HAARPとは,電離層に向けて強力な電波(短波)を発射して,電離層についての研究をするための実験施設とされている.
公式サイト http://www.haarp.alaska.edu/haarp/index.html国防総省[
09.9.4修正]がこれに噛んでいることから,軍事研究の面があることは想像できるが,地震兵器などというのは,その出力や,それが向けられる方向から考えて,ジョーク以外の何物でもない.上記サイトから,その技術的諸元を見てみよう.
Technical Informationから箇条書きに抜き出すと,・・・
1)波長と出力:HF帯*(2.8〜10 MHz)で最大3.6MWの出力**
2)ビーム方向:電離層に向けて発射
3)標的:発射周波数によって異なる100〜350kMの高度の,数百mの厚み,数十km直径の上空で,部分的に吸収される.
4)標的でのエネルギー密度:電離層でのエネルギー密度は3μW/cm^2以下***.
これは,太陽からの電磁波の数万分の1,電離層を作るエネルギー源である太陽紫外線のエネルギーの揺らぎの数百分の1.
(このような小さな量でも,高感度の受信装置によってその影響が観測できる.)
HAARP Fact Sheetから少し詳しいデータを追加すると,・・・
5)フェーズド・アレイ送信機である.
6)タワーの数は180.
7)それぞれのタワーに低周波用(2.8 to 8.3 MHz)と高周波用 (7 to 10 MHz)の二組の,交差したダイポールアンテナが付いている.
8)地上15フィートに反射面が作られている.
9)30個の送信機ボックスがあり,それぞれが6対の10 kW送信機を備えている.合計で,6 x 30 x 2 x 10 kW = 3600 kWとなる.
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註
* 3MHzから30MHz.
** JOAKラジオ(NHKラジオ第一,NHK菖蒲久喜ラジオ放送所)の300kWの10倍強.
*** 結構大きい! しかしケイタイ端末から1mの距離の3分の1.
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以上の数値はそのまま額面通り受け取っていいと思われる.リーゾナブルなものだ.
大規模な「人工」地震(つまり発生時刻を選べると言う意味の)にはおそらくメガトン級の水爆ほどのエネルギーが必要だ.もちろん,地下に地震のエネルギーが十分たまっているときに,これを解放する,つまり地震の引き金を引くにははるかに少ないエネルギーで足りるだろう(ちょうど,ピストルの引き金を引くのにエネルギーがほとんど要らないように).しかしそのためには,このエネルギーがどこにどれくらい溜まっているかを知らなければならない.つまり地震予知の技術が必要だ.
少ないエネルギーの「引き金」で実現するには,より正確に,つまり「直前情報」としてこれを知る必要がある.その困難さもさることながら,当然,いつでも好きなときに地震を起こせるということにはならない.
上のHAARPの諸元を見ると,たしかに電波放射施設としては規模は大きいが,地震のエネルギーとはもちろん桁違いだし,引き金としてもはるかに不足するだろう.もちろんこの周波数の電波は地下に侵入しない.しかも,電離層に向けて発射するというのだから,なおさらだ.つまり,同じエネルギーを使うなら,地面を直接叩いた方がはるかにましだ.
私は地震が専門ではないが,以上のようなことは理系の人間にとっては常識的なことで,だれも異論をはさまないだろう.つまりHAARPと地震とを結びつけるのは,理系の人間にとっては荒唐無稽ということだ.「気象兵器」についても同様だ.
気象現象はカオス的なものと思われるので,もしクリティカルな「くすぐり」を見つけることができれば,ひょっとしたら小さなエネルギーでも大きな変化をもたらすことができるかも知れない.しかしこれまた地震の「引き金」と同様,気象の長期予報よりもはるかに難しいだろう.また,気象システムは地球全体で一つであり,「敵国」の気象だけを変化させるというわけにはいかない.時間が経てばいずれ自国にも跳ね返ってくる.
人類は,ラジオ放送の開始以来,電離層に電波を照射し続けている.上の註に書いたように,日本で最大のものはおそらくJOAKラジオの300kWが最大だろう.ロシアの声(旧モスクワ放送)の中波の最大のものは500kW.これらの規模のものがおそらく世界中に少なくとも数十はあるだろう.これを合計すればHAARPの3.6MWを上回る.もちろんHAARPの電波が電離層の狭い領域に集中しているという違いはあるが.