦であり、これに日本が介入することなどあり得ないが、丁寧に論ずるには紙幅が足りない(ブログでは再三論じている)。そこで、久留米出身の作家、三崎亜紀の小説「となり町戦争」の発表時のインタビュー記事[4]にヒントを求めたい。
ステレオタイプな[5]戦争には反対できても、少し亜流の戦争については『仕方がない』と言ってしまえば、戦争を認める流れはもう止めることができないんじゃないでしょうか
湾岸戦争の時は「独裁者を倒すため、今回のは仕方ない」だったが、今回の「台湾有事」つまり戦争準備を黙認ないし正当化するための言葉は、「独裁政権から台湾を守るためなら、仕方ない」となる。この言説を打ち破ることがカギとなろう。
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1 毎日新聞,2/28.https://mainichi.jp/articles/20230227/k00/00m/030/145000c
原文 https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf
2 航空自衛隊のサイト「宮古島分屯基地の歴史」,https://www.mod.go.jp/asdf/miyako/rekishi/index.html
3 小西誠「自衛隊の南西シフト」,社会批評社,2018年,p.42.
4 筆者ブログ記事「『となり町戦争』と、となり国戦争」に当該記事の画像を置いています. https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2023-03-24
5 「一般論として」という意味かと思われる.
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当ブログの関連記事から
「中国が南西諸島に侵攻する」のか? - 平和のためのメモ -
長崎でのスピーチ「暴政に慣れる社会にしていいのか?」の文字起こし
「防衛」と「侵略防止」
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