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軍事研究問題の重要ポイントは「人間関係資本」 [仕事とその周辺]

mainichi170210editorial.gif学術会議の大西会長みずからが,同会議のこれまでの軍事研究全面否定の姿勢を変え,「防衛目的」ならOKという方向に変質させようとしている.内部で抵抗もあるが,予断を許さない危険な状況にあるのは間違いない.わざわざ「デュアル・ユース」というカタカナ英語を使うのは,軍事研究と基礎研究/民生向け研究との区別をあいまいにしようという意図が明白だ.

反対派の論拠として,軍関係機関から資金を得ると研究成果の公開性が制限される恐れがある,基礎研究であっても軍事に応用される恐れがある,ということなどが挙げられる.これらはもっともな懸念だが,最も根本的な問題は,研究者が軍の「人間関係資本」に組み込まれるということだろう.まさにこのことを問題にしたのが2月10日の毎日の社説だ.
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一部引用する.
米軍にせよ、日本の防衛省にせよ、民生研究の中から軍備につながる成果をコストをかけずに入手したい思惑があるのだろう。人脈作りも狙いだと思われる。いったん研究費をもらえば、その後の研究協力も断りにくくなる。そんな心理も考えておかねばならない。
・・・「自衛目的ならかまわない」とする少数意見もあるが、軍事と防衛の線引きは困難だ。とすれば、学術界がめざすべきは、「軍事関係の組織から研究支援を受けない」という合意だと考えられる。
まさに正鵠を射た議論だ.物理学会は,「内外を問わず、一切の軍隊から援助、その他一切の協力関係をもたない」という決議*を1967年に採択し,軍事研究否定を最も具体的な形で表現している.

研究者が軍の「人間関係資本」に組み込まれるとはどういうことか,少し議論を広げてみよう.上の社説のように,「人脈作り」「その後の研究協力も断りにくくなる」ということだけではない.研究者の倫理規範としては,「軍に協力しない」というだけで十分というわけではない.むしろ,例えばユネスコ高等教育世界宣言**が高等教育とその職員の平和への役割,コミットメントを強調していることからも,研究者は積極的に平和のために発言し行動しなければならない.例えば名大の「平和憲章」†には,「われわれは、平和を希求する広範な人々と共同し、大学人の社会的責務を果たす」とある.

はたして軍関係組織・機関から資金を受けた研究者が,平和の問題で自由に発言し,行動することが出来るだろうか.軍が考える「平和」の概念とずれた発言をした場合,研究費が途絶える心配をしなければならないだろう.もしその規模が大きければ,単に自分の研究が続けられなくなるだけでなく,その資金で雇った人をクビにしなければならないかも知れない.当然発言や行動を「自粛」することになる.これが「平和を希求する広範な人々と共同し、大学人の社会的責務を果たす」ことに背くことになるのは明白だ.

*日本物理学会行動規範のページ参照
 http://www.jps.or.jp/outline/koudoukihan.php
** ユネスコ高等教育世界宣言 「21世紀の高等教育 展望と行動」
 http://ad9.org/pegasus/UniversityIssues/AGENDA21.htm
† 「名古屋大学平和憲章」
 http://kyoshoku.coop.nagoya-u.ac.jp/kakehashi/0201/36p.html
 なぜか名大のホームページからはたどることが出来ない.
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