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地震兵器? 気象兵器? [仕事とその周辺]

1401577.gif2016.3.9追記:以前のリンク先は消滅.→アラスカ大学のHAARP関連ページ
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1401577.gif英語版を作りました(09.9.4)

ネット上に,電離層を能動的に観測する装置であるHAARP(High frequency Active Auroral Research Program)について,これを地震兵器だとか気象兵器だとか論ずるサイトが見られる.荒唐無稽としか言いようがない.

HAARPとは,電離層に向けて強力な電波(短波)を発射して,電離層についての研究をするための実験施設とされている.
公式サイト http://www.haarp.alaska.edu/haarp/index.html

国防総省[1401577.gif09.9.4修正]がこれに噛んでいることから,軍事研究の面があることは想像できるが,地震兵器などというのは,その出力や,それが向けられる方向から考えて,ジョーク以外の何物でもない.上記サイトから,その技術的諸元を見てみよう.

Technical Informationから箇条書きに抜き出すと,・・・

1)波長と出力:HF帯*(2.8〜10 MHz)で最大3.6MWの出力**
2)ビーム方向:電離層に向けて発射
3)標的:発射周波数によって異なる100〜350kMの高度の,数百mの厚み,数十km直径の上空で,部分的に吸収される.
4)標的でのエネルギー密度:電離層でのエネルギー密度は3μW/cm^2以下***.
これは,太陽からの電磁波の数万分の1,電離層を作るエネルギー源である太陽紫外線のエネルギーの揺らぎの数百分の1.
(このような小さな量でも,高感度の受信装置によってその影響が観測できる.)

HAARP Fact Sheetから少し詳しいデータを追加すると,・・・

5)フェーズド・アレイ送信機である.
6)タワーの数は180.
7)それぞれのタワーに低周波用(2.8 to 8.3 MHz)と高周波用 (7 to 10 MHz)の二組の,交差したダイポールアンテナが付いている.
8)地上15フィートに反射面が作られている.
9)30個の送信機ボックスがあり,それぞれが6対の10 kW送信機を備えている.合計で,6 x 30 x 2 x 10 kW = 3600 kWとなる.

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* 3MHzから30MHz.
** JOAKラジオ(NHKラジオ第一,NHK菖蒲久喜ラジオ放送所)の300kWの10倍強.
*** 結構大きい! しかしケイタイ端末から1mの距離の3分の1.
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以上の数値はそのまま額面通り受け取っていいと思われる.リーゾナブルなものだ.

大規模な「人工」地震(つまり発生時刻を選べると言う意味の)にはおそらくメガトン級の水爆ほどのエネルギーが必要だ.もちろん,地下に地震のエネルギーが十分たまっているときに,これを解放する,つまり地震の引き金を引くにははるかに少ないエネルギーで足りるだろう(ちょうど,ピストルの引き金を引くのにエネルギーがほとんど要らないように).しかしそのためには,このエネルギーがどこにどれくらい溜まっているかを知らなければならない.つまり地震予知の技術が必要だ.

少ないエネルギーの「引き金」で実現するには,より正確に,つまり「直前情報」としてこれを知る必要がある.その困難さもさることながら,当然,いつでも好きなときに地震を起こせるということにはならない.

上のHAARPの諸元を見ると,たしかに電波放射施設としては規模は大きいが,地震のエネルギーとはもちろん桁違いだし,引き金としてもはるかに不足するだろう.もちろんこの周波数の電波は地下に侵入しない.しかも,電離層に向けて発射するというのだから,なおさらだ.つまり,同じエネルギーを使うなら,地面を直接叩いた方がはるかにましだ.

私は地震が専門ではないが,以上のようなことは理系の人間にとっては常識的なことで,だれも異論をはさまないだろう.つまりHAARPと地震とを結びつけるのは,理系の人間にとっては荒唐無稽ということだ.「気象兵器」についても同様だ.

気象現象はカオス的なものと思われるので,もしクリティカルな「くすぐり」を見つけることができれば,ひょっとしたら小さなエネルギーでも大きな変化をもたらすことができるかも知れない.しかしこれまた地震の「引き金」と同様,気象の長期予報よりもはるかに難しいだろう.また,気象システムは地球全体で一つであり,「敵国」の気象だけを変化させるというわけにはいかない.時間が経てばいずれ自国にも跳ね返ってくる.

人類は,ラジオ放送の開始以来,電離層に電波を照射し続けている.上の註に書いたように,日本で最大のものはおそらくJOAKラジオの300kWが最大だろう.ロシアの声(旧モスクワ放送)の中波の最大のものは500kW.これらの規模のものがおそらく世界中に少なくとも数十はあるだろう.これを合計すればHAARPの3.6MWを上回る.もちろんHAARPの電波が電離層の狭い領域に集中しているという違いはあるが.

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コメント 7

ふじふじ

あ、そうなんですか。

素人(私を含む)は、いろいろ想像を膨らませてしまっては、あれこれ書くものだから。

地震兵器でないとわかって安心しました。
by ふじふじ (2008-08-13 23:28) 

てけれ

その説明だけでは不十分です。
空軍、海軍、DARPAの軍事プロジェクトです。
何の兵器かを説明しないのは、何故ですか?結局、分からないのでしょう。
否定だけして、理系だから信じろというのは、無理があると思いますが。
by てけれ (2008-10-02 22:45) 

yamamoto

>何の兵器かを説明しないのは、何故ですか?
兵器ではない,と言っているのです.軍事研究=兵器ではありません.日本文化に関する古典「菊と刀」は軍事研究が生んだものですが,この著書が兵器というわけではありません.それと同じです.
by yamamoto (2008-10-05 16:54) 

中本正一朗

おっしゃるとおり、実用的な気象爆弾として実用できる段階に至ってはいないのでしょう。しかし、米国において気象爆弾という名前をつけた研究をワシントンDCの権力者に申請すれば、その気象学者はつねに権力者を喜ばせるでしょう。このことは、米国ワシントンDCの官僚機構と研究者との関係をみれば明らかです(注)。

CO2温暖化詐欺も、気象爆弾詐欺も、結局は研究者や大学教授とよばれる現代の特権階級が民衆の税金を湯水のごとくどぶに捨てることにその本質があると私は思います。民衆から集めた税金を管理している権力者をだまし、権力者から研究資金という名の金を引き出すことが現代の科学者という階級なのです。科学と学問が国家権力体制の奴隷になったと言うべきでしょう。

(注)このためには、1980年代にローレンスりバモアー国立研究所のエドワード・テラー博士がモスクワ炎上を狙ってSDI(Strategic Defence Initiative、つまりミサイル攻撃計画)をレーガン大統領に売り込んだことを思い出してみれば、十分です。

「頭のよい研究者がそんな良心に反することをするはずがない」と思っているひとは、トランジスターを発明しノーベル賞を取ったウイリアム・ショックレーが天才は遺伝するという信念にもとづき自分の精子を売ったことを思い出して見ればよい。

金がすべてを決めるのが米国世界に根付く伝統です。

オーストラリア生まれで米国在住のロザリン・バーテル博士が、「気象爆弾はそれが実用化される段階にいたったはいないだろうが、気象学者が研究費ほしさのために、気象爆弾開発を進め、しかもその成果は決して公開されないだろう」とインタネットでコメントしていました。、私もバーテル博士の意見に同意いたします。それが、金がすべてを支配する現代の研究者の現実なのです。
by 中本正一朗 (2008-12-23 00:55) 

辻本伊智郞

米国では何かの予算を通すときには軍事・国防目的で提出する方が予算が通りやすく、実際には軍事利用とは関係が無くても大規模な資金を動かす際には軍事研究費でまかなうという話があります。
HAARPは高出力の電波を送信しているとのことですが、送信した後の電離層の変化を観る受信施設はどうなっているのでしょうか?
私は電波工学が専門ですが、どちらかというとHAARPのアンテナは送信機と言うよりも全て受信機であると思っています。
電離層の状態を多数の受信アンテナからのデータを採取する事により、他地域の天候状態を細かく調べる装置ではないか?と思っています。
日本だと大気イオン研究所がやっているような自然災害予測の研究を全地球規模で行っているのではないでしょうか?
by 辻本伊智郞 (2009-09-22 11:25) 

yamamoto

HAARPのホームページに見られる3枚の写真は送信アンテナですね.受信アンテナは別にあって,その説明と写真は次にありました.
http://www.haarp.alaska.edu/haarp/Rio.htmlhttp://www.haarp.alaska.edu/haarp/images/diag/optPad.jpg

説明によると,riometerと言って,宇宙起源のノイズ電波の,電離層での吸収量を測るようです.

送信アンテナに関しては,全景の写真もありました.
http://www.haarp.alaska.edu/haarp/images/ovhead.jpg

アメリカの軍学共同の実態については,"The Cold War and American Science" (SW Leslie, 1993)という本がたいへん詳しいです.Introductionの部分だけでも立派な評論文になっているので,その日本語訳を公開しようかと思っています.
辻本様,コメントありがとうございました.
by yamamoto (2009-09-22 12:20) 

yamamoto

"The Cold War and American Science" の Introduction の日本語訳です.
http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2015-07-09-1
by yamamoto (2016-03-12 15:22) 

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