SSブログ

「直接行動」,イギリスと日本 [社会]

「東京・葛飾のビラ配布弾圧事件で、東京地検は一日、住居侵入罪に問われた僧侶の荒川庸生さん(58)を無罪とした東京地裁判決を不服として、東京高裁に控訴しました。・・・・・・」(今日の「しんぶん赤旗」より)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-09-02/2006090215_03_0.html

応援のクリック歓迎 →

控訴などとんでもない話だ.もともと起訴したこと自体が戦前の治安維持法並の異常行動であるのに,一審の裁判官の判断でもまだ目が醒めないとは,この検事は一体どのような教育を受けたのだろうか.司法の専門教育以前の,大学の一般教育,いや,高校中学の「公民」レベルの常識の問題だ.

私は,7年ほど前からイギリスの反核運動の,それも,非暴力だが直接行動で核を廃絶しようという「プラウシェアズ運動」*の支援に関わっているので,イギリスの裁判の様子を少しは知っている.それと比べると日本の状況の異常さが二重,三重に際だっている.

まず,イギリスでは今回のような控訴はあり得ない.出来ないのだ.一審で無罪判決が出ればそれが確定で,検察は上級審に訴えられない.逆に,被告の側はもし判決に不服であれば上訴できる.公権力を背景にした検察側と,弁護士が付くとは言え単なる一市民とでは,その力には巨大な開きがある.このバイアスを補正する意味から,検察と被告との間でこのような権利の非対称性が設けられているのだろう.わが国もこれに倣うべきだ.

逮捕される理由もイギリスの場合とでは全く違う.プラウシェアズ運動では,基地ゲートの前に座り込んで基地への通行を妨げる.警察としては,排除し,それに従わないときは逮捕せざるを得ないということになる.プラウシェアズ側としては,「より重大な犯罪行為,つまり大量破壊兵器による殺戮の準備行為を止めさせようとしているのだから正当なのだ.警察は基地内で行われている国際法違反の行為をこそ取り締まるべきだ」という立場である.道路を塞ぐのは違法行為には違いないが,このように別の犯罪の予防というケースでは,法律用語で「違法性の阻却」と言うらしいが,違法ではなくなる,という論理だ.しかし見かけ上は違法行為なので警察は取り締まるわけだ.

ところが日本のこの事例では,単なるビラ配りが逮捕の理由になったのであり,見かけ上も合法な行為を取り締まっている.言ってみれば「ビラ配り」が「直接行動」になってしまっている.全く情けない状況だ.

権力の不当,不法な行為に対する市民の,民衆の抵抗を表す言葉の理解も,イギリス,というよりヨーロッパと日本では大きく違うようだ.“サボタージュ,sabotage”は日本では怠業,つまり意図的に仕事や作業をしない,作業能率を落とす,といった意味で使われるようだが,英語の辞書を引くと「破壊行為」とある.機械や設備を破壊して抵抗することであり,つまりずっと積極的なのだ.

“不服従,disobedience”という言葉に関してもこれと少し似ている.日本では,何かの「行為」を命令されたときにその命令に従わない,つまり「不作為」を意味するわけだが,プラウシェアズの文章では少し違った意味合いで使われている場合がある.それは,何らかの「行為」を,例えば座り込みなどの抵抗の「行為」を行っているとき,当局側がそれを「止める」ように,つまり不作為を命令したときに,それに従わないこと,つまり「作為を続ける」ことで抵抗する,という意味である.前者が消極的な不服従であるのに対し,後者の積極性は明かだろう.

このような積極的な不服従は,かつての日本には,例えば一揆など多く存在したと思われるが,「日本人は従順である」という暗示・洗脳によって,最近では少なくなっている(関連記事:「日本人はおとなしい」という集団的自己暗示からの離脱を).このため「ビラまき」が「直接行動」となってしまうような情けない状況を生み出したのだろう.そのような中で,少し前の辺野古での「海上座り込み」は画期的と言える.積極的な意味の「不服従」の復活の兆しを見せた記念碑的な事件かも知れない.

言論・表現の自由に対する弾圧と言えば,法政大学の学生弾圧事件がある.文学部が退学,法学部が停学の処分を出している.いずれも,逮捕されたが不起訴釈放,つまり何ら違法行為のなかった学生に対してである.赤旗はこの問題も取り上げてほしい.「中核派と関係があるらしい」などということが無視の理由になるだろうか.東北大学理学部の3年半にも及ぶ停学処分も同様である.
________________
* イギリスのミサイル原潜トライデントに積まれた核を「鋤」に変える,という意味の「トライデント・プラウシェアズ」という運動です.次のサイトを参照下さい.
http://www003.upp.so-net.ne.jp/maytime/goilsupt.html
この運動の件で間もなく新しい記事を書きます.
1401577.gif2017年6月リンク追記:「十二名の日本市民はいかに英国の核基地を封鎖したか」岩波「世界」,2008年1月号,p.278-285.

1401577.gif2017年6月追記:後日の関連ツイッター 「とにかく,やってしまうこと」
tonikakuyatteshimau.jpg

nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 2

布引洋

オウム事件の時、マンションの廊下や階段など共用部分に立ち入った信者達を警察が住居不法侵入で次々逮捕し裁判でも実刑の有罪判決が下りていました。
相手がオウム信者なので人権団体や共産党、リベラルその他反対しそうな団体からの反応は殆んど有りませんでした。
北朝鮮の98年のミサイル騒動。あの時アメリカ、ロシア、中国等、各国は人工衛星(ロケット)の失敗だと発表していましたが、日本はミサイルにこだわり結局強引に自分の意見を通しました。拉致問題発覚以降は北に対して何を言っても許される雰囲気をマスコミが作ります。

日本は其の為に極端な右傾化が始まってしまったのです。
相手が気に入らないから、良くない相手だからと見て見ぬふりをする。悪い相手だから小さな嘘を見逃す。自分には関係ない出来事と無視する。

今見逃せばもっと大きな不幸が私達に、将来降りかかってきます。
by 布引洋 (2006-09-13 17:52) 

yamamoto

ほんとにそうです.「ニーメラーの詩」をOCR的にしか読めない人が多いというのが不思議です.
http://blog.so-net.ne.jp/pegasus/2006-06-28
by yamamoto (2006-09-13 20:35) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0