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「これで我々は全員悪者だよ」--原爆開発に関わった者の言葉 [メディア・出版・アート]

昨夜,NHK教育の「禁断の科学」第3回「『これで我々は全員悪者だよ』 −マンハッタン計画」を見た.
http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200512/monday.html#3

第二次大戦下のアメリカでの原爆製造計画を扱ったものだが,内容的にはかなり薄いという印象を持った.表題の『これで我々は全員悪者だよ』は,史上最初の原爆実験を行ったトリニティーサイトの所長,ベインブリッジのものと思われる.リチャード・ローズ著「原子爆弾の誕生」*下巻の474ページに次のようにある.

ベインブリッジはS-10000地点のリーダーたちに,爆縮法の成功を祝ってそこら中を飛び回った.「私はロバートに,『いまや我々は,全員,サン・オブ・ビッチ(畜生ども)だ』と言っておしまいにした.・・・・彼は後に,私の下の娘に,それが実験のあとで人々の言ったいちばんましな言葉だった,と言った」
(原文)
Bainbridge went around congraturating the S-10000 leaders on the success of the implosion method. "I finished by saying to Robert, 'Now we are all sons of bitches.' ... [He] told my younger daughter later that it was the best thing anyone said after the test."

ロバートとは,原爆を組み立てたロスアラモス研究所の所長で物理学者のロバート・オッペンハイマーのことで,文字どおり原爆製造の中心人物である.

原爆関連の物理学者の話題が,丸善の物理科学雑誌「パリティ」の12月号にもあった.オットー・ハーンとともに核分裂を発見したリーゼ・マイトナーの記事「オットー・ハーンに消された**核物理学者--リーゼ・マイトナー(II)」である.物理の業界では有名人なのでだれでも名前だけは知っているが,当時のくわしい話が載っていて大変興味深かった.当時のヨーロッパの物理学界で誰がナチス寄りで,だれが反ナチで,だれがノンポリだったか,なども書かれている.

しかし特に興味深かったのは,彼女が,原爆開発への誘いを「堂々と」断った唯一の物理学者だったということだ.これは全く知らなかった.しかもユダヤ人として祖国を追われるなど当時の彼女の窮状--生活面や研究条件の面の--から救ってくれるオファーであったにも関わらず,である.何か女性の強さのようなものを感じた.

* 紀伊国屋書店,1995年.
** 殺された,という意味ではない.念のため.
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関連文書
番組で紹介された「フランク報告」全文の日本語訳
 http://ad9.org/pegasus/Education/docs/frankreportJ.html
科学者コミュニティーにとっての「九条」
 http://blog.so-net.ne.jp/pegasus/2005-11-18


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コメント 2

ありえ

yamamoto様
見逃してしまいました。再放送見ます。
第1回、第2回目と見ましたが、やはり、TV番組で25分間という短い枠の中、一般人向けに作られているからでしょうか、「え?これでお終い?」と思いました。今後の科学者と軍事の未来が気になります。
第3回を見たら、またコメント書かせていただきます。
by ありえ (2005-12-21 04:51) 

ありえ

yamamoto様
第3回再放送見ました。
科学の知識に乏しい自分にとって、判りやすく、当時の核の作り方を知る事ができました。でも、yamamoto様のこの記事を読んでいたので、薄いとおっしゃる意味がわかったような気がします。
表題の『これで我々は全員悪者だよ』でなかったら、もっと薄っぺらかったですね。
リーゼ・マイトナーに興味を持ちました。
(また、・・・第4回を楽しみにしてたのに見れませんでした。残念!)
by ありえ (2005-12-28 12:39) 

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