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あからさまに戦争待望論を語った葛西敬之氏 [社会]

8年前*に、フェイスブックでショッキングな話を目にしました。ツアーガイドで通訳のHさんが、その仕事中の経験を書かれていました。バイロイトやザルツブルクの音楽祭を巡る音楽ツアーの一行の中に政財界の大物X氏がいたそうです。旅の途上、Hさんが運転する車のなかで、学生時代に覚えたというシューベルトの歌曲集『冬の旅』を、ドイツ語の原語で、全曲そらで歌うような、芸術愛好家だったそう。そのような人が、ある食事の席で、唐突に次のようなことを喋ったと言うのです。
以下、Hさんの当時(2014年)のフェイスブックから引用します。(一部伏せ字)
https://www.facebook.com/hitoshi.kawashima.794/posts/719538388105516
「そろそろどこかで戦争でも起きてくれないことには、日本経済も立ちゆかなくなってきますなあ。さすがに日本の国土でどんぱちやられたのではたまらないから、私はインドあたりで戦争が起きてくれれば、我が国としては一番有り難い展開になると思ってますよ。」 ここまでえげつない戦争待望論には、周囲にいた人達もちょっとびっくりしたらしく、一同目を見合わせ、隣りにいたご夫人が「またあなたそんなことをおっしゃって、、、」ととりなしている。「H君、きみたち若い人の意見を聞こうじゃないか」と、ご本人が話をぼくに振ってきた。言いたいことは山ほどあったけれど、アルバイト中のぼくには、面と向かって彼に反駁することもできず、言葉を濁してしまった。今思うと、通訳のアルバイトなんか棒に振ってでも、彼にしっかり反論しておくべきだったと思う。権力の中枢近くにいるひとに直接ものを言う絶好のチャンスだったのに。もう10年以上昔の話。
kenbo.jpgX氏は誰か、Hさんのフェイスブックの文章全体から、葛西敬之(よしゆき)氏のことだろうと大体見当はついていました。葛西氏はこの5月に亡くなっているので、もう公表できるのでは、とHさんにメールで尋ねると、Hさんがジャーナリスト斎藤貴男氏の取材を受けた記事が岩波の「世界」2019年12月号とその次号に連載され、そこでその実名も出ているとのこと。というより、その記事はまさに葛西敬之氏に関するもので、国鉄分割民営化、組合潰しなどの彼の策謀を詳細に暴く内容でした。その最後に、この、レストランでの戦争待望論のエピソードが出てきます。
その、「世界」2020年1月号から引用します。(ただしHさんの名前は上と同様「H」さんとしています。また太字体は引用者)
葛西敬之には、こんなエピソードもあるらしい。話をしてくれたのはH(一九六一年生まれ)。演劇青年から東京大学文学部に学士入学し、ドイツ中世演劇の研究者に転じた人物だ。
「あれはもう二〇年以上も前、一九九六年八月のことでした。私は、あるプライベートなオペラ鑑賞ツアーの通訳をさせていただいたんです」
ツアーには葛西も参加していた。ドイツのパイロイトや、オーストリアのザルツブルグなどを回る旅の途中、彼はレトランでの食事中、突然こんな話をし始めたという。
「そろそろどこかで戦争でも起きてくれないことには、日本経済も立ち行かなくなってきますなあ。日本の国土でドンパチやられたのではたまらないから、インドあたりで起きてくれると、わが国としては一番ありがたい展開になる」
同席者一同が茫然とした。夫人が慮って、
「またあなた、そんなことをおっしゃって・・・」
と取りなしたが、葛西は構わず、
「若い人の意見も聞こうじゃないか」
と、Hに話を振ってきたという。
言葉を濁したという彼は、唇を噛んだ。
「通訳を任せてくださった方の顔をつぶすわけにはいかないと考えてしまったんです。内心では許せないと感じていたのに、自分の中途半端さが悔やまれてなりません」
このツアーの中心には、前出の三枝成彰がいた。葛西の言葉をどう聞いたかを尋ねると、
「あの人と僕は、特にベートーベンについて意見が合いました。東大では音楽を知らないとバカにされるので、猛勉強したそうです。ただ、その発言を私は聞いていません。葛西さんはもっと合理的な人であるはずですよ」
と語った。
”国家”を声高に語る人、使命感の強すぎる人は恐ろしい。長いジャーナリスト生活が皮膚感覚にしてくれた経験則の、いわば典型を彼らに見た。
「軍事ケインズ主義」という言葉があります。直接的な戦争も含め、景気や経済を調整する目的で多大な軍費を投入する政策で、戦争を頻繁に行うことを公共政策の要とし、武器や軍需品に巨額の支出を行い、巨大な常備軍を持つことによって豊かな資本主義社会を永久に持続させられるとの主張、とのことです。チャルマーズ・ジョンソンが2008年1月に発表した論説で提唱した言葉のようです。(岩波「世界」2008年4月号に訳。次で無料公開されている。)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200804111727305
原文はこちら: https://mondediplo.com/2008/02/05military

レストランでの葛西氏の言葉は、まさにこの「軍事ケインズ主義」をあからさまに、遠慮会釈なく語ったもので、Hさんのこの記録・記憶は、権力者の口から無防備に出た剥き出しの本音を見事に記録に残したものとして、とても貴重だと思います。(また、音楽を愛するかに見える本人の別の顔**との対照もショッキングでもあります。)この「本音」が出た1996年は、まさに葛西氏がJR東海の社長になって間もない時で、この後2006年には国家公安委員に就任するなど、選挙で選ばれたわけでもない人が、まさに権力の中枢でこの国の形を変えていく役割を果たしていくことになります。現在の、惨事便乗軍拡というべき事態も、まさに彼が描いた「軍事ケインズ主義」のレールの上にある、と言えないでしょうか。

* 記事冒頭、当初「18年前」と書いていましたが、8年前の誤りでした。訂正しています。(10/6)
** 特に、シューベルトの音楽の愛好者となるとショッキングであるだけでなく、謎です。シューベルトの音楽は人間の優しさの極北を具現化したもの(個人の感想です)なのですから。
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