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放射線の作用をミクロに見ると・・・ [仕事とその周辺]

1401577.gif(9/19: 図の付いた注を追加しました.すぐ次の記事が続編です.)
家人に放射線の説明をしていて,人工放射能と自然放射能とでは人体作用が違うのか,という質問をされました.単純な説明は出来ないので,やはりベータ線とガンマ線がどう違うか,外部被ばくと内部被ばくとは何か,という話をしなければなりません.そこで当ブログの解説風記事を見直してみると,このあたりの話が抜けていることに気付きました.つまり「放射能の正体は何でしょうか?」[1]と,最近書いた「カリウム40とセシウム137の違い」[2]の間を埋める必要がありそうです.(つまり前者の知識を前提にこの記事を書きます.)応援のクリック歓迎

主な放射線の種類
人体が放射線からダメージを受けるのは,放射性物質(放射能)から出てくるミクロの「砲弾」に細胞が撃たれるためです.その弾丸の主なものがアルファ線,ベータ線,そしてガンマ線の3種で,放射性物質の種類によって弾丸の種類も異なります.たとえば,プルトニウム239はアルファ線を出すが他はほとんど出さない,セシウム137はベータ線とガンマ線を出す,ストロンチウム90やトリチウムはベータ線しか出さない,などなど.

次にこの弾丸の性質です.カタカナは長ったらしいので,アルファ=α,ベータ=β,ガンマ=γと,以下ではギリシャ文字で表記します.

アルファ線とベータ線
まず前2者(α線,β線)とγ線とでは性質が全く違います.α線とβ線は電気を帯びているため,物質中を走る時に,電気どうしに働く力のため原子の表面にある電子(原子の表面は電子が雲のように覆っています.[1]参照)を蹴散らしながら進みます.電子を(たいてい1個だけ)はぎ取られた原子はプラスのイオンになり,飛ばされた電子はどこかの原子にくっついてマイナスのイオンを作ります.つまり,α線とβ線は,走る道々,たくさんイオンを作り,またそのせいでスピードを落とし,やがて止まります.駅のコンコースの雑踏を,電車に乗り遅れそうな会社員が,または警官に追いかけられる犯人が無茶苦茶に暴走すれば,たくさん人とぶつかって,ぶつけられた人の持ち物やメガネを次から次に跳ね飛ばすでしょう.暴走者がα線,β線で,持ち物やメガネが飛ばされた電子,こんなイメージでしょうか.

人体内ではこの様子を映像として見ることは無理ですが,気体の中では可能です.記事「劣化ウランの放射能についてひとこと」 [3]の中の写真や動画をご覧下さい(右はその中のβ線の写真).どのくらい頻繁に電子を飛ばすかは,α線はすごく頻繁に,β線はまばらに,またどちらもスピードが遅いほど(エネルギーが小さいほど)頻繁に,速いほどまばらに,という具合です.雑踏の中の暴走では,10メートルあたりに飛び散るメガネ,ハンドバッグの数はスピードが速い方が多いでしょうが,放射線粒子(α線,β線)では逆であることに注意して下さい.このあたりが比喩の限界ですね.

ガンマ線は「リアルな」幽霊
これに対してγ線は,言ってみれば幽霊のようなもので,雑踏の中をものすごいスピードで(光の仲間なので光速で)走っているのですが,だれにも見えずぶつかることもなく,ただただ素通りして行きます.しかし「普通の」幽霊と違って,かならずあるところで「顕現」して,α線やβ線の場合と同じように電子を飛ばします.ただ違うところは,電子を飛ばすのは1回限りで,その瞬間に「幽霊」そのものも消滅してしまいます(注1)(厳密には他の2通りのパターン(注2)もありますが省略).

上のカッコの中で「γ線は光の仲間」と書きましたが,速度だけでなくこのような「電子の飛ばし方」も,実は光と全く同じです.遠くの景色が見えるのは,遠くからやってきた光の粒子が,大気中を空気の分子にぶつかることなく素通りして,さらに目の角膜や水晶体,ガラス体も素通りして,網膜にある特別な分子中の電子を動かすことで「顕現」し,視神経への刺激となるからなのです.

γ線がどのくらいの距離を素通りして「顕現」し電子を飛ばすかは,γ線のエネルギーによります.エネルギーが大きいほど長い距離を素通りします.人体内でのその平均距離は,たとえば,セシウム137から出る「661keV」(単位はケブ,またはキロ電子ボルト(注3),と読んで下さい)のγ線ではおよそ10cm,自然にもともとあるカリウム40からの1.46MeV(メブ,またはメガ電子ボルト)のγ線ではおよそ20cmです(ですから体内のカリウム40が出すγ線は本人の体を大半が素通りして外に出てしまうことになります.これに対してセシウム137ではかなりの割合が体内で電子が飛ばされる).

このあたりのことを,地元のタウン情報誌の昨年6月号記事に載せた図を引用して説明しますと,灰色の線がγ線が素通りし,死に際に電子を飛ばしている様子,赤と黄がそれぞれα線とβ線が走る道々イオンを作りながら飛び,やがて止まる様子を表しています.
zu2.jpg
中途半端ですが,今日はこのくらいに.

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(注1) 光電効果と言います.
(注2) コンプトン効果と対生成
(注3) 1eV=1電子ボルトは約1.6×10-19ジュール.k=キロはその千倍,M=メガは百万倍

(注1,2の説明図)
gammainteraction.gif
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yamamoto

長崎の漫画家,西岡さんのイラスト解説もあります.
http://www.yukalink.com
トップページの目立つところ(今2番目の項目)に次の見出しがあります.
放射能って何?Q&A

by yamamoto (2013-09-22 09:48) 

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