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放射能の正体は何でしょうか? [仕事とその周辺]

1401577.gif末尾にマンガと「練習問題」を追記しました.
御用学者の「放射線安全神話」も困りものですが(これこそ大規模かつ組織的な流言飛語),放射能が「移る」と誤解されて差別されるという状況もまた,たいへん痛ましいものです.どうやら放射能や放射線についての知識が不可欠の常識となってしまったようです.こんな事は知らないままに生活できればそれが一番幸せだったのでしょうが,「フクシマダイイチ」の大災害によってそれは叶わないことになってしまいました.(4/24 わずかに字句修正1401577.gif+末尾に追記)

そこで,ツイッターでのやりとりに触発されて,放射線や放射能についての説明を書こうと思い立ちました.まず結論,つまり説明の目的を述べます.

1)生命体は体に取り込まれた放射性物質(放射能)を通常物質と全く区別できない.
したがって免疫系も,放射性物質に対しては何の防御も出来ない.
2)放射性物質は煮ても焼いても変化しない.
もちろん「煮汁に出る」ということはあるが,全体の量が変化することはない.
3)放射能は人に移らない,増殖もしない.
ウイルスや細菌が伝染するのと同じような意味で「移る」ことはない.もちろんふつうの汚れが移るのと同じように,つまり汚れた床をゾウキンで拭けば汚れがゾウキンに移るような意味で「移る」のは当然だが,それ以上ではない.つまり風呂に入ったりシャワーを浴びればきれいになる.放射能を吸い込んだり飲み込んだりしていても,内蔵を裏返しにして人に擦りつけるような芸当が出来る人は別として,それを他人に移すことは出来ない.

本論
放射性物質(放射能)と言っても,それが放射線を出すまでは普通の物質と全く区別がつきません.リンゴが2つあり,その一つの内部に小さな爆弾が埋め込まれているとしましょう.X線検査をすれば爆発する前にそれを発見出来るでしょう.放射性物質の正体も爆弾 —ミクロの時限爆弾— なのですが,こちらは爆発しない限り識別不能です.

放射性物質の正体は原子の中心にある原子核という小さな固まりです.これにはどんな火も熱も届きません.

放射性物質も通常の物質同様,この原子核を中心とするただの原子一個です.ですから細菌やウイルスのように増殖はしません.

atom.gif原子は,右の図のような,原子核を太陽に,その周りを回る電子を惑星に見立てた,太陽系のイメージで理解されますが,それぞれのプロポーションはこの絵とは全く違います.原子核のサイズが握りこぶしぐらい(10センチ)とすると,電子が回る範囲は10キロもの広がりがあります.

この原子が放射性物質であるかどうかは,緑色の丸,つまり「中性子」という粒子の数で決まります.たとえば,私たちの体の重要な構成原子である炭素(記号C)は,陽子(赤丸)6個と中性子(緑の丸)6個からなるものが大部分ですが,わずかに(約1%),中性子7個のものが含まれます.これら二種類は決して爆発しません.

さらにもっとわずかな量,中性子8個のものが含まれるのですが,これが「時限爆弾」なのです.これを「放射性原子核」と呼ぶことにします.

中性子の数が違っても,周りを回る電子の数は陽子の数と同じで変わらず,「炭素」という元素であることに変わりはないのです.つまり,爆発するまでは,何のへんてつもない普通の炭素として,ブドウ糖の分子の中に,あるいはタンパク質の中に,そして吐息の中の二酸化炭素の中に,ふつうに存在しているのです.(これに対して,陽子の数が変わると,例えば1つ増えると「窒素」に,2つ増えると「酸素」に,というように,元素が変わります.)

unsho.gifそれではこの放射性の原子核というミクロの時限爆弾はどのように作動するのでしょうか?その点火装置はどうなっているのでしょうか?

上に書いたように,原子核は非常に小さいのですが,この点火装置は風変わりで,しかも込み入っています.それはタイマーとサイコロが組み合わさったものです.タイマーで決められた時間ごとにサイコロが振られ,爆発するかどうかを決めます.「点火」という目が出ればそこで爆発して終わり,つまり放射線を出して別の原子核(元素)に変わります.「点火しない」という目が出るとタイマーがリセットされ,はじめからやり直しです.

タイマーの設定時間が短いと頻繁にサイコロが振られるので,早く爆発しがちです.逆に長いと滅多にサイコロが振られず,いつまでも爆発しません.前者が「半減期が短い」放射性原子核,後者が「半減期が長い」放射性原子核というわけです.(右のすてきな漫画は,長崎の作家,西岡由香さんの作品です.彼女のサイトからこの漫画を含む「放射能Q&A」がDLできます.)

とりあえず今日はここまで.

 (佐賀大学理工学部教授 豊島耕一)

1401577.gif4/24追記:どんな「爆弾」なのか
放射性の原子核(原子)を「爆弾」と書きましたが,これはもちろん超ミクロの爆弾です.また,それは普通の爆弾のように粉々に破片が飛び散るというものではなく,1ないし数個の,これまたミクロの弾丸が打ち出される,というものです.その弾丸がアルファ線やベータ線,ガンマ線というわけです.この現象を物理学用語では「崩壊」とか「壊変」と言います.たとえば,ヨウ素131の場合,主な崩壊のパターンは,一個のベータ線と一個のガンマ線を出し,打ち出した方はゼノン(キセノン)131の原子核に変わります.(いただいたコメントに促されて追記しました.)

1401577.gif6/12追記:理系の学生の皆さんに練習問題です.
1)この「タイマー・サイコロ モデル」で指数関数の崩壊法則が導けることを示す.
2)サイコロを振る間隔(タイマーの設定時間)をτ(ギリシャ文字のタウ),サイコロで「点火」の目が出る確率をpとしたとき,半減期Tをこれら二つの量で表す.
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latter_autumn

問題なのはICRPの知見とかけ離れた「放射線危険神話」でしょう。
「放射線は微量でも危険」云々と喧伝するから、買占めや運送業者の拒絶等による被災地の物資不足、周辺の農作物や海産物の風評被害等が、現実に発生していますよ。

>放射性物質に対しては何の防御
>も出来ない

代謝は一応防御の一種ですが。もちろん体外に出て行きにくい核種もあるけど。
代謝を促進する形の薬剤もあるし。
http://www.nirs.go.jp/hibaku/institution/institution03.htm

それから、DNA損傷修復やアポトーシスという作用も防御の一種ですから。

「何の防御もできない」というのは不正確。

あといくら素人向けとはいえ「爆弾」「爆発」だと「核兵器の核爆発」と誤解されかねない。
「不安定な同位体(核種)」「壊変」というべきでしょう。

by latter_autumn (2011-04-24 16:26) 

元京都の教師

高校時代、数学、物理、化学が大嫌いで、丸暗記ばかりしてましたが、このペガサス読んで、反省しています。
 また
「代償措置」では組合の存亡に関わる
の文章読んで大感激しました。
 1970年代、京教組の役員をしてました。日教組大会に行くと京都というとヤジと怒号の組合活動をしていましたが、昨年も京教組の委員長・書記長に「「代償措置」では組合の存亡に関わる」と同意見を言って論争になりましたが、論争にならなかったです。
 府民に理解を得ないと、とだけ言われて。
 でも、同意見が書かれていてうれしく思いました。
 当たり前、常識が、逆立ちしている状況を変革しましょう。


by 元京都の教師 (2011-05-15 01:47) 

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