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「さよなら原発 大牟田市民のつどい」に参加 [社会]

昨日、12年目の「3・11」は、佐賀での昼のスタンディングの後、大牟田の集会でのスピーチと、イベントを二つ「はしご」しました。後者でのスピーチ原稿をこちらにアップロードします。(参加者全員に配布されましたが、僅かな字句修正と、注の追加をしています。20分という長さの関係で省略したり、またアドリブで加えたこともあります。)

大牟田の集会、話を始めると、何となく不安で、やりにくいという感覚があったのですが、理由が今になって分かりました。静かに熱心に聴いていただいているのは分かったのですが、参加者のほぼ全員がマスクをしているためほとんど顔の表情が読めず、聴衆の反応を感じ取りにくかったためと思われます。「リアル」の集会(この言葉そのものが新語ですね)での長いスピーチも何年もなく、これも久しぶりでした。聴いていただいた皆さん、お世話いただいた皆さん、どうもありがとうございました。(主催者から提供いただいた写真)
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会場の築町公園の近くに、3・11震災・原発災害の避難者支援の拠点として発足したNPO法人「つなぎteおおむた」の事務所があり、同日夕方に開かれた「キャンドルナイト」では、そこからの差し入れの「芋煮」(こちらのダゴ汁)を美味しくいただきました。

以下、スピーチ原稿です。

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岸田首相の原発回帰策は温暖化対策への妨害
             豊島耕一(元佐賀大学・理工・物理)
岸田内閣の原発回帰
昨年夏に岸田内閣が原発回帰、老朽原発の運転期間の野放図な延長を言い出してから、政府は福島原発事故を忘れたかのような流れになっています。岸田首相は原発の安全審査などで原発が止まった期間を運転期間から差し引くことで、実質的に“60年超”運転を可能にする方針を2月10日に閣議決定しました。それを2月13日に規制委員会が承認してしまいました。しかし全員一致ではなく、一人の委員が反対、「多数決」での決定となりました。

もともと原発の運転期間は、福島原発事故の後の2012年の原子炉等規制法改正で、上限40年、1回に限り最大20年延長可能と決められていました。これを、あからさまに変更するのではなく − その意図も残っているかも知れませんが − 審査などでの停止期間をカウントしないという、いわば裏技で法律の縛りを抜けようとしたわけです。

そもそも40年という縛りが標準であって、延長は例外的なものです。それがさらに脱法的に延ばされるのですから、政策決定者はもはや思考能力さえ失っているとしか思えません。

老朽原発といえば、玄海1号機と2号機はすでに廃炉になりましたが、これらは本来の運転期間40年を半年から1年残すだけの、規則どおりの期間内の廃炉でした。福島原発事故を受けて、プルサーマルの3、4号機の危険性とともに、老朽の1、2号機の安全性が問題になりました。長く中性子を浴び続けた鉄が脆く割れやすくなることによる、圧力容器の「脆性破壊」の危険が特に問題となり、私も加わっている佐賀の脱原発運動は、東京から専門家である井野博満東大名誉教授に県議会に参考人として推薦[1]、意見を述べてもらうなど、様々な努力をしました。私も、「1号機の原子炉容器がいつのまにかセトモノになる」と書いて佐賀新聞に投書しました[2]。(実ははじめ、「有田焼になる」と書いていたのですが、地元産業を悪い例えに使うのはよくない,との新聞側の意見に納得して修正しました。)九電は運転延長をしたかったようですが、結局2015年3月18日に1号機の、そしてその4年後の2019年2月13日に2号機の廃炉を決めました。今回の60年超とは、この玄海1、2号機よりもさらに20年以上老朽化した原発、ゾンビ原発を、日本中に作ってしまうということです。

今回の、2月13日規制委員会での、メディアに異例と評された多数決による決定は、脱原発運動の仲間が会議室の内と外での抗議行動の中で行われました。文書を直接委員会に提出したり、2月9日の会議の際には傍聴者が「不規則発言」をしていますが、それがメンバーに勇気を与え、石渡委員が最後まで反対を貫くことを支えたのかも知れません。「市民的抵抗」の意味を物語っているように思います。

原発は気候危機対策どころか、妨害
今度の岸田内閣の原発回帰策は”GX”つまり「グリーン・トランスフーメーション」と称して脱炭素を銘打っていますが、しかし到底その役に立つものではなく、逆に無駄な投資、技術や労力を無駄に使って、むしろ脱炭素への努力を妨げるものです。

ドイツ、フランスなどの西欧諸国と違って、福島原発事故を経た日本の原子力への依存度は、その唯一の用途である電力でも5.9%に過ぎず(2021年)[3]、一次エネルギーに占める割合はわずか2.8%しかありません。原発の新設などでこれを有意な割合に上げるのは容易ではなく、莫大な投資と、計画から稼働まで20年もかかり(日本政府の2011年時点の見積り)、切迫する気候危機には全く間に合いません。

その、原発新設の目玉にしたいのはいわゆる「次世代革新炉」ですが、このネタもとは恐らく三菱重工の「革新軽水炉 SRZ-1200」というもので、同社のサイトにあります。その主な特徴は、福島原発事故のような炉心溶融が起きた時の対策として、原子炉の下に「コアキャッチャー」と称する特殊なコンクリートセラミックの受け皿を設置することで、これで溶融炉心を受け止めるわけです。しかしこの技術は既に海外の、例えば欧州加圧水型炉(EPR)で実装済みのもので、別に何ら新しいものではありません。欧州初のEPRはフィンランドのオルキルオト3号機(アレバ製)で、本格着工から17年、昨年3月にようやく試験送電を開始しています。ウェスチングハウス製のEPR、中国の台山1号機は少し早く、2018年12月に商業運転を開始しています。

目玉のコアキャッチャーは実は、3.11以後の議論の中で、筆者もメンバーである「福岡核問題研究会」の中で、もし再稼働に進むなら必ず備えるべきものとして議論され、玄海原発3・4号機の再稼働に関しては九州電力に提出した2018年1月16日の公開質問書でも提起していました。しかし九電の方針は、格納容器下部に水を張っておくというトンデモなもので、もしそこに溶融炉心が流れ込めば水蒸気爆発を起こしかねない危険な策で、NHK福岡もこの問題点を指摘する番組を作っていました。「革新」などと言うけれども、日本の原発が外国に対して周回遅れであったというだけです。

先に述べたように、EPRでは着工から完成まで長期間を要しており、かりに日本で始めるとしても気候危機対策としては間に合いません。また、ウランは、高速増殖炉をあきらめた以上、資源量自体が少ないのです。2020年の埋蔵量推定で807万トン・ウラン(エネルギー白書2022)とされ、発熱量換算で天然ガスの6割ほどしかありません。石油など他の化石燃料と比べればさらに少ない。また、原子炉による発電では単純な蒸気タービンによるほかないため、熱効率も他の化石燃料のエンジンと比べてはるかに低いので、取り出せる電力はより少なくなります。

資源量が少ない一方で、その後始末にはとんでもない時間がかかります。せいぜいでも100年原発を使ったとして、その産業廃棄物である使用済み核燃料の後始末に数万年を要する工業施設など、そもそもあり得なかったはずです。地下に埋設するにも、貯蔵しうる地層が日本に存在するとは、どんな地質学者も請け負えないでしょう。どこを掘っても温泉が出るような国に(ネット上で温泉マップを検索すると驚愕する!)そんな場所があるはずがない。縄文時代の始まりが1万6千年前と言われますが、それよりもっと昔の先祖がこんな厄介な代物を残していたとしたら、本当に迷惑な話だと思いますが、しかし既に私たちはそれを作ってしまったわけです。もうこれ以上、ピタ一文、じゃなくてピタ1ベクレル、とでも言いましょうか、増やしてはいけないのです。

don't nuke the climate.jpg脱原発の英語のスローガンに“Don’t Nuke the Climate!”と言うのがあります。 Nukeは核兵器や原子力のことです。翻訳は不可能ですが、無理に意訳すれば、「CO2を放射能に変えるな」といったところでしょうか。CO2を少々減らしたとしても、その代わり放射能を量産したら、これまた子孫に大迷惑ということだと思います。

お金の面についてです。「次世代革新炉」の先例である、フランスで建設中のフラマンビル原発3号機の建設費は1兆9000億円に膨らんだそうです(東京新聞2022年12月18日[4])。使用済み燃料に関しても費用は莫大です。政府は再処理計画をまだ諦めていません。現在の六カ所事業所だけで14.4兆円かかっているのに、さらにMOX燃料工場を作ったりしていたら、最終的には32兆円もかかると見込まれます(原子力資料情報室)。原発自体の費用も莫大で、これだけのお金があればどれだけ再生可能エネルギーを増やしたり、既設住宅の断熱化など省エネ対策を普及させたり出来るか分かりません。このことを考えただけでも、いかに原発が温暖化対策への妨害物であるかが分かるでしょう。

もっと省エネの努力を
省エネに関して、些細なことも含めていくつかお話ししたいと思います。
まず省エネでは、いま触れた既設住宅の断熱化、例えば二重窓化や床裏断熱などの余地が大いにあると思います。

太陽光利用では、発電だけでなく、いわばローテクである太陽熱温水器の拡大も必要でしょう。九州では世帯普及率は2〜3割と比較的高いですが、他の地域では低い。家庭のエネルギー消費は、太陽熱温水器ありは無しに比べて11.4%少ないという研究結果もあります[5]。もっと導入されるべきでしょう。暖房に電気を使う場合は必ずヒートポンプによること、つまりニクロム線などによる直接の発熱(ジュール熱)を利用することは極力避けるべきです。パネルヒーターなどの販売は制限すべきでしょう。

また、熱の直接利用という点での私のささやかな実践例ですが、お風呂から上がったあと直ぐ湯を抜かないで、きれいな水を小さなポリタンクに入れて浴槽に浮かべておき、翌朝引き上げて使えば、寒い朝、顔を洗うのにガスを使わなくてすみます[6]。もちろんお湯を沸かすのも水からよりもエネルギーの節約になるでしょう。また風呂のお湯自体の余熱も、冬の時期は翌日の屋内の「余熱暖房」の熱源として使えるので、すぐに排水しない方がいいと思います。浴槽をクリーンに保つという点ではデメリットですが。でもどこかの旅館のように、年2回しか入れ替えないよりはずっとマシでしょう。

原発だけでない「政治災害」から日本を立ち直らせよう
さて、もちろんこの国の危機的状況は原発に限りません。むしろ、岸田自公政権の暴政により、あらゆる意味で「政治災害」ともいうべき状況にあります。とんでもない大軍拡、福祉削減、そして私たち自身の今日明日の命にも直結するコロナ感染症の問題があります。コロナでは岸田政権はこれまでのどの政権よりも多数の感染者と死者を出しましたが、さらに、「5類化移行」つまり放置・自己責任にしようとさえしています。このような中で、現在、課題ごとに別々に活動している市民運動諸団体が街頭で連合し、内閣退陣の大規模なデモや集会をするべきではないかと思います。すでに東京では軍拡反対のグループと脱原発のグループとが共同の街頭行動を始めています。実は、1月末にブログでこのような提案をしたところ[7]、146もの「いいね」が付きました(3月2日までの閲覧数203)。たかが100そこそこか、と言われるでしょうが、私のブログ記事では2桁の「いいね」さえ珍しいので、共感する人が多いと自信を持ちました。

特に、岸田の大軍拡は、タモリの「新しい戦前」の予言そのもので、従来型の運動では止められそうにありません。大規模デモなどそれこそ、質・量共に「異次元」に運動を広げなければなりません。「日本人はおとなしい」などとよく言われますが、これは文化的記憶喪失のためで、久留米藩の農民6万が人頭税反対で決起した「宝暦一揆」の記憶を呼び覚ますことも必要でしょう[8]。もちろんこの地、大牟田では「三池争議」の歴史があります。

同時に、自分たちの運動自体が中途半端であったりして、笙野頼子氏の言う「捕獲装置」 になっていないか気をつけなければなりません。

折から、NHK番組「100分de名著」はこの1月に、ジーン・シャープの「独裁体制から民主主義へ」を取り上げ、市民がどう闘えば独裁を倒せるかを説きました。日本も形は民主制ですが、実態はマスメディアと資本力と官僚主義による独裁の様相が濃いと言わなければなりません。なんと、そのマスメディアの一角のNHKが独裁打倒のやり方を説いたのです。まさに自公独裁体制をどう倒すかのノーハウがこれには詰まっています。デイリー・モーションで今でも見られます[9]。中見真理名誉教授による番組テキスト[10]と併せて読めば、日本の市民運動に欠けているアイデアを大いに吸収し、運動を質的・量的に拡大できるヒントがあると思います。また最近、エリカ・チェノウスの「市民的抵抗」も翻訳出版されています。新しい市民運動の手法を獲得して行きましょう。

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[注]
[1] https://byenukes-saga.blog.ss-blog.jp/2013-12-14
[2] https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2011-06-10-1
[3] 環境エネルギー研究所のサイトによる。 https://www.isep.or.jp/archives/library/13774
[4] https://www.tokyo-np.co.jp/article/220591
[5] 榊原幸雄、「家庭部門のエネルギー消費実態について」(1999年ごろまでのデータ)
https://eneken.ieej.or.jp/data/old/pdf/enekei/katei.pdf
[6] 実施例 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2015-02-19
[7] 筆者ブログ「課題別団体が垣根を超えて『暴政反対』の共同行動を」
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2023-01-25
[8] 帚木蓬生の『天に星、地に花』という小説がこの一揆を描いている。
[9] https://www.dailymotion.com/video/x8h2maq
[10] 2023年 1月,NHK出版
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