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学術会議がパブリックコメントなしに「科学者行動規範」を制定 [仕事とその周辺]

科学者業界の話題です.
今日のしんぶん赤旗14面に,学術会議が「科学者行動規範」を制定しつつあり,大学や研究機関などからの意見をまとめた,とありました.(赤旗のウェブ版には見当たりません.)私は意見を求められた覚えもなく,制定の作業をしていること自体を全く知りませんでした.

学術会議というのは,かつて「学者の国会」とも言われましたが,最近は政府の一諮問機関になり下がっているようです.

学術会議のウェブサイトを見ると,暫定版の行動規範[1]や大学などへの依頼状[2]などがあります.依頼状の日付が今年の5月19日,意見集約の締め切りが6月30日とわずか一ヶ月余りしか余裕を与えず,しかも機関の代表者の意見を聞くだけで,機関構成員に周知したり,構成員の意見を求めたりすることは求めていません.そして10月には正式決定をしようとしているのです.

学術会議がこの種の文書を制定するのはおそらく初めてで (実はありました.追記参照) ,倫理綱領とも言える重要なものと思われます.一般への意見公募はせず,機関の代表の意見のみを,しかもわずか40日の期限で聴取して決めてしまうと言うのは,拙速を通り越して,執行部の独断による制定と言わざるを得ません.

暫定版の内容も極めて不十分です.折から,日本の空間測定器メーカーの不正輸出問題がニュースを賑わしていますが,(仮に事実として)このような,大量破壊兵器への科学技術の関与は許されません.これは,科学者・技術者が“sons of bitches”(トリニティ実験サイト,ベインブリッジの言葉)*にならないためです.(昨年12月にNHK教育の「禁断の科学」について書いた記事を参照下さい.)

さらに,学術会議の場合は単に「大量破壊兵器」に限定されません.1950年に制定された「戦争のための科学に従わない声明」[3]によれば,軍事技術や軍事研究一般への関わりが排除されています.いわば研究者コミュニティーに於ける「九条」が存在するのです.この内容も是非盛り込む必要があります.

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また,8年前のユネスコの「高等教育世界宣言」の内容も踏まえるべきです.その中では特に,高等教育機関の構成員の任務に言及した第2条のb〜e項が重要だと思います.そこには,「社会的問題について」「発言」「批判的で進歩的な機能」「学問の自由」というような重要なキーワードが含まれています.少なくともb項の「内省、理解、行動を促すために社会が必要とするある種の学術的権威を行使することによって、倫理的、文化的および社会的問題について完全に独立に、そしてその責任を十分に自覚して発言する機会を与えられ」という部分は重要だと思います.

論文捏造や資金の不正利用問題など,当然すぎる道徳律だけに焦点を合わせるとしたら,科学者の今日的な責任という点から見て全く不十分であり,問題を矮小化するものです.

[1] 科学者の行動規範(暫定版)
  http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/kodo/bessi1.pdf
[2] 科学者倫理への取組について(依頼)
  http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/kodo/irai.pdf
 科学者の行動規範に関する検討委員会のページ
  http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/kodo/index.html
[3] 戦争のための科学に従わない声明
  http://ad9.org/pegasus/UniversityIssues/scjd1950.html
 ここから関連文書,日本学術会議発足に当たっての声明,「決議三」(日本物理学会)にリンクしています.

1401577.gif2016年3月追記:上記がリンク切れのため,「決議三」について書かれている物理学会のページを記します. http://www.jps.or.jp/outline/koudoukihan.php


* Richard Rhodes, The making of the atomic bomb, p.675.

27日10時追記:「学術会議がこの種の文書を制定するのはおそらく初めて」と書きましたが,これは誤りでした.1980年に「科学者憲章」を制定しているようです.「ようです」というのは,学術会議のウェブサイトに,この文書があからさまに掲示してないのです.学術会議ホームページの検索窓に「科学者憲章」を入れても,これに言及した文書ばかりで,これをタイトルとするようなページが出てきません.

また,なんと,私が上に引用した二つの文書は,文書自体はもとより,これに言及した文書さえもこのサイトには存在しません.
 戦争のための科学に従わない声明
 日本学術会議発足に当たっての声明

「科学者憲章」の本文は,京都女子大学の水野義之氏のサイトで見つかりました.
http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/~mizuno/rcnp.osaka-u.ac.jp/scientist-charter.html
学術会議がこの「憲章」の改訂を検討して言うという情報が,「さよなら、じっけんしつ ブログ」にありました.
http://blog.so-net.ne.jp/goodbyelab/2006-04-07-1
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「科学者憲章」

         日本学術会議(昭和55年、1980年4月24日)

 科学は、合理と実証をむねとして、真理を探求し、また、その成果を応用 することによって、人間の生活を豊かにする。科学における真理の探求と その成果の応用は、人間の最も高度に発達した知的活動に属し、これに 携わる科学者は、真実を尊重し、独断を排し、真理に対する純粋にして 厳正な精神を堅持するよう、努めなければならない。

 科学の健全な発達を図り、有益な応用を推進することは、社会の要請で あるとともに、科学者の果たすべき任務である。科学者は、その任務を 遂行するため、次の五項目を遵守する。

1. 自己の研究の意義と目的を自覚し、人類の福祉と世界の平和に貢献する。
2. 学問の自由を擁護し、研究における創意を尊重する。
3. 諸科学の調和ある発展を重んじ、科学の精神と知識の普及を図る。
4. 科学の無視と乱用を警戒し、それらの危険を排除するよう努力する。
5. 科学の国際性を重んじ、世界の科学者との交流に努める。
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