末尾に追記 あり
参院選の結果を要約すると,(1)自民党の勝利,(2)共産党の躍進,(3)山本太郎当選に見られる若者の政治参加の新しい兆候,という3点になるだろう.
1は予想されたこととは言え,少なくともこれからの3年間は,改憲や日本社会の決定的な右傾化というクリティカルな状況が続く.護憲派・左翼はこれにどう立ち向かうべきか,特に九条問題について私見を述べる.

九条改憲に対する反撃のポイントとしては,例えばイマヌエル・カントの「永遠平和のために」の第三条項*にあるような大局的,原則的な擁護論**がもちろん重要だが,これとともに,最ももてはやされる各論の一つ「それでももし攻められたらどうするのか?」という問いへのダイレクトな回答の用意が極めて重要だ.これについての私の答えは「代替防衛」つまり組織化された非暴力抵抗による国家防衛である.(詳細は次を参照下さい:「憲法九条下での国防」

「外国から攻められた時に備えて武力が必要」という理屈は単純なだけに強力な浸透力を持つ.「外国からの武力侵略など起こり得ない」とか,「そうならないような外交努力が重要だ」というのは,直接の答えではもちろんなく,むしろ問いかけからの「逃げ」である.ここが現在の護憲派の最大の弱点と言える.「代替防衛」の理論を作り上げると共に,この言葉の広範な流布が重要である.「自衛隊」の語と同等の流通を目標とすべきだ.

さらに,「護憲」に加えて,当ブログのスローガンでもある「効憲」,つまり,事実上ほとんど改憲されてしまっている九条を「実施」させる,enforceする行動を強調すべきだ.国際貢献分野でのこの実践としては,非暴力平和隊がある.もちろん自衛隊への規制,基地問題など,国内での「効憲」のウェイトが重視されなければならない.
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尖閣問題にしても,資源問題が絡むとしてもこれで戦争を始めるなどということ,つまりこの小さな島のために日中両国の多くの人々の命をかけるということが,倫理的にはもちろんのこと,深く結びついた日中間の経済を考えれば,金銭的な損得の面でも,ワリに合う話でないことはだれでもすぐ分かる.しかしプロパガンダによってナショナリズムに冒された頭にはそのような常識が通じないのだろう.昨日,NHKの半藤一利・宮崎駿の対談番組で,半藤氏が尖閣問題に触れ「棚上げ論」を支持したが,同じことを鳩山由紀夫氏が中国で述べたとき,これに対する非難や攻撃は右派からだけではなかった.これは相当危険な兆候だと思われる.

軍事衝突がだれの得にもならないというのは不正確で,もちろん軍事産業セクタに取っては利益につながる基本的なイベントである.したがってこの産業セクタや資本家,さらにはおそらくその背後にある金融資本は,その「マーケティング活動」として,改憲や他国の軍事的脅威を煽るキャンペーンに手を染めないはずはないだろう.アイゼンハワーの有名な「軍産複合体演説」(→全文日本語訳)の普及も重要だ.

追記(8月11日)
(コメントに触発されて,その欄と同じ内容を追記します.)
もともと日本がまいた種とはいいながら,沖縄県は(程度の差はあれ日本の他の地域も)アメリカに「攻められてしまった」状態にあります.これに対する「国防」の手段としても「代替防衛」が有効だと思われます.いや,それしか方法はないでしょう.

自衛隊に米軍追い出しの戦争を期待するのはファンタジーの世界ですし,かと言って民兵組織を作って米軍と渡り合えるわけもない.また,選挙や署名,集会・デモだけでは,いっこうに埒があかない.それもそのはず,日本は事実上アメリカの支配下にある,半ば占領された状態にあるからです.これで穏便な,行儀のよい手法で「国防」は達成できません.つまり,昨年の普天間基地ゲート全面封鎖のような非暴力直接行動こそがカギなのです.そしてそれはまさに明日(8月11日現在)再び始まろうとしているのです.

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* カント「永遠平和のために」の第三条項「常備軍は時とともに全廃されなければならない.」
この本と,その中のきわめて現実的な提案が公にされてすでに200年という十分すぎる長い時間が経っている.
http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2007-05-05

** 大局論,原則論に役立つ数学的考察:「攻められる」ことと「攻める」こととの等確率性