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他国の領土での暗殺—その法的根拠を全く議論しないメディア [メディア・出版・アート]

ayman-al-zawahiri_house.jpgtitle in English: Assassination on the territory of another country - the media never questioned the legal basis for it.
1401577.gif8/9 末尾に米国リサーチサイトの分析を追記
もう5日前のことになるが、米軍がアフガニスタンでドローンによるザワヒリ「容疑者」暗殺を実行したことが報じられた。内外の報道をいくつかチェックして見たが、この行為の合法性について議論した記事は見つからなかった。(写真は末尾に引用するDrone Wars UKのサイトから。"Kabul house targeted by US drone strike, 31 July 2022")

米大統領「アルカイダ最高指導者を殺害」と発表 ドローン攻撃で
(毎日新聞 2022/8/2 09:37,速報)
https://mainichi.jp/articles/20220802/k00/00m/030/028000c

翌日の長文の続報では、「作戦」の経緯など詳細を報じているものの、他国の領域で暗殺を行うという行為そのものへの疑問など、法的、道徳的問題には一言も触れていない。タリバンの非難声明を引用しているだけである。
https://mainichi.jp/articles/20220803/ddm/012/030/100000c?cx_fmt=nml
「どんな理由であったとしても、この攻撃を強く非難する」。暫定政権のムジャヒド報道官は2日昼前に発表した声明で米国を非難。カブール中心部にあるシェルプール地区の民家への空爆があり、米国のドローン攻撃だったことが判明したとした上で「こうした行動は米国、アフガン、そして地域の利益に反する」と述べた。

BBCの8月3日の報道でも、法的問題には触れられず、引用されたタリバンの非難声明の中に「国際的な原則の明白は違反」という言葉があるだけである。そして、米側は「法的根拠があったと主張した」と続く。
"A Taliban spokesman described the US operation as a clear violation of international principles - but did not mention Zawahiri. US officials maintained that the operation had had a legal basis."
https://www.bbc.com/news/world-asia-62387167

アメリカ側での「合法性」の議論については、ガーディアンは少し詳しく伝えている。
https://www.theguardian.com/world/2022/aug/02/ayman-al-zawahiri-how-us-killed-al-qaida-leader
"Lawyers were similarly consulted on whether the attack was legal. They advised that it was, given the target’s prominent role as leader of a terrorist group."
(弁護士も同様に、攻撃が合法かどうか相談を受けた。弁護士たちは、標的がテロリスト集団のリーダーという重要な役割を担っていることを考慮し、合法であると助言した。)
ワシントン・ポスト(8月3日)もほぼ同様であるが、少し詳しい。
https://www.washingtonpost.com/national-security/2022/08/02/zawahiri-drone-operation-kabul/
Government lawyers confirmed the legal basis for the operation, which is standard procedure for drone strikes. Zawahiri had a “continuing leadership role in al-Qaeda” and had participated in and supported terrorist attacks, the senior official said. He was deemed a lawful target.

政府の顧問弁護士は、無人爆撃機の標準的な手順であるこの作戦の法的根拠を確認した。政府高官は、ザワヒリは「アルカイダで継続的に指導的役割を果たし」、テロ攻撃に参加し支援してきたので、彼は合法的なターゲットとみなされたと述べた。
さてその「法的根拠」の確認とやらは、具体的にどういう内容なのか、詳しく聞きたいところだ。続報で掘り下げてもらえるだろうか?

ドローン戦争を批判する市民団体"Drone Wars UK"は、このような、問題点を表立って指摘しない風潮を批判している。
The killing of Ayman al-Zawahiri:  the tip of the targeted killing iceberg
Author: Chris Cole
アイマン・アル・ザワヒリの殺害:標的殺害の氷山の一角
https://dronewars.net/2022/08/03/the-killing-of-ayman-al-zawahiri-the-tip-of-the-targeted-killing-iceberg/
最後の部分を引用:
Drones have fuelled a ‘whack-a-mole’ approach to counterterrorism, undermined non-military means of challenging terrorism, fuelled anti-Western sentiment, eroded international law, and created a culture of ‘forever war’. Yet it feels in many ways as though politicians, journalists, academics and commentators believe there is now little to be done about powerful states carrying out such strikes and that drone warfare has become something that we must simply accept. We, for one, disagree and will continue to say so.

ドローンは、テロ対策への「もぐらたたき」的アプローチを助長し、テロに対抗する非軍事的手段を損ない、反西欧感情を煽り、国際法を蝕み、「永遠の戦争」の文化を作り上げた。 しかし、政治家、ジャーナリスト、学者、コメンテーターたちは、強力な国家がこのような攻撃を行うことに対しては、もはやどうすることもできないと考え、ドローンによる戦争は単に受け入れなければならないものになったと、多くの点で考えているように感じられる。私たちは、そうは思わないし、そう言い続けていくつもりだ。
・・・・・
「標的1人だけを殺した」というが、何枚ものブレードで一度に切り裂くという、恐ろしく残忍な殺し方だ。
もしザワヒリ「容疑者」が、WTC「テロ」の3,000人の殺害に責任があるとしても、アメリカのブッシュ大統領はどうなのか?彼はその何倍ものイラク人を殺したのではないか。その責任は取ったのか?

極悪人なら法手続きによらない処刑も可能、というのなら、山上容疑者の場合はどうなのか、という話にもなりそうだ。
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8/9 追記:New York University School of Lawに拠点を置くJust Securityというアメリカのサイトに、本格的な議論がありました。いずれも懐疑的な意見です。
https://www.justsecurity.org/82584/top-experts-raise-questions-regarding-legal-basis-of-zawahiri-strike/

4人の専門家の意見が紹介されていますが、そのうち3つを引用で簡単に紹介。(DeepL訳を微修正)
Brian Finucane, senior adviser with the U.S. Program at the International Crisis Group
国際法の問題として、米国政府はおそらく、ザワヒリは現在進行中のアルカイダとの非国家間(non-international)武力紛争における敵の司令官として標的になっていると主張するだろう。 また、カブールへの攻撃は、事実上の政権(de-facto authorities)がアルカイダの脅威に事実上対処できない、あるいは対処する意思がないため、自衛のための合法的な措置であると主張することも予想される。

しかし、このような議論は疑問を投げかける。

・9.11から20年経った今、アルカイダは米国にとってどんな脅威なのか、それはアフガニスタンからなのか、それとも他の地域からなのか。
・アルカイダの脅威は、国際法上、自衛のための武力行使が「必要」とされるほどなのだろうか。 それとも、武力を必要としないほど脅威を軽減するには、他の非軍事的な手段では不十分なのか。
(Or are other non-military tools sufficient to mitigate the threat such that force is no longer necessary? )
・バイデン政権には、アルカイダとの武力紛争がいつ終わるかという理論があるのか?あるとすれば、それはどのような理論なのか。


Professor Adil Haque, Executive Editor at Just Security
米国はほぼ間違いなく、今回の攻撃は国連憲章に基づく固有の自衛権の行使であると主張するだろう。オバマ政権は、自衛権は非国家武装集団による現実の、あるいは差し迫った武力攻撃によって発動されるとの立場をとっている。いったん発動されれば、その集団との「敵対行為」が続く限り、自衛権は発動されたままとなり、武力行使が正当化される。重要なのは、将来のある時点でさらなる攻撃が予想される限り、さらなる武力攻撃が進行中であるか差し迫ったものであるかの要件はないということである。また、自国の領土を武装集団が使用することを阻止する意思がその国にない、あるいはできないと判断された場合、その領土で攻撃を行う国の同意を求める必要はない。この立場は、オバマ政権とトランプ政権で採用されたものであり、バイデン政権が他の立場に目を向けると考える理由はない。

私の考えでは、米国の立場のこの二つの観点には根本的な欠陥がある。自衛のための武力行使は、継続的または差し迫った武力攻撃がない限りできない。また、他国の領土で武力行使する権利は、その国の同意なしに、継続的または差し迫った武力攻撃に対する責任がない限り、ない。米国は、ザワヒリが急迫した武力攻撃を指揮し、それを先制攻撃したと主張していないし、アフガニスタン政府がアルカイダの進行中の作戦に実質的に関与しているとも主張していない。タリバン政権のメンバーがザワヒリに安住の地を提供した可能性はあるようだ。しかし、それだけでは空爆を正当化することはできない。

Professor Oona Hathaway, is Executive Editor at Just Security
国内法の観点からは、ザワヒリへの攻撃の法的根拠は、ほとんどの弁護士が同意するように、単純なものである。9.11テロのわずか数日後に制定された2001年軍事力行使許可は、大統領が「2001年9月11日に発生したテロ攻撃を計画したと判断した...組織に対して必要かつ適切なすべての武力を行使する」権限を与えるものである。ザワヒリは、同時多発テロを実行した組織のリーダーとして、また9月11日当時、同組織の有力者であったことから、その権限の範囲内にある。しかし、この表面的な明確さは、2001年の認可が失効したかどうかという、より深い問題を無視するものである。2001年のAUMFには適用期間を定めた条項(sunset clause)がないが、議会は20年以上前にこの法律を制定したとき、明らかに無限の戦争を想定していなかった。この権限は事実上失効したという強い主張があるが、この権限によって間接的に与えられた権限でグアンタナモ湾に拘束され続けている人々が訴えても、まだ勝訴には至っていない。実際、ザワヒリへの攻撃が成功したことで、拘束の根拠となった紛争が消滅したことを理由に、拘束に対する新たな異議申し立てが行われる可能性がある。

国際法上の根拠も同様に、表面的には簡単だが、深く考えると難しい。表面的には、国連憲章第51条の「自衛」行為として正当化され、攻撃直後に国連に提出された51条の書簡に該当すると政権が考えているのはほぼ間違いない。しかし、ザワヒリへの攻撃が9.11テロから20年以上経過していることを考慮すると、その法的論拠を維持することは難しくなってくる。確かに、アルカイダを倒すために20年間、何兆ドルもの資金を投入してきた我々の最善の努力にもかかわらず、アルカイダの戦闘員数は9.11のときよりも増えている。しかし、どの関連組織も米国を攻撃する計画を持っているとは言い難いし、もし持っていたとしても、ザワヒリがその計画に関与していたとは考え難い。国際法上、自衛行為は、自衛行為を行う国家に対する積極的な継続的脅威(集団的自衛行為であれば、その国家に支援を要請した国家に対する脅威)を回避することを目的とする必要がある。また、アフガニスタンの主権の問題もある。アフガニスタン政府は明らかにこの攻撃に同意していない。米国は長い間、非国家主体がもたらす脅威に「対処できない」あるいは「対処する意思がない」国家に所在する非国家主体に対する攻撃を、51条の範囲に含まれるものとして正当化しようとしてきた。しかし、この理論を明確に支持する国は十数カ国にも満たない。このような攻撃が正当化されるというのは、ワシントンの常識かもしれないが、その常識は、ワシントンで当然とされていることが、伝統的な国際法の手法と乖離している多くの方法の一つである。(国際法とは別の国際人道法の下では、ザワヒリが正当な軍事標的であると仮定すれば、空爆は明らかに合法であったように思われるー現在の報道によれば、驚くべきことに巻き添え被害はなかったという。これは、20年にわたる戦争で培われた周到な計画、技術、技能の証であろう。)

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