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日本学術会議の会員任命拒否問題,関連事項などメモ [仕事とその周辺]

日本学術会議の会員任命を菅政権が拒否した問題について、あるサイトでのやり取りの中で、自分自身整理できたことなどをメモします。

まず、至急紹介したいTV番組について繰り返しおしらせします。10月17日(土) 17:29までの公開です。→10月18日(日) 14:00 まで公開延長
報道特集 学術会議 任命拒否「学問の自由」とは
(TBS 10月10日(土)放送分)

目次:1)法律上の前提         2)その後に判明した事実など
   3)なぜ「学問の自由」の侵犯か 4)学術会議の「非軍事」の姿勢について
   5)拒否すべき「軍事目的研究」とは何か

1)法律上の前提
日本学術会議法七条の2の、学術会議の推薦に「基づいて」内閣総理大臣が任命するとは、憲法六条の、「天皇は、国会の指名に『基いて』、内閣総理大臣を任命する」と同様、「そのまま、丸写しで」と言う意味である。国会が天皇に対して「多めの」総理大臣候補の名簿を提出したりはしない
拒否が全くあり得ないことではないが、明らかに違法・違憲など、余程の事情がある場合だけであろう。

2)まずその後に判明した事実など
fig1.jpg6日、「首相が学術会議の推薦通りに任命する義務はない」とする2018年11月13日付の内部文書を公表。内閣府日本学術会議事務局が作成したとしている。(東京新聞の報道, 右の写真も)

文書作成は日本学術会議事務局だが、事務局が決定したのか、それとも内閣府が決定したのか、それ以外か、決定主体が不明である。学術会議自身が自分の組織に関する法律の解釈を変える権限はないはずだから、「事務局が決定」はない。内閣府にしても内密に決めるのは不当。もちろんこの「新解釈」自体も不当だ。

10日の新聞報道では、菅首相の「99名の名簿しか見ていない」という発言が明らかになった。これが事実なら、自分が判断したと言うこれまでの説明と辻褄が合わない。

その後もいちいち追えないほど次々に「日替わり」で政府部内の矛盾や醜態が明らかになっている。

3)なぜ「学問の自由」の侵犯か
この問題が議論になっていたある人のフェイスブックでのやり取りは、一般の人のこの問題への見方を想像する上で役に立ちそうだ。

「任命拒否がなぜ学問の自由を犯すことになるのか理解不明である、学問の自由を犯すというのは、戦前の河合栄次郎に対する政府の弾圧のようなことを指すのではないか」と言う問いかけがあった。

たしかにこの任命拒否が直接に個別の学問研究の自由を左右することではない。しかしその侵食に対する、いわば学者コミュニティーの「団結権」のようなものとして、あるいは侵食を抑止するバリアーとして、例えば「大学の自治」が認められており、これも学問の自由に含まれるとされる。その延長として、大学に限らず、学門界の自治的組織、例えば学会などの学術団体の自治も同様と思われる。(結社の自由によっても二重に保護されているだろう。)学術会議も、政府から資金を受けているとはいえ、同様の地位を持つと考えられる。このことは、国立大学は政府の運営交付金を、また私立大学も助成金を受けているが、だからと言って大学の人事に政府が口を出せないのと同じである。

これに対して、「科学技術・学術審議会」は政府(文科省)直轄の組織で、文科大臣に人事権がある。

4)学術会議の「非軍事」の姿勢について
学術会議の「戦争のための科学に従わない声明」など[1]「非軍事」の姿勢も今回注目され、また自民党などからは攻撃の対象にもなりそうである。

これは今回の任命拒否の問題とは直接関係ないが、しかしこれに注目が集まるのは決して悪いことではない。これをむしろ好機として、この思想と姿勢の一層の普及、強化と、リユーアルを図る必要がある。「宣言」は科学者コミュニティーにとっての「九条」とも言うべきものだからである。この、学術会議の出発点としての「非軍事」の姿勢に関しても、冒頭に紹介したTBSの10月10日の報道特集は優れた放送内容だった。

ところで、映画「ゴジラ」第1作は1954の作品で、登場する芹沢博士の極限的なまでの非戦・反戦の姿勢[2]は、この数年前に出された学術会議のこれらの声明の影響も少なからずあったのではないかと想像する。

一般的な防衛論議を、いわば「逐条的に」議論すると長々しくなるので、むしろ最初から、それこそ「総合的・俯瞰的」に把握した方がよいだろうと考え、次のように整理してみた。軍備維持・増強と軍備撤廃・縮小のメリット、デメリットを、平時と戦時に分けて表にしたものだ[3]。何か漏れている要素があるだろうか?
arm-disarm.jpgPDFはこちら

軍事力肯定派はこの表のベージュ色の対角線の部分だけを主張し、逆に非武装派は薄緑色の逆の対角線の部分だけを主張する。一度に全部を俯瞰することでより冷静な議論の助けになるかも知れない。人間対人間、国家対国家の関係を十分な確度で予測することはできないし、安全保障の完全な方法もない。何がより賢いか、という選択の問題だからである。(関連記事:「防衛」と「侵略防止」、または「攻められる」ことと「攻める」こととの等確率性(数学における平和教育?)

この表から得られる私の結論は、軍事力によらない防衛、「代替防衛」[4]と呼ばれる方法でこの表の右下2つのデメリットを補うと言うものである。

「代替防衛」については、マイケル・ランドル「市民的抵抗」第5章の記述を推奨。もちろん、カントの「永遠平和のために」もぜひ読んでいただきたい。(関連記事:カント「永遠平和のために」の第三条項

5)拒否すべき「軍事目的研究」とは何か
12日の記事の末尾に、元北大・奈良林直氏の「学術会議に学問の自由を侵害された」という発言についてのファクトチェック付け加えたが、関連して、どこまでが拒否すべき範囲なのか、について付け加えたい。

兵器研究が「軍事目的研究」であるのは明白で、筆者はこの種の研究を「知の暴力」と呼ぶことを提唱している[5]。しかし、防衛省など軍事機関からの資金でも、純粋な基礎研究ならいいのか、という問題がある。「お金に色はついていない」という人もいる。実際には色はついている。つまり、資金を受け取った研究者は軍関連機関の「人間関係資本」に組み込まれるのである。毎日新聞の2017年2月10日の社説から引用する[6]。
米軍にせよ、日本の防衛省にせよ、民生研究の中から軍備につながる成果をコストをかけずに入手したい思惑があるのだろう。人脈作りも狙いだと思われる。いったん研究費をもらえば、その後の研究協力も断りにくくなる。そんな心理も考えておかねばならない。
(中略)「自衛目的ならかまわない」とする少数意見もあるが、軍事と防衛の線引きは困難だ。とすれば、学術界がめざすべきは、「軍事関係の組織から研究支援を受けない」という合意だと考えられる。
以下、上記記事を引用した3年前のブログ記事に書いたことを繰り返す。
(ここから再録)
研究者が軍の「人間関係資本」に組み込まれるとはどういうことか,少し議論を広げてみよう.上の社説のように,「人脈作り」「その後の研究協力も断りにくくなる」ということだけではない.研究者の倫理規範としては,「軍に協力しない」というだけで十分というわけではない.むしろ,例えばユネスコ高等教育世界宣言[7]が高等教育とその職員の平和への役割,コミットメントを強調していることからも,研究者は積極的に平和のために発言し行動しなければならない.例えば名大の「平和憲章」[8]には,「われわれは、平和を希求する広範な人々と共同し、大学人の社会的責務を果たす」とある.

はたして軍関係組織・機関から資金を受けた研究者が,平和の問題で自由に発言し,行動することが出来るだろうか.軍が考える「平和」の概念とずれた発言をした場合,研究費が途絶える心配をしなければならないだろう.もしその規模が大きければ,単に自分の研究が続けられなくなるだけでなく,その資金で雇った人をクビにしなければならないかも知れない.当然発言や行動を「自粛」することになる.これが「平和を希求する広範な人々と共同し、大学人の社会的責務を果たす」ことに背くことになるのは明白だ.(再録終わり)
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[1] もう一つの「日本学術会議発足に当たっての声明」と合わせて、次のブログ記事に全文掲載。
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2005-11-18
[2] 当ブログ記事「映画「ゴジラ」の高い思想性」参照。
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2014-07-11
[3] 「ホログラフィック」という言葉がある。ホログラムの方法を指すが、この「ホロ」と「グラフィック」の2つの語根の意味を保ったまま、この語を「全体的に見透す」という意味に再定義して、このような表を「ホログラム」と呼んだらどうだろうか?
[4] 当ブログ記事「憲法九条下での国防」参照
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2007-11-23
[5] 筆者ブログ参照。
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2019-03-29#iikae
[6] 新聞の画像やこれについての筆者コメントは次の記事。
 https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2017-02-12
[7] ユネスコ高等教育世界宣言 「21世紀の高等教育 展望と行動」
 http://ad9.org/pegasus/UniversityIssues/AGENDA21.htm
[8] 「名古屋大学平和憲章」
 http://kyoshoku.coop.nagoya-u.ac.jp/kakehashi/0201/36p.html
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