プルトニウム燃料を通常の原子炉で燃やすことを「プルサーマル」という.プルはプルトニウムを,サーマルは「熱」を意味する.プルトニウムは高速中性子炉で燃やすのが本命とされたが,これを通常の原子炉,つまり「熱」中性子炉で使うためにこの呼び名となった.

現在,プルサーマルを進めることが国策となっているが,一番手の関西電力などがコケてしまったため,九州電力にお鉢が回ってきた.そして,その原子力発電所をかかえる小さな町の議会が,その成否を左右することになった.

先週金曜日にこの町の議会に呼ばれ,プルサーマル問題について意見を述べさせてもらった.何しろ原子力問題は関連する分野が広すぎるので,すべてに通じることはとても出来ない.自分の専門分野以外はどうしても半ば素人の意見とならざるを得ない.とはいえ出来るだけ正確にものが言えるように,出来るだけ多くの文書に当たるなど,かなりの時間を費やして準備した.

原子力の安全に責任のある,その名も「原子力安全委員会」(以下,安全委員会)という内閣府の機関が審査をするのだが,今年の8月にOKを出している.そこでその文書を読んでみた.ところがこれがかなりお粗末である.まず長さがわずか14ページしかない.文章もひどい.ほとんどの文章に主語がないので,たとえば何かの判断が示されていても,誰がそう判断したのかが分からない.(次に答申などがある.)
 http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2005/genan051/genan-si051.htm

実は,審査は二段階になっていて,九電の申請書はまず経済産業省で審査される.その報告書が今年の2月に出て,それを安全委員会に諮問するという形になっている.実はこの報告書の方が少し長く,これが実質的な審査と言えるほどである.しかも,安全委員会の答申はほとんどこの報告書の丸写しなのである.したがって,これらの2つの文書を併せて読んで初めて,先ほどの,主語が何かという問題がようやく解けてくるといった有様だ.
 (通産省の報告書は次のページの「配付資料1−1」)
 http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2005/genan009/genan-si009.htm

これらの報告書に対しては内容的にも多くの反論,批判が出されているが,当日私が強調した点を一つだけ挙げよう.それはプルトニウム入り燃料ペレット(燃料の最小の塊で1センチほどの円柱状)からのガス放出の問題である.安全委員会は,玄海プルサーマルで使用されるプルトニウム入り燃料が関西電力の原発で計画されたものと同じ規格で,その時に検討が終了しているとして,詳細な専門的検討はしていない.しかし原子炉の規模が違うというだけでなく,それから7年も経っており,新しい技術的知見も得られている.それがこの問題である.

  (図の説明です.MOX: これが「プルトニウム入り燃料」.この略称の由来は,
   Mixed OXide つまり混合酸化物(酸化ウランと酸化プルトニウム)から.
   UO2が通常のウラン燃料.縦軸がガスの放出量,横軸が燃料を燃やす度合い,
   つまりどれだけ長く原子炉に入れっぱなしにするか,ということ.)
  (次のスライドの一番はじめの図)
   http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/EnergyProblem/IAEArep.pdf

ガスがあまりたくさん出ると,この燃料ペレットを収めている管が破れて大変なことになる.この横軸の目盛り「45」での運転を九電が計画しているが,これは40付近の大量のガス放出領域より上であり,不安だ.この論文は2001年,つまり関西電力の審査の後に出ている.

建築構造計算の偽造を検査機関が見抜けなかったことが問題になっているが,同じような事が原子力の分野で起きては困る.

機会を見てまた書きます.
(12月5日一部改訂)
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批判派の側の有力サイトを紹介します.
美浜の会 ストップ・プルサーマルの部屋
http://www.jca.apc.org/mihama/stop_pu/stop_pu_room.htm
京大原子炉 原子力安全研究グループ
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/

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