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岸田首相の原発回帰策は温暖化対策への妨害である—『反戦情報』458号掲載分 [仕事とその周辺]

(末尾に東北大・明日香壽川氏の地球温暖化懐疑論関連の文書へのリンク)
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『反戦情報』458号が旧号になったので、掲載の拙稿を転載します。(挿入図は紙面ではモノクロ)

岸田首相の原発回帰策は温暖化対策への妨害である

    『反戦情報』458号(2022年11月15日)
         豊島耕一(元佐賀大学・理工)

岸田首相は原発の新増設や運転期間の延長、再稼働の促進の方針を打ち出した。政府の「GX実行会議」の初会合(7/27)の議事要旨に、岸田首相の発言として「原発の再稼働とその先の展開策など、具体的な方策について政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」とある。また、原発再稼働についてはこれより先、7月中旬の記者会見で、再稼働の実績がある10基のうち最大9基を動かすと述べている(毎日新聞8月25日)。

さらに8月24日の第二回会議では、西村GX実行推進担当大臣が、原発の運転期間延長も「資源エネルギー庁の審議会で検討を加速」する事項に加えている。つまり、岸田氏が直接明言したのは原発再稼働についてだけで、新増設や運転期間延長は諸々の審議会にいずれそれを言わせる、という算段のようだ。(“GX”は「グリーン・トランスフーメーション」の略らしい。)

いうまでもなくこの政策の錦の御旗は社会の脱炭素化であるが、しかしドイツ、フランスなどの西欧諸国と違って、福島原発事故を経た日本の原子力への依存度は、その唯一の用途である電力でも6%(2019年)、一次エネルギーに占める割合はわずか2.8%で、仮にこれを有意な割合に上げようとしても容易ではないだろう。

「次世代革新炉」は欧州新型炉の周回遅れの焼き直し
目玉にしたいらしい「次世代革新炉」であるが、おそらくその下敷きになっていると思われる、三菱重工の「革新軽水炉 SRZ-1200」という提案がある[1]。その主な特徴は、福島原発事故のような炉心溶融が起きた時の対策として、原子炉の下に「コアキャッチャー」と称する特殊なコンクリートセラミックの受け皿を設置することだ。これで溶融炉心を受け止める。しかしこの技術は既に海外の、例えば欧州加圧水型炉(EPR)で実装済みのもので、別に何ら新しいものではない。欧州初のEPRはフィンランドのオルキルオト3号機(アレバ製)で、本格着工から17年、今年3月にようやく試験送電を開始した。ウェスチングハウス製のEPR、中国の台山1号機は少し早く、2018年12月に商業運転を開始している。

目玉のコアキャッチャーは実は、3.11以後の議論の中で、筆者もメンバーである「福岡核問題研究会」の中で、もし再稼働に進むなら必ず備えるべきものとして議論され[2]、玄海原発3・4号機の再稼働に関しては九州電力に提出した2018年1月16日の公開質問書でも提起していたものである。(しかし九電の方針は、格納容器下部に水を張っておくというもので、もしそこに溶融炉心が流れ込めば水蒸気爆発を起こしかねない危険な策であった。)「革新」などと言うが、日本の原発が外国に対して周回遅れであったというだけのことだ。

政府の運転期間延長方針が示されるや、九電は待ってましたとばかりに、10月12日、川内原発1、2号機の運転期間を20年延長する申請書を原子力規制委員会に提出した。これらの原発は過酷事故の想定がない時期に基本設計された欠陥原発であり、むしろ玄海1、2号機同様に、早期に運転を停止すべきものだ。

気候危機対策にならない
上記のEPRでは着工から完成まで長期間を要しており、かりに日本で始めるとしても気候危機対策としては間に合わない。また、ウランは、高速増殖炉をあきらめた以上、資源量自体が少ない。2020年の埋蔵量推定で807万トン・ウラン(エネルギー白書2022)とされ、発熱量換算で天然ガスの6割ほどしかない。石油など他の化石燃料と比べればさらに少ない。また、原子炉による発電では単純な蒸気タービンによるほかないため、熱効率も他の化石燃料のエンジンと比べてはるかに低いので、取り出せる電力はより少なくなる。(図は発熱量を正方形の面積で比較)(→埋蔵量データや換算については記事「原発容認派に届く言葉」参照。更新可能なエクセル表にもリンク)
resources.jpg
原発が「トイレなきマンション」であることは、日本に建設され始める当初から言わているとおりで変わらないし、変わりようがない。せいぜいでも100年原発を使ったとして、その産業廃棄物である使用済み核燃料の後始末に数万年を要する工業施設など、そもそもあり得なかったはずだ。地下に埋設するにも、貯蔵しうる地層が日本に存在するとは、どんな地質学者も請け負えないだろう。どこを掘っても温泉が出るような国に(ネット上で温泉マップを検索すると驚愕する!)そんな場所があるはずがない。

核廃棄物の問題に答えがないことは推進側も認めている。メンバーである経団連会長の十倉氏は、2回開かれた「GX実行会議」で毎回、核融合推進の理由づけに「原子力発電は核廃棄物の問題も避けて通れ」ないことを挙げている。

don't nuke the climate.jpg脱原発の英語のスローガンに“Don’t Nuke the Climate!”と言うのがある。翻訳は不可能だが、さしずめ「CO2を放射能に変えるな」といったところだろうか。

政府の方針に対する、全般にわたるほとんど完膚(かんぷ)無きまでの批判が、10月13日の経産省・総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会に提出された原子力資料情報室の松久保肇氏の資料にある[3]。

「使えない技術」に拘っている時間はない
気候危機に対応できる時間はあまり残されていないと多くの人が言う。おそらくそのとおりだろうし、このような人類的な重大問題にはそれこそ「保守的」な、つまり安全側に重きを置く対応を取るべきだ。つまり、あらゆる可能な対策を急いで取らなければならず、余計な問題に構ってはいられないのだ。

以下の限られた紙幅で、思いつく項目をいくつか挙げることにしよう。
九州で特に重要なのは、「出力制御」と言われる太陽光電力のロスを減らすことだ。電力会社間の相互連携線の容量拡大、揚水発電の十分な活用、水素化を含むエネルギー貯蔵などが考えられる。すでに取り組まれているだろうが、この分野こそ「加速化」が必要だ。
放射性物質の地下埋設が不可能ということで多数の温泉の存在を引き合いに出したが、まさにそのことは地熱エネルギー活用の余地もまだ膨大ということだ。環境に適合した開発の仕方もなんとか見つかるはずだ。

太陽光パネルは広く普及しているが、太陽熱温水器ももっと活用されていい。家庭用の集熱面積3.4m2で年5.5ギガジュールは(ソーラーシステム振興協会のデータ)、4.5kW太陽光パネル(約23m2)の年19.2ギガジュールに比べて、設置面積からすれば相当な量である。面積を取らないので太陽電池と併設可能である。(ただし夏場は使い切れず大半が無駄になる。)→ガス節約の実測例

家庭では、住宅の二重窓化や壁・床の断熱の余地も大きいだろう。毎日風呂に入る習慣の日本人にとっては、残り湯の余熱の有効利用も考えたい。筆者のささやかな試みだが、ポリタンクに水道水を満たして一晩湯船に漬けておき、翌朝それで顔を洗う。もしガスを使えばその熱の大半は配管を温めるために浪費されるだろう。また、オイルヒーターなど「ジュール熱」による暖房器など、非効率な機器の禁止も重要だ。

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[1] 次のサイトにある。
 https://www.mhi.com/jp/products/energy/innovative_next_generation_pwr.html
[2] 舘野淳,山本雅彦,中西正之,『原発再稼働適合性審査を批判する』(本の泉社,2019)4章.
[3] https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/032_03_00.pdf
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地球温暖化懐疑論は時々見られます.東北大・明日香壽川氏のウェブサイトの「地球温暖化懐疑論反論関連」のパートは大変網羅的に解説されていますので,そのリンクを書いておきます.
「論文・講演資料データベース」のページ
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/database.html
ここを少しスクロールすると「地球温暖化懐疑論反論関連」という項目が出てきます.そこにあるpdfの第3章がそれです.
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/sc366/chap3.pdf
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