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軍事研究問題での学術会議の報告案 [仕事とその周辺]

1401577.gif2018/4//5追記:"Science and Technology Ethics"からの引用を別記事で追加
3/10追記:“Science and the Military”からの引用英文の和訳を掲載(末尾).
3/19追記:今度の日曜,軍学共同問題で大分で話をする機会をいただきました.大分ホルトホール15時から.
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軍事研究問題での学術会議の報告案が公表され,7の新聞紙面で報道されました(毎日しんぶん赤旗).
原文は学術会議のサイトにあります.
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/pdf23/anzenhosyo-siryo11-1.pdf
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/pdf23/anzenhosyo-siryo11-2.pdf
(これらがリンクされている「安全保障と学術に関する検討委員会」ページ)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/anzenhosyo.html

内容ですが,「今度の総会で解禁だろう」という見方もあっただけに,ぎりぎり踏みとどまったという感じです.多くの方々の努力のおかげだと思います.ただ,問題点もいくつか感じます.応援のクリック歓迎

まず表題の「軍事的安全保障研究」という言葉が問題です.ここでなぜ新語を作る必要があったのでしょうか?英語には何と訳すのでしょうか,

「軍事研究」が包括的な意味を持つのに対して,「軍事的安全保障研究」では対象となる範囲が非常に(むしろ主観的にと言うべきでしょうか)限定されます.例えば,軍事研究の最右翼である兵器研究や軍事技術研究は,商品としての武器の生産,そして公式,非公式ルートでの流通へとつながります.これは国家の(つまり自国の?)(軍事的)「安全保障研究」の視野の外になります.

つまりこの新語は,「軍事研究」が「安全保障研究」の一部であるという思い込みを醸成し,前者への心理的抵抗を弱める作用があります.「デュアル・ユース」というカタカナ英語と同じ役割です.

また,この文書は「軍事的安全保障研究」を明確に否定していません.これは九条の暗黙の「解釈改憲」と言えるでしょう.

またこの報告案は,軍事研究にコミットしない,ないし慎重であるべき,という,言わば消極的否定論にとどまっていることも問題です.まさに5のマル3で述べているように,「科学者の研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、場合によっては 攻撃的な目的のためにも使用されうる」のです.いや,「されうる」どころか,現に使用されているのです.これに対して,ただ「自分たちはそれにコミットしない」というだけで,つまり「いま使用されていることについては知りません」ということで倫理的,道徳的に十分な態度と言えるでしょうか.もちろんそんなはずはありません.これに対して,これをやめさせる「行動」を取ることも含まれるべきだと思います(追記参照).

ぎりぎり踏みとどまったのだから,せいぜいこれより後退しないようにすることが精々で,それ以上は無理だろう,などと「忖度」することこそが,むしろ後退を許してしまうことにつながるでしょう.また科学技術の軍事利用が大手を振ってまかり通る現状に見合う,九条原理主義からの(左翼にも見られる解釈改憲論からではなく),50年声明,67年声明の発展,強化の方向を主張すべきだと思います.

108387685.jpegある科学技術倫理の教科書"Science and Technology Ethics"は,すでに行われている科学技術の軍事利用を廃止させあるいはこれから新しく生まれるかも知れない技術の利用をあらかじめ抑止するための,科学者の責任,役割について述べています.
Raymond E. Spier, Science and Technology Ethics, 2002

その第10章,“Science and the Military”から,209ページから210ページにかけての該当部分を引用します.(後ほど訳も掲載する予定→1401577.gif掲示しました.末尾参照)
Since recrimination over the past is not particularly fruitful we can ask about the ethical responsibilities of scientists in the present and future. What can we do to prevent the use of the formidable weapons that the world now has at its disposal? What can be done to prevent the science of the future being directed to producing new weapons yet undreamed of? Although all citizens have responsibilities in these matters, scientists have a special role for a variety of reasons which it is worth spelling out in detail.

• Since science provided the essential basis for modern weapons, scientists collectively have a special responsibility to prevent their use.
• Scientists have the knowledge and authority to explain to the public at large the enormous destructive power of modern weapons.
• When agreements to monitor, reduce or dismantle arsenals are being developed and implemented, scientists have the technical expertise to advise and assist.
• Scientists are in the best position to forecast possible military applications of new scien tific discoveries.
• Scientists worldwide form a natural fraternity that transcends national boundaries and can be used to advocate rational policies.

At the present time international conventions have been agreed that ban chemical and biological weapons and scientists have been actively involved in the detailed specification of these conventions. Although progress is being made with nuclear weapons they remain the biggest threat to the future of mankind, so I shall devote some time to discussing the present position.
いま学術会議には,しかも九条を持つ国の組織としては,このような積極的姿勢こそが求められているのではないでしょうか.応援のクリック歓迎
1401577.gif上記英文の訳です.
過去のことを非難しても生産的ではないので,われわれは現在と未来における科学者の倫理的責任について問うことにする.世界が自由に使えるように持っている恐るべき諸々の兵器の使用を防ぐために,われわれは何が出来るのか?いま想像もできないような新兵器の生産に未来の科学が動員されるのを防ぐために,何がなされ得るのか?すべての市民がこの問題に責任を負っているが,科学者たちは,詳しく述べられるべき様々な理由から特別な役割を持っている.

・ 科学は現代の兵器の重要な基礎を与えたゆえに,科学者たちはその使用を抑止する特別の責任を集団的に負っている.
・ 科学者たちは,現代兵器の巨大な破壊力を一般大衆に説明するための知識と権威とを持っている.
・ 諸兵器の監視,削減,解体の合意が進展し実施された際,科学者は助言や協力ができる技術的専門知識を持っている.
・ 科学者は,新しい科学上の発見の軍事応用の可能性を予見するのに最適のポジションにいる.
・ 世界的中の科学者は,国境の壁を越える自然発生的な仲間意識を共有しており,それは合理的な政策を擁護するために有用である.

現在の時点で,化学兵器禁止,生物兵器禁止の国際協定が合意されており,科学者たちはこれらの協定の詳細事項の決定に積極的に関与している.核兵器に関しても進展が見られるもののこれは未だに人類の未来にとっての最大の脅威であり,現在の状況についていくらか議論してみよう.

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