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南西諸島の「軍事要塞化」と護憲運動 [反核・平和]

koenkainews90s.jpg「福岡県大学・研究者後援会ニュース」(共産党の後援会)最新号に掲載された拙文を転載します。長いので2回に分割、その1回目です。2回目は次号が発行されてから転載します(一部字句修正)。1401577.gif12月2日付で発行されたので、追記します。(ただし、紙媒体では注が間違っています。)
同じものが後援会のウェブサイトのニュースのページにもあります。ただこのページは長すぎるので、古い記事を探すのは大変です。

2年ほど前にも、似た内容の記事が掲載され、ブログに転載しました。
核兵器禁止条約という前進の一方で左翼・リベラルまで国家主義に取り込まれる恐れ

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南西諸島の「軍事要塞化」と護憲運動
       (第1回)
はじめに
 安倍首相の改憲への、すなわち「条文改憲」への執念は強く、先日の参院選で改憲勢力が議席を減らしたとは言え、 決して油断はできない。他方、「立法改憲」、すなわち憲法と矛盾する法律を作って実質改憲の効果を持たせることは、 古くは1950年から54年に至る自衛隊創設、そして最近では2015年の「戦争法」によって、むしろ着々と進められている。 「xx改憲」という用語法はこのほかに「解釈改憲」や「外交改憲」があるようだが、これらも同様に積み重ねられている (自衛隊を当面容認するかのような、護憲派による解釈改憲も深刻な問題だと思う)。仮に9条の条文が守られ続けたと しても、自衛隊が実際に戦争行為を行ってしまえば、2010年の久留米の憲法集会での講演者、斎藤文男・元九大教授が 使った言葉によれば[i]、その条文はただの「インクの染み」ということになる。

このような憲法9条空文化 - と言うより、むしろあからさまな戦争準備 - の最新の動きで重大なのは、奄美大島から 与那国島に至る南西諸島への自衛隊配備・増強であろう。この問題では、かつて「反戦自衛官」とも呼ばれた小西誠氏[ii]が 以前からほとんど孤軍奮闘で警鐘を鳴らし続けている。彼はこれを「琉球弧の軍事要塞化」、「自衛隊の南西シフト」 と呼んでいる。

 この問題の重要な特徴であり、また対抗勢力にとっての困難は、その報道量が圧倒的に少ないこと、むしろ主要メディア によって意図的に隠蔽されているということだ。報道量の点では、残念ながら「しんぶん赤旗」も控えめと言わざるを 得ない。例えば、琉球弧配備の兵站基地として自衛隊基地の新設が進んでいる奄美大島の件は、「赤旗」では検索に かからない。これに対して「社会新報」は、紙面面積も発行頻度も圧倒的に少ないにも関わらず、本年5月15日付けの 紙面でタブロイド判2頁全部を使っていた[ⅲ]。「赤旗」にはもっと報道量を期待したい。

 また「対抗勢力」自体にも問題がある。前出の小西氏は、最新刊の「要塞化する琉球弧-怖るべきミサイル戦争の 実験場!」の中で、次のように指摘している。
重大な問題は、自衛隊の琉球弧への急激な配備が進み、これを水路として対中国の軍拡競争が激化しているにも拘わらず、 この軍拡-戦争の危機を止めようとする勢力が、ほとんどいないということだ。国会では、自衛隊の琉球弧配備への論議が ほとんどない。既存の反戦平和勢力は、ほんの一部を除きこの状況に沈黙。(下線は引用者)
筆者はこの問題に特に詳しいわけでもないのに、5月に「ちっご九条の会」の学習会でチューターを依頼され、その準備で いろいろと調べてみた。その後のリサーチなども含めて、この動きを概観してみよう。

南西諸島の急速な軍事化
 まず、沖縄本島を除く琉球弧の軍事化、自衛隊進出がいかに最近の、しかも急速なことかを見てみよう。与那国島、 石垣島、宮古島、奄美大島のうち、2016年以前に自衛隊基地が存在したのは、米軍に接収されていた元陸軍飛行場に 航空自衛隊が進出した宮古島(1973年)と、奄美大島の航空自衛隊「通信所」(1976年)のみであった。ところが、 それから40年経った2016年の与那国島(日本最西端)への「沿岸監視隊」160人配備に始まり、さらにそのわずか 3年後の本年3月には宮古島駐屯地、奄美駐屯地が開設した。8月には奄美瀬戸内分屯地に火薬庫が新設され、9月には 陸自奄美駐屯地で日米合同訓練まで実施された。宮古島には、配備されるミサイル部隊のための弾薬庫がこの10月に 着工されようとしている[ⅳ]。唯一まだ自衛隊が配備されていないのが石垣島だが、ここにも自衛隊は、対艦ミサイル 部隊など600人を配備するとしている。しかし住民グループがなんとかこれを食い止めている。
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自衛隊の南西諸島配備・増強計画 小西誠「要塞化する琉球弧- 怖るべきミサイル戦争の実験場!」(社会批評社,2019年9月)から転載

配備の特徴と狙いと背景
 これが急速で大規模な軍拡・新規配備というだけでなく、現代ミサイル戦を想定した極めて、文字通り「実戦」的な ものというのが最大の特徴である。「離島奪還」戦のための日本版海兵隊「水陸機動団」はもとより、海洋での ミサイル戦争を想定した地対艦ミサイル部隊とそれを守るための地対空ミサイル部隊が、奄美大島や宮古島に配備 されつつある。与那国島は今のところレーダーなど電波機器の配備だが、弾薬庫の規模からミサイル部隊の可能性も あるという[ⅴ]。

 住宅地の近傍に弾薬庫を計画したり(宮古島の保良地区では200メートル)、基地の規模を隠蔽したりと、 住民の安全無視や秘密主義の横行も指摘されている。配備の目的は尖閣諸島などの「防衛」という名目だろうが、その真の狙いはこの領域で中国との間に緊張状態を作り出し、小規模な「衝突」を演出して危機を煽り、9条改憲に進む世論工作の一環とするためではないかと推測する[ⅵ]。

 また、対米関係の文脈では、アメリカの2010年のQDR(4年ごとの国防計画見直し)で出てきたエア・シー・バトル構想 (ASB,空でも海でも戦争)、2012年の海洋限定戦争論などに日本が追随してきた結果とも言えよう。そしてごく最近では 2017年、トランプ政権の「国家安全保障戦略」(NSS)で「対テロ戦」の終了と「中国・ロシア脅威論」への転換による 「新しい冷戦」に組み込まれたものだろう。<次回に続く>

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ⅰ 斎藤教授講演についての拙ブログ記事参照
 https://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2010-05-03
ⅱ 小西誠氏のブログ「今、自衛隊の在り方を問う!」など参照
 https://blog.goo.ne.jp/shakai0427
ⅲ 筆者の7/14のブログに全面転載
 https://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2019-07-14
ⅳ しんぶん赤旗9月17日付け
ⅴ 小西誠「自衛隊の南西シフト」p.20,社会批評社,2018年9月.
ⅵ 週刊金曜日」2019年5月24日号27ページにもそのような指摘がある。

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南西諸島の「軍事要塞化」と護憲運動
       (第2回)

佐賀空港オスプレイ配備との関係
私たち北部九州の住民に身近な問題としては、佐賀空港オスプレイ配備に関心を持たざるを得ないが、これもまた自衛隊の「南西シフト」の一環である。このことは、2017年に防衛省が地元の地権者説明会で配った資料にあからさま書かれている[vii]。そこには、仮想の島へ自衛隊の上陸作戦のイラストとともに、「南西諸島に約7,400人の隊員が配置されている現在の防衛体制を大幅に強化」し、「イージス艦や潜水艦など新型艦艇の整備」、「各地の防空レーダーを改修」、「ステルス戦闘機を導入」し、「島嶼防衛や奪回を目的に専門的な訓練を受けた『水陸機動団』を新設」することなどを挙げ、佐賀空港配備の直接の目的は、この水陸機動団を「島嶼部に迅速に投入する」のにオスプレイを使用するため、とある(下線は引用者)。

北方領土に関する「戦争でこの島を取り返す」と言う維新の議員の発言が重大問題になったが、発言どころか、まさに島を戦争で「奪回」すると言う、防衛省という名の政府機関のあからさまな謀議・謀略が放置されているのが不思議でならない。それとも、「島を取られた」のが昔ではなく最近だったら戦争で取り返してもいいというのだろうか? では何日前までだったら,あるいは何ヶ月前だったらいいのか?

オスプレイ配備反対の運動も、安全・環境問題はもちろんだが、これが具体的な戦争準備であることをもっと声を大にして言うべきであろう。

選挙活動に集中するだけでは選挙にも勝てない
さて、このような安倍政権の恐るべき戦争誘導・誘発政策をどうすれば打ち破れるのだろうか。誰もが語るのは選挙の重要性であり、もちろんそれは自明のことである。しかしここで私が強調したいのは、圧倒的な宣伝力を持った権力に対抗するには、選挙活動に集中するだけでは選挙にも勝てないと言うことだ。テレビや大新聞は支配権力によって掌握されており、深夜の良心的番組などが世論に及ぼす影響は残念ながら極めて限られたものだろう。したがって、メディアに真実を、言わば「強制的に取り上げさせる」方策を考えるべきだと言うのが第一点だ。

これは海外の政治運動・市民運動では普通に行われていることで、香港の民主主義擁護デモやフランスの「黄色いベスト」運動を見ればよい。すなわち「非暴力直接行動(NVDA)」「市民的不服従」と呼ばれる抗議の形態である[viii]。日本の集会やデモはあまりにも行儀がよく、交通など社会生活に影響を与えないため、いかに大規模な行動であってもほぼメディアに無視される。この不公正な状況を是正するには、市民生活へのある程度のインパクトが(もちろん非暴力の手段で)必要であり、また正当化されるだろう。果たしてこのような意見は「極左主義」「過激主義」だろうか?また、「世論の反発」を招くだけなのだろうか?私はむしろ、世論は既成事実に弱く、「やってしまう」ことで「表現の自由」の領域を広げ、世間の「デモ」に対する相場観を変えていくことが大事だと思う。また、説得力というのは単に言葉だけではなく、行為者の「覚悟」を示すことで得られるという重要な事実にも注目すべきだ。ストライキについても全く同様である。

日本人は「おとなしい」からそのような行動形態は向かない、という反論が聞こえて来そうだが、そのような人には勇敢な私たちの先祖の業績を示せばよい。例えば、1754年の久留米藩、人頭税に反対して6万もの農民が決起した歴史「宝暦一揆」と、それをテーマにした帚木蓬生の「天に星 地に花」という優れた小説を紹介すればよい。(紹介記事の一つ)

もう一つ、私が「 #マルチチュードメディア 」ないし「マスによるマスメディア」として宣伝しているのは、選挙の時だけでない、日常的な宣伝物の戸別配布である。選挙期間以外は公選法の様々な制約を受けないので、どんな内容でも自由に配布ができる。政党や団体が大量に作るのがよいが、インターネットは優れたコンテンツを共有する手段となるし、数十枚という量であれば自宅のプリンターで「分散型」で印刷することも可能だろう。すでに多くの市民団体などが実践していることではあるが、政党が(選挙の時以外は)取り組んでいないのが腑に落ちない。

最後に、共産党の内部での議論のあり方について一言述べたい。機関紙にせよ、党大会はじめいろんなレベルの党の会議にせよ、国政レベルの政策について異なる意見が闘わされるというシーンをほとんど見たことがない。これは極めて不自然な状態だと思う。このことで一般国民にも「特殊な政党」として見られているのではないか。また、過去の政策、例えば軍事政策では「中立自衛」をとり社会党の「非武装中立」を非難したり、3・11以前は「脱原発」派を「科学の進歩を否定するもの」と批判したことをどう総括しているかも、私は知らない。

過去に過ちがあればそれをあからさまに認め、総括すること、国政レベルの議論を内部でも活発に行うこと、そして中央人事の透明化、要するに「普通の党」になること、これが党の支持率を飛躍的に高めるための最低条件ではないかと思っている。(とよしまこういち・元佐賀大学理工学部)

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[vii] 防衛省のパンフレット「陸上自衛隊の佐賀空港利用について」,2017年4月
[viii] マイケル・ランドル「市民的抵抗」,新教出版,2003年参照 (関連記事の一つ

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