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岡田晴恵氏の「秘闘」の一節から [メディア・出版・アート]

前の記事で紹介した岡田晴恵氏の「秘闘 私の『コロナ戦争』全記録」、とてもドラマティックなくだりに遭遇したので、ついつい読み取ってしまいました。(最後の方の太字は引用者)
132ページから
もう一人の週刊誌記者
2020年3月後半から感染者数は増え始め、緊急事態宣言が発出された4月には深刻な状況を迎えていた。
その日、私はたまたま家に居て、宅配便を待っていた。日中自宅にいることは珍しかった。スマホの振動にビクッとする。知らない番号だが、宅配便の配達員からの電話だと思って出た。開口一番、文春とは別の週刊誌の名前を名乗られてドキッとした。一番取ってはいけない電話に出てしまったのだ。
記者も、まさか出るとは思つてなかったけど、本人が出た、だから聞くことは聞こうと思ったようだった。彼が聞いてきたことは、どこで洋服を買うのかとか、価格帯とか、そんな質問だった。ああ、ネット上で洋服のことが取りざたされているからだなとわかった。ツイッターで、私の着ている服がその番組が終わらないうちに、このメーカーで幾ら、と書かれているのだという。大手の通販サイトの安価な服だから、見つけやすかったのか。
感染者の増えているこの時期に、そんな質問なのか?
「そんなこと、どうでもいい。私の服なんてどうでもいい。私はあるものを着ているだけ。服がどうのと考える暇もない。今、報道すべき大事なことは他にあるんじゃないの?感染者増えているよね?対策とか、コロナで伝えるべきことは他にあるんじゃない?あなたは出版社の社員?」
「そうです」
「ならば、あなたは何を目標にというか、何をしたくてその出版社に入ったの?こんな私の服なんて 、どうでもいいことをこの大事な国難の時期に記事にするって、そんなくだらないことのためなの?」 怒りに任せて、言い切ってしまった。最後は泣き声だったかもしれない。明らかに文春の後遺症ともいえる、週刊誌の記者への不信感、嫌悪感が出ていた。少しの沈黙の後、その記者は答えた。
「すみません。まったくその通りです。僕は何をやっているのでしょう。書くべきことは他にあります。僕は上に言われて、それをそのまま先生に電話をして、先生にご不快な思いをさせてしまいました。すみません。僕は大学を出て、この会社に入って、何をやっているのでしょう」
この返答に今度は私が衝撃を受けた。そして、激しく狼狽した。僕は何をやっているのでしょう、という彼の声が耳に残った。この記者の素直さが胸に響いた。ああ、やってしまった・・・教員として学生に言っちゃいけないくらいの強い言葉で、しかも逃げ場を与えない言い方で責めてしまった。
あなたも仕事だったのね、言い過ぎました。ごめんなさい、そんな気持ちでいっぱいになった。続けて、後悔の念が襲って来る。「ごめんなさい。あなたは無関係でした」文春のことでこの記者に八つ当たりをしてしまった自分を責めた。そして、彼が最初に口にした質問に矢継ぎ早に答えて電話を切った。
この記者が自分の非を認めて素直に謝ったことは、私にとっては大きな出来事だった。彼は謝れる。でも、官僚や国の舵取りをする専門家の先生方や、政治家の多くも、決して謝らない。間違えても、謝ることも訂正することもなく、上書きするようなうその説明を繰り返す。そして誤った方向のまま、進んでいるようにみえる。
この素直に謝る青年は、私の心に深く刻まれた。

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