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玄海原発運転差し止め控訴審で意見陳述 [反核・平和]

NHK-Saga.jpg(11/12追記: 「裁判の会」のサイトにこの法廷への提出書面と意見陳述書2件がアップロードされました。)
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今日は福岡高裁での玄海原発運転差し止め控訴審で意見陳述をしました。高裁は、昔、九大教養部があった六本松に最近移転しています。久しぶりの六本松でした。
以下、陳述書の内容です。法廷では、10分に収めるため、「私は原発問題には」で始まる第3段落は読み飛ばしました。他でも少しフレーズを割愛。もう一人の陳述者は唐津市の北川浩一さん。
この法廷については、NHK佐賀と福岡が夕方のニュースで2度放映しました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/saga/20211110/5080010362.html
https://www3.nhk.or.jp/fukuoka-news/20211110/5010013867.html
西日本新聞 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/830086/
佐賀新聞  https://www.saga-s.co.jp/articles/-/767156
毎日新聞(佐賀)https://mainichi.jp/articles/20211111/ddl/k41/040/458000c
読売新聞  https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20211111-OYTNT50038/
1401577.gif12/19追記:ヤフーニュース(「週刊金曜日」と同一記事)
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意見陳述
私は久留米市に住んでいます豊島耕一と申します。私に意見陳述の機会を設けていただいた裁判所に御礼申し上げます。
8年前に退職するまで、佐賀大学で物理学の研究、教育を行ってきました。専門は原子核物理学です。原発は核分裂や放射能の問題では私の専門と関わりが深く、そのため専門的知見も踏まえながら意見を述べたいと思います。
私は原発問題には以前から関心を持っていましたが、1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に、日本でも万一の時の市民レベルでの対処法の知識が不可欠と1989年に同僚と原発事故対策マニュアルを出版しました。福島原発を契機に改訂版を出し、また研究会などを続けてきました。

原子力規制委員会に対する審査請求をめぐって
規制委員会の玄海原発再稼働許可処分に対しては、この「福岡核問題研究会」のメンバー5名で、行政不服審査法に基づいてこれを取り消すよう2017年4月に審査請求を行いました[1]。その過程で、(1)「弁明書」が極めてずさんである、(2)口頭意見陳述会の開催まで3年近くも経過、(3)許可処分の担当庁と審査請求の担当庁とが同じ規制庁に属し、審査の独立性が担保されないなど、多くの問題点が明らかになりました。最終的な結果は今年3月に「棄却」として送付されてきましたが、請求から実に4年近くも経っており、玄海原発の再稼働からすでに3年も経過、文字通りあとの祭りでした。原発事故を受けて改革されたはずの制度ですが、実はまともに機能していないことが明らかになりました。また審査結果の「裁決書」も内容の乏しい形式的なものでした。

未来の三千世代に負の遺産を残し、再生可能エネルギーの発展を妨害
最近は気候変動問題に絡めて、原発が必要ということが言われます。確かに原発の運転自体ではCO2は出ませんが、燃料であるウラン資源は意外と少ないのです。化石燃料の中ではCO2排出が最も少ないとされる天然ガスと比べて、発熱量でその約60%弱しかありません[2]。高速増殖炉によるプルトニウム転換を前提とすれば実質的な資源量はずっと増えますが、しかしこの技術に将来性はありません。
このような少ない資源で仮に100年間を凌いだとしても、その運転で生じる核のゴミを生活圏から隔離し続ける期間は実に10万年以上です。私たちの子孫3千世代にもわたる未来の時代です。資源を使い尽くした後の子孫に残されるのは、この膨大な核のゴミだけです。時間を10万年遡れば、日本列島ではまだ縄文時代も始まっていません。私たちの祖先は決してそのような厄介なものを残してはいません。
この核のゴミ、つまり長寿命の放射性核種は、化学毒物と違って燃焼などでは無害化できず、無理やりやろうとすれば原子核反応による他はありません。一部の学者は高速増殖炉を利用する「消滅処理」を主張しますが[3]、問題の全ての核種が対象になっているわけでもなく、その前提となる高速増殖炉の実用化自体が、すでに述べたように行き詰まっています。
現在、九州電力は玄海原発に乾式貯蔵施設の新設計画を進めていますが、その前提としている将来の運び出し先である青森県の六ヶ所事業所の稼働の目処は立っていません。したがって事実上の永久保管になる可能性がありますが、キャスクと呼ばれる容器がそれに耐えるかどうかは検証されていません。また、青森県に送れば送ったで、再処理が始まれば大量の放射能を環境に放出することになります。「六ヶ所事業所再処理指定申請書」(1989年)によれば、これが本格稼働して計画通り年間800トンの使用済み燃料ウランを処理した場合、例えば、放射性の希ガスであるクリプトン85の年間放出量は、チェルノブイリ事故での同じ核種の放出量の10倍にもなります[4]。高い煙突から放出されることになっていますが、それでも風下の住民には被ばくを及ぼします。
原発1基が1日稼働すれば広島原爆4個分強の放射能が作られます。この処理不能の危険物を増やさないためには1日も早く原発を止めるしかありません。
原発と気候変動問題との関連では、原発が後者の解決に寄与するどころか、むしろ再生可能エネルギーの発展を阻害しているという事実にも注目すべきです。太陽光発電の導入が目覚ましい九州本土エリアにおいては特に顕著で、2018年10月以降、原発優先のため太陽光発電の出力抑制が実施され、拡大しています。その日数も2018年度の26日から、2019年度は74日に3倍増、2020年3月には月の半分、15日間も出力抑制が行われ、この月の出力抑制率はこれまでで最高の12.6%に達したとのことです。風力発電でも同様の傾向があります[5]。

現実の健康被害の疑いートリチウム放出と白血病の多発
次に、原発の運転が実際に周辺住民の健康被害を起こしている疑いについて述べます。玄海原発の運転時に必ず外部に放出される放射能にトリチウムがあります。九電の発表によれば、福島原発事故を契機に停止する2012年までの11年間で累積826兆ベクレルを環境に放出しています(再稼働後、この放出も再開)。これは全国の原発の中でも最大で、福島原発事故の汚染水タンクにある817兆ベクレル(2014年東電説明)を上回ります。
元純真短期大学講師の森永徹氏による、厚労省「人口動態統計」による佐賀県内20自治体についての調査によると[6]、白血病死亡率は玄海原発に近いほど、また原発の稼働の前後では稼働後が、いずれも有意に高くなっています。つまり、玄海原発が白血病多発の原因である疑いがあります。玄海町は1973年から2010年の間、原発3キロ圏内の玄海町など近隣地域で住民検診を実施しました。住民らの再三の要求にも関わらず、その結果は秘密にされています。
トリチウムは低いエネルギーのベータ線を出し、ガンマ線は出しませんので、内部被曝が問題になります。化学的には水素と同じなので、水分子になり人体内に入ります。有機物分子との間で水素の入れ替わりが起これば、DNAなどの重要分子に組み込まれるでしょう。ベータ線のエネルギーが低いことから、ベクレルあたりの線量(吸収線量)は小さくなるため軽視されがちですが、実はこのエネルギーが低いことが逆に、生物的効果を高めてしまう可能性があります。欧州放射線リスク委員会(ECRR)の2010年勧告には「元素転換効果」と、(同一細胞内での)「2ヒット効果」についての記述があります。元素転換、つまり化学的には水素であるトリチウムがベータ線を出してヘリウムに変わる、そうするとこれを含んだDNAが傷つきますが、同時に、出たベータ線のエネルギーがまさに低いことによって、同一の細胞内でのダメージがより起こりやすくなります[7]。まさに2ヒット効果です。主流のICRPのリスク評価はこの効果を取り入れていません。ちなみにECRR勧告に関しては、福島原発事故後の原子力規制委員会設置法制定の際の参議院附帯決議は、放射線の人体影響の評価についてこの勧告の尊重も謳っています。先に述べた玄海町による住民検診結果は、このようなトリチウムのリスクについても重要なデータとなりうるので、1日も早く公表すべきです。

以上、あらゆる点で原発の稼働は不適切、不道徳です。はじめに規制委員会とのやりとりに触れましたが、原発事故を契機に刷新されたはずのこの機関もまともに機能してはいません。住民の、そして私たちの子孫の安全を担保する最後の砦は裁判所です。どうか賢明な判断をお願いします。
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[1]意見陳述会の詳細は「福岡核問題研究会」,「さよなら原発佐賀連絡所」のサイトにあります.
http://jsafukuoka.web.fc2.com/Nukes/kikaku/files/b1a1987aa02c664a3427bdca57d1779b-114.html
https://byenukes-saga.blog.ss-blog.jp/2020-02-11
[2]天然ガスは日本ガス協会のデータ.HOME>天然ガスの特徴・種類>天然ガスの資源量
https://www.gas.or.jp/tokucho/shigen/
ウランは日本原子力産業協会によるOECD, NEA, IAEA, 2020年12月発表の引用.
https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2021/02/uranium_2020
[3]東工大,千葉敏氏ら,2020年
https://www.titech.ac.jp/news/2020/046068
[4]筆者ブログ2006年4月1日付. https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2006-04-01
[5]九州電力の自然エネルギー出力抑制への9の提言〜「抑制のための抑制」から「自然エネルギー拡大のための抑制」へ〜2020年10月5日認定NPO法人環境エネルギー政策研究所
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210817/210817energy14.pdf
[6]第56回日本社会医学会総会,2015年7月25・26日,於・久留米大学医学部
[7]ベータ線など荷電粒子ではそのエネルギーが低いほど物質中に作るイオンの密度が大きい.つまり「出発点」でのイオンの密度はエネルギーの高いベータ線の場合よりも大きくなる.

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