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九条護憲運動の弱点 [憲法・教育基本法]

1401577.gif末尾に追記 あり
参院選の結果を要約すると,(1)自民党の勝利,(2)共産党の躍進,(3)山本太郎当選に見られる若者の政治参加の新しい兆候,という3点になるだろう.
1は予想されたこととは言え,少なくともこれからの3年間は,改憲や日本社会の決定的な右傾化というクリティカルな状況が続く.護憲派・左翼はこれにどう立ち向かうべきか,特に九条問題について私見を述べる.

九条改憲に対する反撃のポイントとしては,例えばイマヌエル・カントの「永遠平和のために」の第三条項*にあるような大局的,原則的な擁護論**がもちろん重要だが,これとともに,最ももてはやされる各論の一つ「それでももし攻められたらどうするのか?」という問いへのダイレクトな回答の用意が極めて重要だ.これについての私の答えは「代替防衛」つまり組織化された非暴力抵抗による国家防衛である.(詳細は次を参照下さい:「憲法九条下での国防」

「外国から攻められた時に備えて武力が必要」という理屈は単純なだけに強力な浸透力を持つ.「外国からの武力侵略など起こり得ない」とか,「そうならないような外交努力が重要だ」というのは,直接の答えではもちろんなく,むしろ問いかけからの「逃げ」である.ここが現在の護憲派の最大の弱点と言える.「代替防衛」の理論を作り上げると共に,この言葉の広範な流布が重要である.「自衛隊」の語と同等の流通を目標とすべきだ.

さらに,「護憲」に加えて,当ブログのスローガンでもある「効憲」,つまり,事実上ほとんど改憲されてしまっている九条を「実施」させる,enforceする行動を強調すべきだ.国際貢献分野でのこの実践としては,非暴力平和隊がある.もちろん自衛隊への規制,基地問題など,国内での「効憲」のウェイトが重視されなければならない.
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尖閣問題にしても,資源問題が絡むとしてもこれで戦争を始めるなどということ,つまりこの小さな島のために日中両国の多くの人々の命をかけるということが,倫理的にはもちろんのこと,深く結びついた日中間の経済を考えれば,金銭的な損得の面でも,ワリに合う話でないことはだれでもすぐ分かる.しかしプロパガンダによってナショナリズムに冒された頭にはそのような常識が通じないのだろう.昨日,NHKの半藤一利・宮崎駿の対談番組で,半藤氏が尖閣問題に触れ「棚上げ論」を支持したが,同じことを鳩山由紀夫氏が中国で述べたとき,これに対する非難や攻撃は右派からだけではなかった.これは相当危険な兆候だと思われる.

軍事衝突がだれの得にもならないというのは不正確で,もちろん軍事産業セクタに取っては利益につながる基本的なイベントである.したがってこの産業セクタや資本家,さらにはおそらくその背後にある金融資本は,その「マーケティング活動」として,改憲や他国の軍事的脅威を煽るキャンペーンに手を染めないはずはないだろう.アイゼンハワーの有名な「軍産複合体演説」(→全文日本語訳)の普及も重要だ.

追記(8月11日)
(コメントに触発されて,その欄と同じ内容を追記します.)
もともと日本がまいた種とはいいながら,沖縄県は(程度の差はあれ日本の他の地域も)アメリカに「攻められてしまった」状態にあります.これに対する「国防」の手段としても「代替防衛」が有効だと思われます.いや,それしか方法はないでしょう.

自衛隊に米軍追い出しの戦争を期待するのはファンタジーの世界ですし,かと言って民兵組織を作って米軍と渡り合えるわけもない.また,選挙や署名,集会・デモだけでは,いっこうに埒があかない.それもそのはず,日本は事実上アメリカの支配下にある,半ば占領された状態にあるからです.これで穏便な,行儀のよい手法で「国防」は達成できません.つまり,昨年の普天間基地ゲート全面封鎖のような非暴力直接行動こそがカギなのです.そしてそれはまさに明日(8月11日現在)再び始まろうとしているのです.

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* カント「永遠平和のために」の第三条項「常備軍は時とともに全廃されなければならない.」
この本と,その中のきわめて現実的な提案が公にされてすでに200年という十分すぎる長い時間が経っている.
http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2007-05-05

** 大局論,原則論に役立つ数学的考察:「攻められる」ことと「攻める」こととの等確率性
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バッジ@ネオ・トロツキスト

先生、宇宙人来襲説的な抽象論はもう、いい加減に止めませんか?
歴代の防衛白書も原発攻撃を想定しないぐらいのものでしかなかったんですから、自衛隊活用論を言い出した不破氏みたいに「万が一」の土俵に乗せられない方が良いと思いますよ。「今日の脅威」は、むしろサイバーテロなんかじゃないでしょうかね。

いづれにせよ、武力自衛主義はすでに破綻しています。
キッシンジャーたち「四賢人」が通常兵器の廃絶ではなく、核兵器の廃絶を言いだしたのは、核を含む軍事力を自衛手段としては見切ったプラグマティストの彼らが、他国攻撃手段として通常兵器に固執しているからだけですよ。
核抑止は失効したと考えたが、軍事介入の選択は残した、ということ。

9条護憲派の盲点は、ラジカルな現実把握の無能、そう、武力自衛政策の破綻にほとんど無自覚なことです。
弁証法を振り回すマルクス派左翼も、「軍国主義滅亡の弁証法」の今日的展開をさっぱり理解しない、サビた現実感覚しかもっていないんですね。
このことを力説していたのが天才素人哲学者・永井潔氏です。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-05 20:53) 

yamamoto

「宇宙人来襲説的な抽象論」とは心外ですが・・・.どこがそうですか?議論が噛み合っていないように思います.
by yamamoto (2013-08-06 02:00) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

宇宙人来襲説が抽象的であるというのは、宇宙人の来襲の可能性を否定したいがためだけではなく、仮に宇宙人の来襲を想定しても、否、それを想定すればするほど、武力自衛政策は無力な幻想に過ぎない、ということです。

20世紀型マルクス派は、生産力の発展がやがて既存の生産関係と適合しなくなることは教条暗記的に口にしますが、軍事や平和の問題でもこういう見地を維持し、今日的な理論的展開努力をしていません。

生活手段の社会化(それは、根底で労働の社会化による生産力の発展が産出・規定している)は、武力自衛という従来の安全政策を過去の遺物にする、ということです。
その最近の一例が、サイバーテロ、サイバー攻撃に対する軍事力の無力化です。

by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-06 10:13) 

宗純

今回はブログ主には悪いが、宇宙人来襲説に座布団一枚。
『「外国から攻められた時に備えて武力が必要」という理屈は単純なだけに強力な浸透力を持つ』とは、バルタン星人が攻めて来る話と紙一重。
日本国に限っては現実離れしていてリアリティーが不足しています。
地続きの欧州諸国とは大違いで、日本は大陸とは200キロも離れた攻めるに難しく守るに易い天然の要害の地ですよ。
有史以来日本が外国から攻められたのは元寇と第二次世界大戦だけ。しかも戦場となったのは福岡周辺と硫黄島と沖縄だけ、他の本土はまったく外国に攻められていない。狭い範囲で、2回だけの例外なのです。
しかも700年前は元の使者を幕府が不用意に殺害したから戦争が起き、70年前の戦争は真珠湾を日本が奇襲攻撃したからで、どちらも開戦は日本側の責任が大きい。
対馬の宗氏とか琉球王朝のような外交力が、中央政府にあれば、何れも戦争を防げた可能性が高いのです。
そもそも外国が攻めて来るとして国家の武装を主張するなら、理論上はアメリカのように個人の武装も必要です。
日本国のように、安全の為の国家の武装を主張して、個人の武装を否定しては自助努力の『自主防衛』の論理が破綻しています。
国家の武装と個人の武装。片一方が正しいならもう一方も正しい。
間違っていれば、同じ原理で二つとも間違っています。
by 宗純 (2013-08-08 15:59) 

yamamoto

論理的,合理的説得力があるという意味ではなく,大衆への浸透力,影響力があるという意味です.私はあまり見ませんが,テレビの俗悪政治番組ではこの種の言説がまかり通っているのではないでしょうか.これを軽視してはいけないということです.
地上軍による侵攻はともかく,ミサイル攻撃は理論上はあり得るわけです.この脅威論に対する左派の反撃も弱いために,各地にPAC-3が易々と配備されています.
また,もともと日本がまいた種とはいいながら,沖縄県は(程度の差はあれ日本たの地域も)アメリカに「攻められてしまった」状態にあるのです.
by yamamoto (2013-08-08 16:59) 

宗純

「外国から攻められた時に備えて武力が必要」ですが、これは崩壊したソ連の考え方ですね。
この考え方は、ソ連に限らず地続きの欧州諸国では一般的で、それ程珍しくない。
日本列島では有史以来『日本』一つしかないので、『国家は永遠なり』と勘違いする人が大勢居るが、
欧州は大違いで、『国家』は出来たり潰れたり合併したり名前を変えたりと、離合集散を繰り返す今の日本の『政党』と同じようなものだと歴史の経験で知っている。
ソ連は2000万人が死んだ第二次世界大戦の経験から『外国から攻められた時に備えて武力が必要』という考えが上は国家元首から下は庶民の一人一人にまで浸透していて、国民的コンセンサスなので国力の殆どを傾けて国防に励んだが、米国とは基礎となる力量が違いすぎた。
冷戦下では相互確証破壊が米ソの安全保障の基礎だったが、とんでもなく国力を浪費する。
相互確証破壊とは、「外国から攻められた時に備えて武力が必要」という考え方を戦略理論として確立にしたもので、
相手の奇襲攻撃での破壊に耐えて、敵方の戦力を完全に無力化するだけの軍事力を常時準備するとの、恐るべき戦略理論なのです。
相手と同等程度の戦力では、真珠湾とか第三次中東戦争のような奇襲攻撃を受けると不利になるので、『「外国から攻められた時に備えて武力が必要』が正しいと、必然的に『圧倒的な軍事優位が必要』とのとんでもないことになるのです。
ソ連ですが国力が圧倒的に差がある米国と際限無い軍拡競争を繰り広げて、最後には崩壊する。
冷静に考えれば、これは当然ですね。
素朴な「外国から攻められた時に備えて武力が必要」という考え方は一見すると間違いで無いように思えても、
理論的には『相互確証破壊』戦略のことなのです。
必ず最後には破綻する。
この相互確証破壊戦略を打ち立てたアメリカのマクナマラ国防長官は、後にこの戦略の持つ危険性と間違いに気が付き、修正しようとしたが時既に遅し。
アメリカの軍産複合体にとっての『公共事業』として広く定着していたのです。
by 宗純 (2013-08-09 10:24) 

宗純

『大衆への浸透力,影響力がある』は、
仰られるとおりなのですが、それは今の日本が『それだけ病的に右傾化している』確かな証拠ですよ。
そして左翼護憲派は何か勘違いしているらしいのですが、右翼は頭が空っぽで目が節穴なので、自分が論争で必ず勝てると信じているらしいのですが勘違いですね。
『ミサイル攻撃は理論上はあり得るわけです』とか『外国から攻められた時に』云々では護憲左翼は勝てません。
負けます。
論理的な思考が苦手な阿呆なネットウョですが、これ等の特殊な分野だけに特化して日夜論争の修練を行っているのですよ。(西尾とか西部などの右翼論客のネタ本で特訓しているのです)
囲碁の名人でも五目並べで必ず勝てるとは限らない。そもそものルールが違っているので連珠の達人には負けると心得るべきでしょう。
彼等の言っているのは宇宙戦艦ヤマトでガミラスが遊星爆弾で地球を攻撃する話の水準ですよ。
彼等の蛸壺的な発想ではなく、『「攻められる」ことと「攻める」こととの等確率性 』のような、大所高所からの発想が必要でしょう。
戦争を是とするネットウョの土俵の上では、戦争を絶対悪と否定する護憲派の論理では罵倒合戦とか、泥仕合がせいぜいです。
by 宗純 (2013-08-09 13:42) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

>ミサイル攻撃は理論上はあり得るわけです.この脅威論に対する左派の反撃も弱いために,各地にPAC-3が易々と配備されています.

先生も人が善い方ですね。
上記パラグラフは、当方には全く意味不明ですよ。
まず、歴代の自民党政府は、原発へのミサイル攻撃さえ想定せずに他国の脅威を煽り立てていたのですよ!
そんなことは共産党は百も承知していた。だから、いわば一笑にふしていた。
次に、PAC-3の導入・配備も、軍事的な理由付けは単なる偽装ですよ。そこを見抜くこと。あれは、レーガンのスターウォーズ計画の劣化コピーでしかありません。

社会事象の把握に際しては、観点の設定や因果関係づけを恣意化しないようにご注意ください。
さすれば「反論」など、いともた容易いことでしょう。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-10 10:03) 

yamamoto

お二人の議論を読んでも,「攻められたらどうするか」という質問に対する,“ダイレクトな”対抗言説,対抗理論の 不必要性 というのがどうしても理解出来ません.

上で,現に「アメリカに『攻められてしまった』状態にある」 と書きましたが,考えてみると,これに対する「国防」の手段としても「代替防衛」が有効だと思われます.いや,それしか方法はないでしょう.

自衛隊が米軍追い出しの戦争を始めると言うのはファンタジーの世界ですし,かと言って民兵組織を作って米軍と渡り合えるわけもない.また,選挙や署名,集会・デモだけでは,いっこうに埒が空かない.それもそのはず,日本は事実上アメリカの支配下にある,半ば占領された状態にあるからです.これで公平な,行儀のよい手法で「国防」は達成できません.つまり,昨年の普天間基地ゲート全面封鎖のような非暴力直接行動こそがカギなのです.
by yamamoto (2013-08-11 17:45) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

>つまり,昨年の普天間基地ゲート全面封鎖のような非暴力直接行動こそがカギなのです.

それでいったいどうやって9.11型非対称戦(=非国家型テロ)やサイバー攻撃を防げると仰るのですか?w

by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-11 20:18) 

yamamoto

「代替防衛」は,もちろんテロやサイバー攻撃を対象にしたものではありません.それは国家の警察力による,ということです.九条に違反することはないでしょう.
by yamamoto (2013-08-11 20:29) 

宗純

『お二人の議論を』などと、まったく違うものを混同しては不味いでしょう。心外です。
私の主張の骨子は、極単純ですよ。
一番最初にコメントした
『日本国のように、安全の為の国家の武装を主張して、個人の武装を否定しては自助努力の『自主防衛』の論理が破綻しています。
国家の武装と個人の武装。片一方が正しいならもう一方も正しい。
間違っていれば、同じ原理で二つとも間違っています。』
アメリカは国家と個人と両方の武装を主張しているので論理的な総合性がある。
日本国憲法も 国家と個人の両方の武装を禁止しているので、論理的に総合性がある。
ところが今回の話は個人の武装を禁じて、国家の武装をするなので、論理として破綻している。
武装して『安全を守る』が、正しいか。あるいは間違っているか。
何れにしろ論理を、どちらか一つに統一する必要性があるのですね。
ところが日本の防衛論では、この視点が欠落していいるのです。
by 宗純 (2013-08-12 11:53) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

私は、武装自衛が「正しい」かどうか以前に唯物論者ならその有効性の破綻をこそ直視せよ!という立場です。
かつて有効であった(だからまた正当化もされた)方法が、人類社会の歴史的変化・発展の中で無効化する(したがってまた正当性を喪失する)ということは、事物を固定的に見ない、意識や政治・軍事政策などを被規定的なものとみなす弁証法的唯物論の立場に立つ人にとってはイロハのイでしょう。アメリカの銃規制なども、この系論です。

サイバー攻撃やテロなどの非対称戦への対応を警察力に押しつけるならば、対称戦への対応を外交力に任せても全く不思議ではありません。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-13 10:37) 

yamamoto

「現代における人権と平和の法的探求」という,2011年に刊行された本の一節に次のような記述があります.

「戦後日本では,平和問題がもっぱら憲法論(解釈論,改正論,擁護論)になってしまい,日米安保体制にとって代わる平和・安全保障の構想や政策を打ち出して,主権者,市民がそれを実現していくことが不十分であった.たとえば,非暴力防衛,市民的防衛(civilin-based defense)の構想は9条下の日本において最も適合的であるが,これは日本国民の関心を集めなかった.」(君島東彦,181ページ)
これは,本記事の問題意識と共通するものだと思いました.
しかしこの本は5千円以上もするので,新書判など広く普及出来る書籍の中で,このような議論を流布してもらいたいものです.
by yamamoto (2013-09-14 11:12) 

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