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日本の教師の批判的思考力、教員組合、ユネスコ高等教育世界宣言 [仕事とその周辺]

2ヶ月あまり前のNewsweek日本版9月2日号の、「批判的思考が低い日本の教師に、批判的思考を育む授業はできない」というタイトルの記事が、数日前からフォローしているSNSで引用されているので、読んでみました。全く同感で、この数年来、いや数十年来の若者の非政治化、その結果としての政治の後進化の根本的な原因になっていると思います。筆者は教育社会学者の舞田敏彦という人。
一部引用すると、
自由奔放な思想や行動が許される学生の時期までもが、今の教職課程では学校現場の色に染められてしまう。風変わりなことや批判めいたことを言うと嫌われるので、社会に対する関心、批判精神が薄れるというのは道理だ。

牙を抜かれた教員たち
 こういう学生が採用試験を突破し、学校現場にやってきたらどうなるか。教育委員会や管理職にすれば扱いやすい存在だろうが、現場に新風を吹き込む創造性など持たないだろうし、学習指導要領で重視されている「批判的思考」を育む授業も期待できない。
 それはデータで裏付けられる。OECD(経済協力開発機構)の国際教員調査「TALIS 2018」では、授業において批判的思考を促すことがどれほどあるか、と問うている(対象は中学校教員)。肯定の回答(「A lot」「Quite a bit」)の比率を拾うと、日本は24.4%でしかない。対してアメリカでは82.3%にもなる。
そして次の表が示されています。
data200902-chart01.jpg批判的思考が日本の教師から奪われたのは、組合の衰退も大きく影響しているでしょう。保守勢力が「日教組」を悪魔化することを成功させてしまいました。組合にも入らず、自分の労働者としての権利のために闘うことを知らない人間に、真の意味の権利教育も批判的思考を育む教育はできないと思われます。

unesco-higher-ed1998.jpgこれで思い出したのが、1998年に出されたユネスコ高等教育世界宣言「21世紀の高等教育 展望と行動」です。この会議には文部省(当時)も参加し署名しています。日本語訳の全文は、ネット上には私が当時から掲示している日本私立大学協会による私訳しか見当たらないようです。
オリジナルはこちらです。
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000141952
その第九条に「革新的教育方法-批判的思考および創造力」という項目があります。(a)〜(d)まで4項ありますが、その(b)項は「高等教育機関は、学生を批判的に思考し、社会の問題を分析してその解決策を求め、それを実践して社会的責任を受け入れることができる見聞の広い、深く動機付けられた市民となるように教育すべきである」というものです。

このユネスコ文書は日本ではほとんど注目されませんでした。文部省は公式訳さえ公表していません。当時、文部省から「試訳」をもらったので所属の教授会で配ろうとしたところ、その提供者に断られた記憶があります。出席した文部省官僚は旅費を返納すべきかと思われます。

なお、「ユネスコ高等教育宣言と大学審答申--『グローバルスタンダード』と儒教イデオロギーとのギャップ」と題して、同じ時期に出た「大学審答申」との語彙頻度分析をしていました。

「批判的思考」はもちろん高等教育だけの課題ではありません。

21世紀は始まってもう20年経ちますが、関係者は今この文書を読み直し、なんとか世界水準に追いつくよう努力すべきではないでしょうか。
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H. Satou

昔エンタープライズ寄港に際して、三派全学連が博多にやってきたとき、博多駅での警察の対応を見て、当時の法学部長だった井上正治教授が「警察は国民の敵だ」と発言した。そのことが原因で、井上教授は学長代行になっけど、結局文部省が認可せず、学長にならず退官した。
 今回の学術会議の問題は、似たような構造ではないだろうか。その後、九大では学生の教養部封鎖に関連して機動隊が導入され、その後学内では学生の自由な活動は禁止されたと聞く。今では九大で学生の自由な活動は禁止されているそうです。九大の学生歌の中の「誇らかに自由を守る」は単なる題目以下になっているようだ。
 井上教授が学長になれず、退官したときから九大では学問の自由は死んでいた。
 そのうち、自由を求め、社会のあり方に疑問を持つ者は、テロリストととして見なされる時代が来るだろう

by H. Satou (2020-11-13 19:33) 

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