<05年9月26日改訂,バージョン2>  旧バージョンはこちら

★改憲をめぐる世論,9割はメディアが決める
 選挙での自民党の勝利と,改憲推進派の前原氏が民主党代表になったことで,九条改憲の言説はメディア上でいよいよ強まるでしょう.今回のメディア選挙で明かなように,また,古くはアインシュタインの指摘(註1)を待つまでもなく,現在ほぼ半々になった世論は,このままメディア攻勢が続けばひとたまりもないでしょう.

 私は「九条広告支援の会」(註2)を提唱するなどして,護憲派による「パラサイト型マスメディア」ないし「無形のマスメディア」を提案してきました.これと並んで,あるいはより重要なメディア対策として,放送法の「公平原則」を利用する,upholdするということが必要ではないかと思います.

★日本ではまだ「公平原則」が生きている
 NHKと民間とを問わず,放送は「政治的に公平であること」,「報道は事実をまげないですること」,「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が放送法で義務づけられています(放送法第三条の2,3,4項.註3).これはニュースに限らず番組全体に及びます.アメリカではこの「公平原則」が87年に撤廃され,FOXテレビの猛烈な洗脳によってイラク戦争が可能になったことは記憶に新しいところです.日本では,自民党の廃止論にもかかわらず,まだこの原則は生きています.

★公平原則の「執行」は市民の力で
 しかし実際には,今回の選挙報道で明らかなように,放送は全体として与党と「二大政党」の側に明らかに偏っています.憲法問題では明らかに改憲論に偏っています.これを是正する活動が可能だとすれば,法律に根拠を持つので,強力な運動になりうると思います.しかしそのためには具体的な「証拠の収集」をしなければいけません.番組を見ての印象や,定性的な評価だけでは水掛け論になってしまうでしょうし,一つの番組だけでは,「他の番組でバランスを取っている」という言い逃れも可能です.そこで,全体を網羅しかつ客観性のあるもの,すなわち何らかの定量的なデータを集めて提示する必要があると思います.具体的には,改憲派と護憲派について,出演者の構成比,双方の発言時間の配分比などが考えられます.

 これらの情報の収集を,TV全国ネットの,バラエティーやワイドショーも含めて,およそ憲法問題に直接,間接に触れる可能性のあるすべての番組を対象に実施するのです.もちろんこのためには相当の人手が要ります.全国ネット7波を漏れなくモニターするとすれば,各局1日20時間として,一週間の延べ放送時間は980時間になりますが,もし1,000人の調査員が活動すれば,一人当たり週1時間となり,十二分に現実的なものになります.仮にその十分の一程度の規模で,一つのチャンネルだけをウオッチするとしても,かなりの効果はあるでしょう.

 放送法の上記の条文に関しては,これは当然と言えば当然ですが,罰則がありません.罰則がないということは,この法の執行を,関係者の良識と,市民の自発的な行動に委ねているということを意味するでしょう.まさに「市民による法の執行」が想定され,期待されているのです.

★意見広告運動との相補性
 はじめに述べたように,私は「パラサイト型マスメディア」,つまり意見広告などによる「メディアの部分的買い取り」を,総額100億円程度の規模で実施することを提唱しています(註4).100億円と言っても新聞広告では全国紙千回分程度で,テレビコマーシャルを大規模かつ長期間にわたって実施するためにはもっと大きな費用を必要とします.これを節約するという意味でも,放送法の「市民による執行」は大きな意味を持つと思われます.

★国民のメディア・リテラシーを向上させ,メディア人を励ます
 このような活動が「放送への介入」などと非難されるいわれはありません.それどころか,内外の資本からの強力な圧力に対しての何ほどかのバランスとなり,放送法第三条の,「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」という規定を担保する活動になるでしょう.

 「市民による法の執行」などと言っても,もちろん強制力はありません.(裁判所に問題を持ち込むことはあるかも知れません.)この運動の主眼は,市民に,自分たちが「被曝」しているメディアがどういうものかを認識してもらうこと(つまり市民のメディア・リテラシーの向上),メディア関係者の自覚を促すこと,こころざしの高いジャーナリスト,メディア人を励ますことにあります.

★「報道は事実をまげない」の意味
 なお,放送法第三条2の3の,「報道は事実をまげないですること」については,「事実」に事象の軽重,重要度をも含めるように解釈すべきだと思います.全国ニュースでNHKが「ななかまどが咲いた」ことを延々10分も放送し,そのあと台風で大きな被害が出たことに2分しか使わなかったとしたら,あるいはイラクで重大な事件が起きたのにこれを無視したとすれば,個々のニュースに誤りがなくても,全体としては,視聴者には「まげ」られた世界像が提示されることになります.これが放送法に反するという認識,つまり,ニュース報道におけるプロポーション原則とでも言うべきもの,あるいは「アジェンダ・セッティング」問題の重要性の認識を確立する必要があると思います.

 政治的な集会の報道についてもこれが当てはまります.国会で「多数」であるということで,テレビ局は「二大政党」を多く番組に登場させますが,しかし「多数」の人が集まった護憲派や平和運動,労組系の集会はほとんど無視されます.一方,少人数でも非政治的な,あるいは政府寄りの集会は報道されます.このような報道のあり方も「事実をまげ」ている,と認定されるべきです.

 日本の市民は「アジェンダ・セッティング問題」という「問題」にあまりにも無知でありすぎると思われます.与えられたアジェンダを,それがアジェンダとして適切かどうかに疑問を持つことなく,受け入れてしまうのです.今回の選挙報道の最大の病理は,「郵政がすべてである」という小泉のアジェンダ・セッティングにメディアが無批判に同調したことにあります.

_________________
註1  「アインシュタインの文章,今回の選挙の評論でもおかしくない」
 http://blog.so-net.ne.jp/pegasus/2005-09-16
 原文:Why Socialism? by Albert Einstein
 appeared on the first issue of Monthly Review (May 1949).
 http://www.monthlyreview.org/598einst.htm
註2  http://ad9.org/ 現在,資金問題で活動が停滞しています.
註3 放送法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

放送法から
第一章の二 放送番組の編集等に関する通則
(放送番組編集の自由)
第三条  放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
(国内放送の放送番組の編集等)
第三条の二  放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

註4 「改憲阻止メディアキャンペーン10万円×10万人計画」
http://ad9.org/pegasus/tenbillionyen.html
_________________
付記 もしこのアイデアがgoodと思われる方がおられたら,さっそく実践に移していただけたら有り難く存じます.私自身は余裕がありません.


応援のクリック歓迎 (1日1回まで) →