(趣味の話です.)
モーツアルトの「フィガロの結婚」の,素晴らしいDVDを見つけた*.チューリッヒ・オペラハウスでの1996年のライブで,指揮はアーノンクール.あたりまえだが,やはりオペラは音だけでなく字幕付きの映像でないとダメだ.96年ということは,このDVDが録画されていたちょうどその年に,その隣の国の「ザルツブルグ音楽祭」で同じ作品の上演を観ていたことになる.電光掲示板はドイツ語と英語なので,ほとんど歌詞や台詞の意味は分からなかった.舞台も簡素そのもので,いくつかの有名なアリアのサウンドを,もちろん本場の雰囲気とともに,もっぱら楽しんだといったところだが,今回字幕付きで観て,この話のストーリーが良く分かった.こんな話に「ネタバレ」もないだろうが,そうとうハチャメチャなドタバタ劇だ.

カッコよく「初夜権」を廃止したはずの殿様が,臣下フィガロの婚約相手に横恋慕,何とかモノにしようと策略をめぐらせる.フィガロの側もこれに対抗作戦を発動,両者の間のおかしなバトルが繰り広げられる.原作の「フィガロの結婚 または おかしな1日」** (Le Mariage de Figaro ou la folle journee) というタイトルのとおり,まさに「おかしな1日」だ.かなり笑える.

いちおう悪玉は殿様(伯爵)とその一派,善玉はフィガロ側と伯爵夫人ということだが,オペラの素晴らしいところは,悪玉たちが歌うアリアもまたこの上なく魅力的ということだ.「悪」と言っても極悪ではなく,悲しい人間の性として憫笑に耐える程度のものなので,許せる範囲ということでもあるが.

このDVDではケルビーノが特に素晴らしい.1枚目の目次の背景音楽にも使われているが,この役の一番の聴かせどころのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」には本当にうっとりする.主役のフィガロも,敵役のアルマヴィーヴァ伯爵も素晴らしい.

ケルビーノのアリア「自分で自分が分からない」のシーン


ケルビーノのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」のシーン

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* 制作:ZDF,1996年.発売元:TDKコア株式会社,2003年.
** 原作は岩波文庫にあるが,残念なことに絶版.図書館で借りるしかない.

2月8日追記(上の3つの画像も)
新国立劇場のサイトに,「モーツァルトの華麗な音楽が、登場人物たちの浅ましさや貪欲を、愛すべき人間性へと昇華させます」とありました.まさにこの言葉に尽きます.
http://www.nntt.jac.go.jp/bravo_opera/program/figaro01.html

他のオペラDVD記事→「フェニーチェ劇場の椿姫」

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