福岡県の大学関係者・研究者の
共産党後援会ニュース(8月7日付け)に,次のような文章を寄稿しました.発行者の許可を得て転載します(紙と違ってこちらはハイパーリンク付き).この「後援会」に関しては,「全国区」の会議に出た時のことを,
7年前の記事にも書いています.
核兵器禁止条約という前進の一方で左翼・リベラルまで国家主義に取り込まれる恐れ長く望まれた
核兵器禁止条約が,7月7日の七夕の日に,国連の会議で採択された.発効は時間の問題だろう.米・露・中の核大国に批准させ実効化するのは困難なことだが,「核のない世界」への大きな一歩だ.
核をめぐる日本の市民の焦眉の課題は,北東アジア非核地帯化(朝鮮半島と日本を非核化し,周辺の核保有国が保証)だが,朝鮮民主主義人民共和国(以下,北朝鮮)の核とその運搬手段の開発の進展は,まさにこれと逆方向への動きで深刻である.
しかし北朝鮮に反発するあまり,日本国内では一方的で公平さを欠いた言説や対応が幅を利かしている.アメリカを筆頭とする核大国が持つ核兵器は,数も威力も北朝鮮の比ではないにもかかわらず,非難はもっぱら北朝鮮に対するものだけが聞かれる.国会でも,共産党も含め参議院で全会一致採択された3月8日の「北朝鮮による弾道ミサイル発射に抗議する決議」(翌日衆院で同様の決議)は,アメリカの核を度外視するだけでなく,まさに同時進行で実施されていた過去最大と言われる米韓軍事演習にも一言も触れず,北朝鮮のミサイル実験を一方的に非難するものになっている.アメリカの「核抑止力」に依存しているという点では(いわゆる核の「傘」),わが国も間接的ながら北朝鮮に「核の脅威」を及ぼしているが,その自覚も全くない.
このようなロジックは冷静に考えれば誰でもわかるはずなのだが,防衛や安保にまつわる問題では左・右を問わず国家主義的なファナティシズムに多かれ少なかれ支配されしてしまうようだ.このような,特定の国を一方的に悪魔化するような態度・言説は危機の解消どころか,より緊張を高めてしまう.このような事態に対してパグウオッシュ会議が
5月4日に出した声明や,それに1日先んじての,筆者もメンバーである
福岡核問題研究会の声明は,米・朝の両者に自制を求めているので,是非参照いただきたい.(筆者の「ペガサス・ブログ」の
5月6日の記事からリンク)
このように,核廃絶への国連での大きな一歩とは裏腹に,北東アジアの緊張は高まっているが,問題は朝鮮半島だけではない.ほとんど報道されないが,中国との間でも緊張を高める,石垣島・宮古島など先島諸島への陸自配備計画が進められている.三上智恵監督の最新作「標的の島 風(かじ)かたか」で大きく取り上げられた,この「東シナ海戦争」準備への抵抗は,わが国の平和運動の最優先課題の一つでなければならない[
関連SNS:琉球弧 (南西諸島) ピースネット].佐賀空港の陸自オスプレイ配備問題は,今年度末に創設が目論まれる「水陸機動団」,つまり日本版海兵隊が「東シナ海戦争」に備えるという問題であり,私たちにとってはローカルな課題でもある.
北朝鮮のミサイル実験に対する共産党を含む野党の対応を上で問題にしたが,共産党が
今年1月の大会で出した方針には実はもっと深刻な問題がある.安保問題に関して,5大会16年ぶりに,急迫不正の主権侵害の場合は「自衛隊を活用する」という文言が復活した[
関連ブログ記事].これは,同決議にある「憲法と自衛隊の矛盾の解決は,一挙にはできない」という消極的容認の範囲を超え,軍事組織としての自衛隊の必要性を明確に認めたものだ.なぜなら,主権侵害のケースで隊員が手にするのは恐らくスコップではないので,「自衛戦争も辞さず」と述べたことになるからだ.
また,志位委員長はこの大会の2年前,戦争法が国会を通った直後の
「国民連合政府」についての記者会見で,その政府は日本有事のさいには安保条約5条の日米が共同対処の項を発動するとまで述べた.しかし上記
大会決定では,日本に駐留する米軍は「日本の防衛とは無関係の,干渉と介入を専門とする『殴り込み』部隊」と規定されており(第3章20-2),志位委員長の発言と矛盾する.
かつて第2インターナショナルが,第一次世界大戦の長期化の中で,その各国支部の中の「祖国防衛のためには戦争もやむなし」というナショナリズムの強まりによって崩壊したという史実があるが,共産党までが隣国の軍事的脅威という考えに(もちろん事実ではあるが)一面的に支配され,国家主義に取り込まれていくのではないかと恐れる.
論争点であるべきこのようなアジェンダが党内でほとんど議論らしい議論もなく決まり,また見過ごされていることも深刻に受け止めるべきだ.
--------
関連ブログ記事から
自衛隊の存在そのものが違憲である「攻められる」ことと「攻める」こととの等確率性カント「永遠平和のために」の第三条項憲法九条下での国防