広島平和研究所所長で,外務省アジア局中国課長などを歴任された浅井基文さんが,ご自身のブログで,近づく参院選に向けて,共産党への応援の辛口メッセージを発しておられる.(6月13日のコラム)
日本共産党への辛口提言

-ふたたび埋没することがないように-


あるメールリストへの東本高志さんの投稿で知った.私も全くと言っていいほど共感する.上をクリックして全文を是非読んでいただきたいと思うが,いくつかさわりの部分を抜き書きする.(末尾に少し長い私のコメントあり.)

まず,民主党の評価から始まる.
しかし、民主党を牛耳るトップレベルの人々は、「親小沢」か「反小沢」かにかかわりなく、自民党と大同小異、五十歩百歩で、変わり映えがしない。特に平和・安全保障の面では、改憲志向、日米軍事同盟肯定、「核の傘」必要(非核三原則邪魔者扱い)、生活・くらしの面では、大企業優遇、消費税増税、新自由主義路線であり、自民党とほとんど変わるところはない。
そして,今度の選挙で共産党の躍進を願うが,「しかし、いまの共産党の取り組みを見ていると、躍進はおろか、現状維持すらむずかしい厳しい状況にあるのではないか、と考えざるを得ない」として,いくつか問題点を指摘している.
私は、共産党が在日米軍基地の完全撤去をアメリカ側にはっきり主張したことは極めて正しいし、100%支持する。しかし、この問題の扱い方(志位委員長の訪米報告)において、共産党は終始共産党の目線で物事を見ており、国民・人々の目線で物事を見たらどう受け止められるか、ということに考えが及んでいないのではないか、という印象を強く感じてならない。また、赤旗の報道によって判断する限り、多くの党員・支持者も同じ目線に縛られているとしか受け止められない。
具体的には,志位委員長の訪米に関連して,「赤旗を読んでいると、共産党側の『大事件』感覚は一般人にも共有してもらえるという思い込みが働いているように感じられてならない」として,次のように批判.
志位委員長を応対したのは国務省のメア日本担当部長(日本の外務省でいえば課長クラス。ちなみに、同人は、日本部長になるまでは在沖縄総領事)でしかなかった。アメリカ政府の「高官」でも何でもないのだ。

率直なことをいえば、私は志位委員長の相手をしたのがメアだと知ったときには、「アメリカは共産党にはずいぶん横柄、失礼だな」と思った。
志位委員長の訪米の「成果」を全面に押し出して共産党に対する国民の支持を広げよう、参議院選挙で躍進しようと共産党は頑張っているが、国民の多くにとってはそれほど目をむくほどのこととは受け止められていないのであって、私としては、共産党の躍進に結びつくとはとても思えない、ということだ。私が、共産党の目線と国民の目線とは大幅にずれていると指摘する所以である。
志位委員長の訪米報告の中の,原水禁運動に触れた部分については,
ハッキリしている歴史的な事実は、当時問題になったのは、志位委員長があげた部分的核実験停止条約の問題に加え、「いかなる国」(いかなる国の核実験にも反対するのか、帝国主義・アメリカの核実験と社会主義・ソ連の核実験とは区別するべきなのか)問題(第三の問題はいわゆる「反党分子」の扱いの問題)があった。私は、5年間以上の広島滞在の中で、「いかなる国」問題は、いまや完全に過去の問題となった部分核停条約問題とは異なり、今日に至るまで深刻な後遺症を日本の原水爆禁止運動の分裂という形で残していることを実感している。そして、この問題に関しては、共産党による全面的な総括が行われたことを承知していない。
さらにイランの核問題に対する共産党の態度に触れた後,最近の韓国の哨戒艦沈没事件に対する対応についても批判している.
朝鮮については、3月に起きた韓国の哨戒艦「天安(チョナム)」の沈没事件に関する赤旗の報道には深く失望させられている。赤旗の報道内容は、ほとんどマスコミ大手のそれと大同小異(この文章を書いている6月13日現在では、わずかに、ロシアの調査団が韓国の発表した報告書に否定的な判断を下したという時事電を報じた程度)だ。
そして最後に次のように結んでいる.
私は、日本における民主政治の健全な発展のためには、共産党が躍進することが不可欠だと思っている。とくに、改憲志向、日米軍事同盟の変質強化を軸にして、民主党及び自民党が「政界再編」に走る危険性が高まっているなか、そういう動きを許さないためには、多くの国民が共産党に保守政治に対する批判票を投じることが極めて重要だと考えている。しかし、そういう国民の批判票の受け皿となり得るためには、共産党が自分の目線に閉じこもり、正当性を独占しようとし、都合の悪いことには口をつぐむというようなことがあったのでは「百年河清を待つ」ということに終わってしまうことを私は懸念する。共産党の関係者が虚心坦懐にこの文章を読むことを願っている。
すべて全く同感だし,私自身が考えていたことでもある(ホントです).問題なのは,このようなことを党内で気付いて議論し合うという能力が,同党には欠けているということだ.これが深刻な問題だ.これは,党員の「民主集中性」の履き違えの問題があると思う.党員の党外への意見の公表に制限があることに関しては,共産党に限らず,多かれ少なかれ政党であればどの党も何らかの規定があると思うが,党内での議論は自由である.ところがその自由が生かされていない.規約17条(後述)が拡大解釈され,しかもそれが党内の議論にまで適用されると誤解されているのではないか.

1年ほど前に,東京で共産党支援の大学関係者の集会があった.学者と言えばいろいろうるさいことを言う人種なので,党本部や幹部に対しても辛口の意見が出るだろうと期待していた.ところが,自分たちの経験談の発表などに始終し,全国的な,あるいは国際的な問題についての方針などについての根本的な議論はほとんどなかった.党本部への批判もなかった.(わずかに私が登壇して一人「異端」風の意見を述べたが,やはり「浮いた」感じ.)うるさ方であるはずの学者にしてからがこうなのだ.

出席者たちは,それぞれの職場や持ち場では,鋭い批判精神を発揮して活動しているはずだが,なぜここではそれを作動させないのだろうかと不思議に思った.あたかも,職場での「異端」の罪を,この集会での「従順」によって償ってでもいるかのように.

どうしたらこのような気風が改められるのか,なかなか見当もつかないが,ブログやツイッターによる党員や支持者による意見交流は,変化の一助にはなると思う.その際,共産党規約17条を厳密に解釈することが重要だ.
共産党規約17条

全党の行動の統一をはかるために、国際的・全国的な性質の問題については、個々の党組織と党員は、党の全国方針に反する意見を、勝手に発表することをしない。
拡大解釈の恐れが十分にある問題のある条項なので,いずれ改正されるべきだと思うが,それでも次のことに注意する必要がある.すなわち,規制の対象となるのは「『党の全国方針』に反する意見」であって,「『党本部の意見』に反する意見」ではない,ということだ.

なお,共産党の規約と「民主集中性」の問題については,5年前のブログ記事を参照いただければありがたい.
ブログ時代の共産党大会

6/21追記:規約17条に関しては,次の記事で実例によって多少しつこく論じています(17条引用のすぐ下).
「平和共同候補」運動への赤旗の批判について