私自身は寮生活の経験はないが,多くの人にとって貴重な人生経験をもたらしているだろう.多くの大学の寮には古くから自治が認められていて,寮生みずからの手で寮を運営している.ところが最近そのような「自治寮」がつぶされて,アパート型になっていると聞く.数年前に東大の駒場寮が解体された.今,東北大学の一つの寮がその瀬戸際にある.その名は「有朋寮」. http://uforyou.exblog.jp/

 廃寮を急ぐ大学側と,「新寮なき廃寮反対」を主張する寮生との間で長年にわたって対立が続いてきたが,大学側の寮の明け渡しを求める裁判の判決が9月1日に出される.寮生は学内外に運動を広げようと,緊急アピール(1)を出し,広く賛同を求めている.

 この問題をめぐっては,この寮に居住し,大学からの退去命令に従わなかったことを理由に,一学生が無期停学処分を受け,実に2年半経った今もこの状態が続いている.また,大学によるでっち上げの疑いの濃い「傷害事件」もあるが,6月最高裁判決で一市民の有罪が確定してしまった.検事の論告(2)を読むとだれもが,逆に冤罪の疑いを持つに違いない,そんなしろものであるにも拘らず,である.

 このような重大な事態が国立大学で起きているのに,教職員にはほとんど無視されている.その最大の理由は,「セクト」の問題にあると思われる.学生運動というとどこかのセクトが絡んでいるに違いない,それには関わりたくない,ということだろう.しかしだれもこのことを公然と口にしたり,文字にしたりすることはない.これは大変おかしなことだ.うわさや陰口,あるいは思い込みが重要な要素を占めていることを意味するからである.

 国立大学の独立行政法人化反対運動の際,私はこの寮の自治会に何回となく講演に呼ばれ,付き合いがあるので,学生たちをよく知っており,かれらの真摯な気持ちを理解している.寮自治会と協力関係にある学生自治会は,かつてのトルシェ監督の通訳で有名なフローラン・ダバディー氏を新入生歓迎のイベントに招き,講演会を成功させている(これについては4月24日のブログ記事 http://blog.so-net.ne.jp/pegasus/archive/20050424 を参照).

 自治型の学生寮が廃止されて行った背景には,かつて一部に,特定のセクトが寮を支配したということがあるのかも知れない.しかしそれをさけるという理由で自治までも奪うというのは,まさに「角を矯めて牛を殺す」ことそのものであろう.「大人たち」は,自分たちがそんなことをしておきながら,「若者が自主性を無くしている」などと嘆くのである.

(1) 緊急アピール http://ad9.org/pegasus/university05/uforyoplea.html(21/7/28リンク更新,以下同様)
(2) 論告要旨 http://ad9.org/pegasus/UniversityIssues/uforyo/ronkokuyoshi.html

関連情報:
東大駒場寮と山形大学の寮の廃寮反対運動を描いた記録映画のサイト
 http://www.doroten.net/
この問題での,大学関係者のメールリストへの筆者の投稿
 http://ad9.org/pegasus/university05/he-forum8959.html
 http://ad9.org/pegasus/university05/he-forum8960.html