SSブログ

物理学会で原発問題を論議 [仕事とその周辺]

(冒頭部分はフェイスブックの記事と重複します.)
(続編はこちら:物理学会での原発論議(続き)
物理学会が神戸の関学で開かれています.ふつうの物理学のセッションのほか,「物理と社会」と題するシンポジウムがいくつか開かれました.

このシンポジウムで初日に福島原発事故をテーマとしたものはさすがに多数の参加者でした.東大名誉教授の山崎敏光氏の,加速器ドライブによる未臨界炉が,放射性核種の消滅処理(核種転換)に使えるかも知れないという話.これは要チェック.次に除染の実際について「放射線安全フォーラム」というNPOの田中俊一氏.そして大阪核物理センターの藤原氏は広範囲で綿密な土壌汚染調査の結果を報告しました.その中で除染にも言及.広範囲の汚染があるとき,狭い範囲(たとえば10m半径)を完全に除染したとしても,「スカイシャイン」が30%程度も残ると言う.これは,周囲からのガンマ線が頭上の空気で反射して(コンプトン散乱)来るからです.

このセッションではプリンストン大学のフランク・フォン・ヒッペル氏(Frank von Hippel)の講演を聴けただけでも満足.氏はアメリカの核軍縮問題などで系統的に努力しており,講演ではもんじゅと六ヶ所事業所の再処理事業を厳しく批判しました.

ヒッペル氏の講演のタイトルは“How physicists can contribute to public policy debates?”というもので,内容はタイトルのとおり,物理学者がいかに政策決定の議論やプロセスにコミットするか,できるかということです.

初めに出したスライドには,なぜ政府が科学アドバイザーの警告を真剣に受け止めないかという理由を考えた結果,結論は,アドバイスの内容が秘密にされているからであり,「情報が新聞に出たとき初めて政府は注意を払う」とありました.

これを見て,原爆完成直前に科学者によってまとめられた「フランク報告」(→日本語訳)のことが想起されます.これは日本への原爆投下に反対し,無人島でのデモンストレーションを提案するもので,それ以外にもさまざまな深い考察が述べられています.政府はこれを全く無視しました.もちろんこれは全くの秘密報告でした.(なんと,このフランク報告の責任者 James Franck は,ヒッペル氏の祖父にあたるらしい)

彼が若い頃コミットした原子炉過酷事故についての米国物理学会1975年報告書(*)をまず紹介していました.また,米国では政府内に物理学者が多数入り込んでいることなども説明.日本は全く違っていて,出てくる情報の質などを見れば,学部卒で単に試験にパスしただけの人間しかいないのではないか,と思われます.政府は人事政策を変えなければならないし,物理学者,物理学コミュニティーの側も,もっと積極的に政府に人材を送ることを考えるべきでしょう.いわば「御用学者」になるわけで,単なる権力者の道具となるリスクはあります.政府に入らなければこの「誤り」を犯すことはないけれど,しかしコミットしないこと自体が最大の誤りでしょう.

このほか,上に書いたように,六ヶ所再処理やもんじゅ批判にも言及し,メディアが取材して「新聞に出」ればインパクトがあったと思います.

ビデオカメラを回していたのですが,それまでに電池を使い過ぎていて5分でダウン.予備を用意しておくべきでした.ただし音はICレコーダに全部入っています.

25日は「普通の」物理のセッションに出て,今日の午後(26日)はまた「福島原発事故と物理学者の社会的責任」というシンポジウムに出ました.これも,「自己批判」や政府批判など様々に,とても有意義な内容でした.これについてはまた次の記事で・・・

物理学会の「物理と社会シンポジウム」のプログラムは次にあります.
http://w4.gakkai-web.net/jps_search/2012sp/bs.html
--------------
* 私のブログで3.11直後3月25日のブログで紹介しました.
http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2011-03-25
(続編はこちら:物理学会での原発論議(続き)
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0