(11月8日の記事「原爆の対日使用は事前に公知だった?」の続きです.)

12/14追記あり.末尾参照.
鬼塚英昭の「原爆の秘密」を読んだが,実にこの本は原爆の歴史を変えることになるかも知れない.2008年の夏に,「国外篇」「国内篇」の2冊として出版されている.

マンハッタン計画と日本への原爆投下の目的は,表向きはもちろん軍事だが,それに疑問を持つ立場からでも,「終戦後の対ソ関係」など,少なくとも政治的なものとされて来た.しかし著者鬼塚氏の分析は,主には,このプロジェクトに関わった大企業や金融資本の意志であったとするものだ.日本のダムなどと同じように,企業利益のため何としてでも「完成」させなければならない「公共事業」としての目的である.「完成」とは使用=原爆投下を意味する.つまり,原爆によって終戦が早められたのではなく,逆に,原爆の完成まで終戦が引き延ばされたというのだ.これを何十もの公表された文献により根拠づけている.

とても衝撃的な結論だが,原爆に関する従来の歴史観が,科学者と米英の政府を中心とする物語としてとらえるものであったのに対し,この巨大公共事業に食い込んだ大企業(アメリカの三大財閥であるデュポン,メロン,ロックフェラーのすべてが競合的に参加)の「意志」を読み取り,位置づけようとする態度は非常にまっとうなものと言うほかはない.むしろ,これまでの歴史家はなぜこの要素を無視してきたのかと問われなければならないだろう.応援のクリック歓迎

ポツダム宣言に「回答期限」が全く書かれておらず,そのわずか数日後にはテニアン島で広島への原爆の準備がなされている.そして宣言から11日後の投下である.つまり日本政府に回答の余裕を与えようという態度が見られない.これは,なにがなんでも日本に対して原爆を使うという意図があったことの有力な状況証拠だろう.

また,原爆投下の情報が日本軍の中枢部に事前に知らされていたという主張もショッキングだ.その一つの状況証拠として,長崎に抑留されていた米兵捕虜多数が原爆投下の日に神隠しになり,原爆に遭わずにすんでいるというのだ.この事実はどのくらい知られているのだろうか.
この項追記あり.末尾参照)

原爆開発の巨大さ,巨額のカネが動いたことは,次のような施設の写真や表からも容易に想像できる.
ガス拡散法によるウラン濃縮工場
オークリッジの「カルトロン」(電磁分離によるウラン濃縮)
プルトニウム生産炉一覧

12/14深夜追記:米兵捕虜「神隠し」の件については「国内篇」の138-139ページ,186-192ページに書かれているが,分散的で非常に分かりにくいし,はっきりしない.たしかに原爆で破壊された幸町の福岡第14分所での原爆犠牲者はわずか8人だが,「POW研究会」のサイトによると,これは「大半の捕虜が収容所から3.5キロ離れた造船所にいたため」としている.
http://www.powresearch.jp/jp/pdf_j/research/fk14_saiwai_j.pdf