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文部科学省の「パブリック・コメント」募集に5件応募 [憲法・教育基本法]

文部科学省の「パブリック・コメント」募集に,メールで5件応募しました.それを以下に転載します.対象は小学校学習指導要領案に絞りました.

論点0 そもそも文部科学省にはこのような命令を発する権限がないので,提案自体を撤回すべきである.
論点1 指導要領案は国家社会の「形成者」を育成するという観点を欠く
論点2 「国語」,「社会」および「道徳」の指導要領案が子どもの内心の自由を侵し,違憲であること
論点3 外国国籍の子どもの存在を無視している
論点4 文案作成者の国語力を疑わせる部分がある
論点0 そもそも文部科学省にはこのような命令を発する権限がないので,提案自体を撤回すべきである.

 文部科学省設置法第三条では,文科省の任務は,教育の振興と人材の育成などと抽象的であるが,同法四条が規定する「所掌事務」では,提案されている学習指導要領のように教育内容を規制する権限は明文的には認められていない.文科省としては,おそらく同条の九の「初等中等教育の基準の設定に関すること」を根拠としたいのであろうが,「基準の設定」という表現はきわめて一般的で,外形的なことに関する基準を超えて教育内容の基準まで設定する権限があるとは言えない.

 「学問の自由」の観点からもこのような命令は違法である.初等中等教育といえども,その教育内容には最新の学問研究の成果が反映されなければならず,また教育は学問の再生産のプロセスでもある.そしてその学問に関しては,憲法23条で「学問の自由は、これを保障する」としている.これは,国家が教育内容にみだりに介入することは憲法上許されないことを意味する.

 したがって,法規としての拘束力を持たせる意図で作られる「指導要領」に教育内容に関する事項を含ませることは,違憲・違法であり,そもそもこの提案自体を撤回すべきである.もちろん現行の「指導要領」も撤廃すべきである.

 実際的な面でも,これまでの「指導要領」が子どもの学力を低下させる原因となるなど,その害悪が明白となっている.その愚を繰り返すことは止めなければならない.教育内容に関しては,法制上の本来のあり方に,つまり教師,父母,そしてそれぞれの教育委員会に任せるべきである.何らかの全国的な基準が必要だとしても,それは,これらの人々や団体の協議によって作られるべきだ.文科省はそのための会議室とコピーの機械を提供するだけでよい.


論点1 指導要領案は国家社会の「形成者」を育成するという観点を欠く

 教育基本法第一条は,教育の目的として,「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して」行うとしている.国家社会の「形成者」という意味は,民主主義の観点からすれば,主権者とほぼ同義であろう.そのための資質としては,投票などの参政権だけでなく,意見表明の権利の自覚と能力,集会・結社の自由,表現の自由などの権利の自覚が重要である.子ども自身についてのこれらの権利は,子どもの権利条約の12条,15条,13条が保障するところであるが,これらは当然教育内容にも反映しなければならない.

 しかるに指導要領案では,もっぱら社会に順応するという側面のみが強調されており,そもそも「権利」という言葉自体がこの文書にほとんど見あたらない(道徳で「公徳心をもって法やきまりを守り,自他の権利を大切にし進んで義務を果たす」で1回,社会では単なる憲法の引用として1回だけ).

 この観点は「社会」の教科でも強調されなければならないはずだが,例えばその第6学年の「目標」にはそれは全く見られず,もっぱら与えられた状況の受容のみが語られている.その第2項を引用する.

 「日常生活における政治の働きと我が国の政治の考え方及び我が国と関係の深い国の生活や国際社会における我が国の役割を理解できるようにし, 平和を願う日本人として世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であることを自覚できるようにする。」

 他の項にも「主権者」という観点は見られない.

 なお,別便の意見で述べたように,そもそも文部科学省にはこのような命令自体を発する権限がないので,提案全体を撤回すべきである.


論点2 「国語」,「社会」および「道徳」の指導要領案が子どもの内心の自由を侵し,違憲である

 指導要領案は,これらの教科で「愛」という個人的,内面的なものに介入するなど,子どもの内心の自由に踏み込んでおり,したがって憲法13条(幸福追求権)と19条に違反している.

 国語では,学年を通じての「指導計画の作成と内容の取扱い」の部分で,例えば「日本人としての自覚をもって国を愛し,国家,社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと」と,倫理的な意味で普遍的なものとは言えない特定の対象への「愛」を強制することにつながりかねない表現が見られる(20ページ).

 社会では,例えば33ページで,「天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること」とあり,ここでは直接的に天皇への「愛」を生徒に強制している.

 道徳では,たとえば106ページで,「すがすがしい心をもつ」とあり,直接的に心のありかたにまで介入している.

 何を愛し何を愛しないかは個人の問題であり,個人の幸福追求の範疇である.「心」のありかたも同様である.これに国家が介入することは憲法13条に違反するので,これらの言葉を強制力を持つ法令に入れるときは,このことに十分な注意が必要である.ところが指導要領案にはそのような配慮は全く見られない.

 なお,別便の意見で述べたように,そもそも文部科学省にはこのような命令自体を発する権限がないので,提案全体を撤回すべきである.


論点3 外国国籍の子どもの存在を無視している

 たとえば第1章「総則」で道徳教育に触れた部分で,「日本人を育成するため」とあり,また108ページ,道徳の第5,第6学年の部分では,「日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める」とある.外国国籍の子どもには指導要領は適用されないのか,あるいはそのような子どもがいる学校ではこの指導要領そのものが無効とされるのか,不明である.

 なお,別便の意見で述べたように,そもそも文部科学省にはこのような命令自体を発する権限がないので,提案全体を撤回すべきである.


論点4 文案作成者の国語力を疑わせる部分がある

第1章「総則」で道徳教育の目標述べた部分を引用する.

道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を継承し,発展させ,個性豊かな文化の創造を図るとともに,公共の精神を尊び,民主的な社会及び国家の発展に努め,進んで平和的な国際社会に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。

この長い文章で,それぞれの要素の係り結びの関係を理解することはおよそ困難である.次のように表記を変え,それぞれの要素に番号を付けて分析し易くしてみる.

 道徳教育は,
 [0]教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,

 [1]人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,
 [2]豊かな心をもち,
 [3]伝統と文化を継承し,発展させ,
 [4]個性豊かな文化の創造を図る
  とともに,
 [5]公共の精神を尊び,
 [6]民主的な社会及び国家の発展に努め,
 [7]進んで平和的な国際社会に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,

 [8]その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。

 項目1から6までが7を修飾して7が8に係るのか[解釈A],1から4までは直接8に係り,5と6が7に係るのか[解釈B],それとも1から7までがすべて並列して8に係るのか[解釈C],この文章の形式だけからは判読不能である.解釈BとCでは8の冒頭の「その」は「それらの」でなければならない.しかしこのことから解釈Aを取れというのであれば,それはあまりに不親切と言うべきである.(項目0は全体の背景を述べた独立したフレーズであろう.)

 このような悪文が教育の現場に,しかも教育の指針として持ち込まれるとすれば重大である.

 なお,別便の意見で述べたように,そもそも文部科学省にはこのような命令自体を発する権限がないので,提案全体を撤回すべきである.

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ましま

TBありがとうごいました。
いちいちごもっともなご指摘で敬服します。大昔、高卒で中学の代用教員になったばかりの頃、年が接近しているので「こうやって教えれば理解しやすい」とはりきっていたのに、校長から指導要綱をわたされ「この通りにやれ」といわれて、がっかりしたことを覚えています。
by ましま (2008-03-18 09:56) 

yamamoto

今回の指導要領案について,当事者である組合がどう対応しているのかと,関係ウェブサイトを見ました.いくつかの地方組織のブログが取り上げているものの,日教組本部のサイトには全く見られず,全教は教文局長談話*という形で取り上げているだけでした.いずれも一般市民に広く呼びかけるという姿勢は全くないようです.
* http://www.zenkyo.biz/html/menu4/mokuji.html
 (↑このページも,新しいものを後ろに持ってくるなど,配列の仕方が変)
by yamamoto (2008-03-20 09:49) 

元京都の教師

 ここに書かれていること大賛成です。別のブログ「教育と労働安全衛生と福祉の事実」作成者に連絡します。引用されたらお許しください。
 教育学者が敗北ばかりのことを書いているのに、先生の論理ある記述は大感動です。
 そのとおり!!学習指導要領は、前から日本文になっていません。さらに、総論と教科の間にはまったく異質の事が書かれています。
 カリキュラムを組むと分かるのですが、自由に授業カリキュラムが組める文面にしながら、まったく不自由にされています。ペテンだらけ、文章になっていない学習指導要領を、また読み間違えて説明する府教委。
 説明している指導主事、あんたが教師の時にそんなのできたかぁ、って詰め寄ったら、「出来ません」の返事。「なら、何でせー言うのや」というと「法律ですから」。法律は、国会でしかつくれないことも知らないのですよ。あほらしくて、あほらしくて、教師につくらせよ、と言いたかったです。
 学習指導要領は、大綱的基準、なんて、もう言えません。教育荒廃を生産して、教師に詰め寄り、真面目な教師ほど精神的ダメージを受けて倒れる。と、メンタルヘルスが、これではダメダと思ってレジストしてきました。
 ILO・ユネスコ「教員の地位に関する協定」いまだ無視している後進国日本を基本から立て直さねばと思っています。
 勇気づけられます。
 
by 元京都の教師 (2011-05-15 01:29) 

yamamoto

古い記事のコメントありがとうございます.
今日の新聞によると,橋下知事が大阪でも日の丸起立を強制しようとしていますね.東京は都教組が抵抗しなかったようですが,大阪はどうなのでしょうか.
by yamamoto (2011-05-15 12:39) 

元教師

コメントをいくつか書きましたが、いくつもエラーになり届きませんでした。
 先生の「古い記事のコメント」の記事が、古くなっていないのが日本の現実で時代が逆送しているように思います。
 日の丸が法制化されたきっかけは、広島の高校校長の日の丸・君が代をめぐる自殺が契機でした。2年後(公務災害申請の期限)遺族の申請した公務災害が認められたことはあまり知られていません。
 橋下知事が「行列の出来る法律……」に出演していた時、彼の労働法の無知ぶりには驚きましたが、人権といいながら、外国籍の人や障害のある人に歌わしたり、起立させる。「一斉」。基本的人権上許されることではあっりません。
 私の居た学校では、教育委員会や管理職の違法を具体的に列挙して、法を守るなら、これも、これも、守りなさいと徹底的に言い、そのことを広めました。
 結果的に式の冒頭では「強いるものではありません。」などのことわりを入れるようなりました。しかし、来賓にきていたすべての政党が、起立し、君が代を歌ったのには驚きました。
 教師・保護者・生徒の中には違う人も多数居ましたが。
 山宣ひとり孤塁を守る だが……
 宇治にある山本宣治の墓の裏に刻まれた文字をいつも思い浮かべています。
 宇治にお越しの時には、一度お尋ねください。
by 元教師 (2011-05-16 14:43) 

元京都の教師

授業の一部です。
 多くの高校に物理実験室にレントゲン装置があり、東北の高校生が先生の操作ミスのため手を被爆した事件があって、京都府立高校で問題にしました。

02年

岩手県北上市の県立黒沢尻北高校で、昨年11月、物理の授業中に担当の男性教諭(37)が3年生の生徒計26人の指にX線を照射し、うち男子生徒1人の指3本が「急性放射線皮膚炎」にかかり、約1カ月のけがを負っていたことが判明。ほかの25人に異常はなかった。昨年11月29日、「物理2」の授業で、封筒に入った硬貨をX線で透視する実験を行った。これで実験を終えるはずだったが、教諭の判断で希望する生徒の指にX線を数秒間照射し、骨格を見たという。教諭が映像モニターを調整したため、男子生徒だけ普通より長い約30秒間、X線を受けた。男子生徒は12月18日になって、指3本が黒ずんではれたと訴え、盛岡市の岩手医大で診察を受けた。当時の校長と教諭が男子生徒の自宅を訪れて謝罪し、同校は男性教諭を厳重注意。佐藤吉弘教頭は「軽率な行為だった。今後このようなことがないよう教員に安全意識の徹底を指導する」としているそうだ。





先生の取り組みに感謝を籠めて。

安全衛生活動
①企業には、労働災害や「職業病」 をなくすだけではをなくすだけではなく、「健康に有害なものから労働者を守り、働くにふさわしい「快適職場環境」をつくる②安全衛生活動を行わなければならない。それらのことを決めている法律が、③労働安全衛生法である。労働安全衛生法では、企業の安全衛生活動をおおまかに④安全管理と⑤衛生管理の二つに分けている。でも、この事のハッキリした区分はない。おまかには、安全管理には⑥物的要因と⑦環境要因と⑧ 人的要因の主な原因があるが、 ⑨救急処置三池災害・CO中毒・JOC放射能被爆)がおくれると、被害が大きく広がる。これを ⑩二次災害といわれている。雪印乳業・ミタードーナツ・グリコ・明治などなどさまざまな大企業が、リストラやもけ第一最優先のためあらゆることをするとして、職場の多くの労働者の切実な「声」を無視・脅かして、⑪安全衛生活動などを切り捨ててきたが、そのことは結局、大企業が積み上げてきた信頼を損ねることになり、大企業の存在そのものが成り立たなくなってきたという状況がある。現代ほど、「安全管理」「衛生管理」「緊急処置」は、それぞれが関連していて⑫切り離して考えてはならない、またそのことを無視、否定することは、⑬自分たちの企業の破滅になるという教訓を学ばなければならない時代はない。
2001年4月23日(月)<JCO臨界事故> 妻の切実な供述調書を読み上げる 水戸地裁(毎日新聞) 「夫はJCOに殺された」――。水戸地裁で23日開かれたJCO臨界事故の初公判で、検察側は死亡した作業員2人の妻による供述調書を証拠として提出し、一部を読み上げた。刻々と近づく死を感じながらの闘病生活、残された子供を育てていくことへの不安、そして会社への不信感。越島建三・前東海事業所長(54)ら被告席に一列に並んだ7人は、終始うつむいたままだった。
 事故当日に現場で作業していた3人のうち、大内久さん(当時35歳)と篠原理人さん(同40歳)は⑭大量の放射線を浴び、急性放射線障害で入院した。
 大内さんは83日後の1999年12月21日に、篠原さんは211日後の2000年4月27日に、それぞれ⑮多臓器不全で死亡した。検察側が読み上げた供述調書によると、事故直後、大内さんと篠原さんはともに意識があったという。大内さんの妻千鶴さん(36)は「チェルノブイリの⑯被ばく者は、のどが渇いたというけれど、本当に渇(かわ)くんだね」という夫の訴えを聞いた。その後、容体は悪化し、つらそうに痛みを訴える。長男(10)の前で涙を流すわけにもいかない。「まぶたも閉じられないのがいたたまれなかった。これから息子を1人で育てていかなくてはいけない。夫はJCOに殺された」。法廷で遺族の心情が読み上げられ、傍聴人たちはじっと聴き入った。 篠原さんの妻幸子さん(42)は「少し顔が赤いくらいで、朝、家を出た時 ⑰変わっていなかった」と感じたという。しかし、容体は次第に悪化。1カ月後の10月末には顔がパンパンにはれて、やがて包帯が巻かれた。大内さんが死亡したことを話すと、篠原さんは「おれもそうなるのかな」と泣いていた。医師から死期が近いことを告げられ、夫の手を握ると、皮膚が硬かった。「そうして、主人は死んだ」。2人が死亡した「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所の臨界(りんかい)事故。だが、被害はそれにとどまらない。⑱住民をはじめ従業員や駆け付けた警察、消防、報道関係者など⑲計666人が被ばくした。茨城県が今月実施した事故後2回目の健康診断は、計268人が受診した。同県ひたちなか市の建設会社員(40)は「将来、何か具体的な影響が出た時、国は健診以外に何をしてくれるのか分からない」と会場で不安を漏らした。
労働安全衛生用語 (安全管理  )(        )(       
問 これからの時代、仕事において、被爆することはあり得ると思うか。
( ない  ある ) 理由→            
by 元京都の教師 (2011-05-16 15:30) 

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