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風立ちぬ [メディア・出版・アート]

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horikoshikayo.jpg宮崎駿監督の「風立ちぬ」,とてもいい映画だ.ゼロ戦の設計者が主人公と言うとナショナリストや右派が喜びそうだが,そういう内容ではなく,むしろ非戦のメッセージが随所に込められている.ただ,いわば技術至上主義のような,技術者はその技術の目的が何であれそれを追求するしかないという,「一義的な」価値観が見られるのも確かで,これはどうかと思う.(宮崎監督は日経新聞7月27日の記事で,「職業人というのはその職業の中で精いっぱいやるしかないんだ」と述べている.)

映画の背景となった社会状況の中で,航空機という分野の技術者がその技量を実現するには,カネを支配するもの,権力を持つもの,つまり当時の軍部に,多かれ少なかれ従わざるを得ない.文学者が紙と鉛筆があれば作品が作れるのとは大きく違うだろう.技術者だけでなく科学者も同じ状況に置かれた.朝永振一郎も原爆開発やレーダーの開発に携わった.

しかし,目的の悪辣さを見抜いて,関わりを毅然と拒否した科学者も,歴史上には少ないながら存在する.核分裂の発見者*であるリーゼ・マイトナーはその一人だ.ユダヤ人としてドイツを追われ,スウェーデンで不遇な亡命生活を送っていたとき,アメリカでの原爆開発計画への参加のオファーを受けた.研究上も経済的にも有利なオファーであったにも関わらず,彼女は「私は爆弾には関わらない」と断った.また,いったんこのプロジェクトに加わったイギリスの物理学者ジョセフ・ロートブラットは,ナチス・ドイツが原爆開発の能力がないことが明かになると,離脱して帰国した.

1401577.gif追記:今日の倫理性を過去に遡及して求めることはもちろん出来ないが,現代の科学技術倫理の教科書では,倫理に反する業務は「不服従」によって拒否すべき場合もある,と書かれている.(当ブログ記事「『大学のミッション』考察のために」の該当パラグラフ参照)
関連記事:「不服従」という語の認知度
「凡庸な悪」という言葉に市民権を与えた映画「ハンナ・アーレント」
「不服従」による正義実践のモデル,杉原千畝
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* オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンが実験室で,マイトナーはスウェーデンで手紙で参加.
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バッジ@ネオ・トロツキスト

>「職業人というのはその職業の中で精いっぱいやるしかないんだ」

はははは、これじゃ現在の吉良よし子や小出裕章も生まれなかったwwwww
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-07-31 10:11) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

それにしても、この伝で行くと、奴隷は奴隷制度を、賃労働者は賃労働の経済システムを、撤廃するために立ち上がってはいけないことになる。
宮崎のこういう保守主義・現状追従的人生観は、いったいどこから生まれたのであろうか?

さらに厳しく論難すれば、彼のこういう処世訓は、本来、芸術家の人生観や創作目的とは整合しないように思える。
真の芸術的行為とは、「かくあるべき世界」の描出ではなかったのか?
本物の芸術が鑑賞者にもたらすカタルシスとは、そういうものに触れることによってはじめて生まれる結果のはずであろう。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2013-08-09 15:11) 

椽袁造

豊島さん、しっかりして下さい!
「非戦」のメッセージをちりばめられていれば軍事協力も問題ないことになるのでしょうか?

ダイナマイトという必ずしも軍事専用のものでなくても、ノーベルは責任を感じたわけです。戦闘機という形をとったものでも、民需に転用できる筈だからと正当化したとしたら、これは鈍さというより、誤摩化しと言うべきではないでしょうか。

また、「紙と鉛筆があれば作品を作れる」としても食べては行けません。食べて行けないなら節を曲げても良いことになるのか? 

その職業を続ければ食べて行けるとしても、そうすれば節を曲げることになる時には、その職業を捨てて他の道で食べて行くことを多くの人が選んでいます(例えば服部之総)。なまじ「職業人としての誇り」などがある者に限って、節を曲げてまでもその職業にしがみつき、戦争に協力して行く。そんなときに、「非戦」のメッセージが優しく後ろめたさを癒してくれる。

一人のスノーデンも出てこない日本社会では、零戦でなくても日々やばいことに係わり合っている「職業人」(という野蛮人@オルテガ)ばかりで、それが宮崎「反戦」が受ける理由なのかもしれません。

http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20130818
by 椽袁造 (2013-08-25 10:18) 

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