遅まきながら,共産党の第四回中央委員会総会と参院選についてひとこと書きます.

最近にないうれしいニュースがあった.埼玉県の蕨市で,自公候補を破って共産党員の市長が誕生した.これが「二大政党論」という“red herring”に風穴を開けるきっかけになればいいと思う.大きなニュースだと思うが,4日月曜日の西日本新聞の扱いは必要最小限の豆記事だった*.

蕨市のように共産党(系)候補が参院選の「一人区」でも有力な闘いを見込めるならいいが,あまり感心しない共産党のキャッチコピー「たしかな野党」で自認するように,ほとんどの選挙区ではそれにはほど遠い.しかし政治情勢が要求するものは,単に「できるだけ」共産党の議席が増えればいいということでは決してない.この選挙で選ばれる議員たちが改憲の発議に関わる可能性が大なのだから,この選挙で九条護憲派が参院の議席の3分の1以上になることを確保しておかなければならないのだ.そのためには,一人区で護憲派どうしが争って改憲派に「漁夫の利」を与えてはならない.つまり,どのような形であれ,護憲の統一戦線が求められている.

ところが,5月20日までの赤旗紙面に発表された第四回中央委員会総会の方針には全く失望させられる.「結語」の中程に,

要は日本共産党が前進すれば、政治に新しい展望が開けます。どういう情勢が展開しようと、日本共産党が議席を一つでも二つでも——多ければ多いほどよいわけですが——増やすことが肝心要のことであります。

とある.このこと自体は政党として至極当前なだけでなく,また“red herring”対策という意味でも重要なことに違いないが,問題はそれがすべてとなってしまっていることである.共闘や統一戦線への努力や模索といった言葉がないだけでなく,そのような考えの片鱗すら見えない.(あの長大な幹部会報告の中に,「共闘」や「統一戦線」という言葉が一回も使われていない.)

問題は,大多数の党員がこの方針に対して議論を起こさないことだ.私のような意見を持つ人は少なくないはずだが,党内にはっきりした「声」が出来ているようには見えない.多くの党員はこの点で「指示待ち人間」にとどまっているように見える.何と言っても問題なのは,この中央委員会自体の余りの非公開性であり透明性の欠如だ.委員らの発言はすべて委員長による「間接話法」でしか,それも極めて「要約」されてしまった形でしか知ることができない.

どのような組織であれ,組織というものはその構成員を「指示待ち人間」に変えるものだが,それも程度問題であるし,またもしその組織の運営が構成員の「民主主義」を原則としているなら,「指示待ちモード」と,その組織自身のオーナーとしての「主人モード」とが適切に組み合わされていなければならない.共産党の場合**明らかに後者の要素が弱すぎる.それでは本当に力を発揮出来ないだろうし,集団の英知も眠ったままになる.

共産党の場合,幹部会の責任ということが余りにも無視されている.責任はすべて中間機関以下のところにあり,あたかも幹部は無謬の存在でもあるかのようだ.たしかにその政策においてはどの党よりも優れていると思うし,国民大衆の利益を裏切るようなことはまずしていない.この点では「無謬」と,少なくとも近似的には言えるだろう.しかし,支持率を上げ国会で議席を伸ばすという「業績」の点から見ると,この党の中から最も有能な人々が指導部の地位を占めているという断定は困難であろう.

政治的な有能さというのは総合的なもので,感性やカリスマ性なども含まれる.そのような点からも,幹部選出の人事政策を考え直す必要があるだろう.

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* 東京の足立区長選挙の結果の記事と並んでいたが,これも自公対共産系の構図だった.こちらの方は自公候補が当選している.その投票率が3割台とは.石原が知事に当選したことと並んで,やはり東京都民の政治的「民度」の低さがはっきりと数字に表れたものと見るべきだろう.

** 同党に限ったことではなく,わが国に存在するほとんどの組織という組織が似たり寄ったりかも知れない.

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