SSブログ

「月光の夏」のモデルとなったピアノを弾いてみました [身辺雑記]

ちょっと現実逃避です。..意外な事実・真実の発見も。(8/18追記あり. '23/1/18更に追記)
IMG_3797w2000.jpg「月光の夏」という映画がだいぶ前に公開されています。太平洋戦争末期の夏、鳥栖の国民学校(今の小学校)に、出撃を控えた特攻隊員が訪れ、ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」を演奏して去っていった、という物語です。

そのピアノは修復されていて、現在、鳥栖駅に近い「サンメッセ鳥栖」という施設にあり、誰でも弾けるようになっています。鳥栖市民の貴重な財産なので、「ストリートピアノ」という位置付けではなく、施設の受付で使用を申し込むシステムになっていて、しかも「一人5分以内」とのこと。

「だれでもピアノ」というストリートピアノ情報サイトでこれを知ったので[1]、いつか弾いてみたい、もちろんベートーヴェンの「月光」(の第一楽章)を、と思っていました。それが昨日、実現できました。やはり受付で「5分以内」と言われましたが、5分より少しはみ出すので、あらかじめ断っておきました。他にはだれもいないので。

この曲は、そのあまりにも有名な通称のため情景音楽か表題音楽のように誤解されているかもしれません。実は私も、この曲を練習してみるまではそのようなイメージを持っていました。しかし実際に弾いて見ると、全く違うということが分かります。本当は、恋する男の苦しい胸の内の吐露、という印象です。実際、ベートーヴェンがこれを作曲した時、弟子の少女に心を寄せていましたが、しかし身分の違うものどうしの叶わぬ恋だったようで、その気持ちが込められていると想像します。ベートーヴェンはこの曲をその少女ジュリエッタ・グイッチャルディに捧げています。

「月光の夏」の特攻隊員もおそらく、故郷に残した恋人に想いを寄せてこの曲を弾いたのではないか、などと想像しながら、このフッペルのグランドピアノに触れる日を待っていました。

sunmessetosu.jpg広いロビーの片隅にあり、だれもいないのですが、「本物」を前にしたためか、緊張してミスばかり。・・・もっとも、家で練習している時も完成からはまだまだ遠いのですが。

このピアノがその国民学校に寄贈されたのは昭和6年(1931年)ということなので、相当古ぼけたものだろうと想像していましたが、立派に修復、メンテナンスされていて、音もタッチもとてもいい状態でした。

 * * * *

家に戻って、このピアノを弾いて出撃に赴いたとされる、この特攻隊員の運命は結局どうなったのか気になり、ネット検索などで調べてみました。すると意外な記事に行き当たりました。それによると、確かにこのピアノで「月光」を弾いた兵士はいたが、特攻隊員ではなかった、ということ。つまり、この映画になった物語のコアの部分はフィクションだった、というのが真相のようです。この説を日本語版wikiも採用しています。

ひるがえって、ストリートピアノ情報サイトにある、このピアノについての記述を見ると、やはり「史実」とはどこにも書いてないし、むしろフィクションを匂わせるものでした。

しかし映画やそれにまつわる「公式の」言説は、あくまでも史実を匂わせるもので、私もそう信じていました。このような仕掛けはあまり感心しません。第一、後味の良いものではない。フィクションなら最初からフィクションとして断っておけばよいし、それはそれで十分に感動的な物語になりえたし、もちろん平和を訴える力も弱まることはなかったでしょう。

佐賀の有名な温泉ホテル「龍登園」のスタッフのブログにもこのピアノの記事がありました[2]。その最後の方にある次の文章は、とても意味深長と思います。
特攻作戦は、事実や数字や論理の上に組み上げるべき場面で物語を選んだことによる愚行だったとIT担当の私は思います。
そういう意味では、「月光の夏」において悲劇性を盛り上げるために特攻などの要素を盛り込んだこと、そのことは批判されることなく創られた悲劇的な物語が真実として流布してしまうことの根底にも、特攻作戦と同じ「事実より物語を求めてしまう人間の弱さ」が横たわっている、根っこは同じ行動だと言えます。
事実より物語を求める、その先に築かれた平和は、同じく物語によって容易に戦争称賛に転向します。
「現実逃避」のはずでしたが、また少し現実に戻って来た感じです。

[1] https://pianomitsuketa.com/5625/
[2] https://www.ryutouen.co.jp/blog/2011/12/08/1181
------------
追記(8/18): このピアノに因んで「フッペル鳥栖ピアノコンクール」が毎年開かれています。ただし使われるピアノは市民文化会館大ホールのスタインウェイ。このコンクールの公式サイト(上記リンク)には、後半で指摘したフィクションの物語が事実として書いてあります。流石にこれはやめた方がいいかと思います。鳥栖の皆さん、どう思われますか?
------------
追記(2023/1/18): この曲を、1月28日、ふくふくホールでの「玉石混淆音楽会」で演奏します。「石」の方ですが・・・。
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント