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玄海原発運転差し止めの裁判で意見陳述しました [社会]

玄海原発に対して裁判を起こしている2つの団体のうちの一つ(古参の方)、プルサーマル裁判の会の法廷が12月13日に開かれ、「全機差し止め」裁判(原告336人/被告九電)の法廷で10分間の意見陳述をしました。またその30分前に開かれた行政訴訟の法廷では福岡市の山中陽子さんが意見陳述をされました。

以下に、豊島の意見陳述を紹介します。両方とも、「裁判の会」のウェブサイトでも公開されました。こちらです。(予告記事。(12/14)関連記事へのリンクを入れました。1401577.gif毎日新聞(佐賀県版)の報道

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本日は陳述の機会をいただきありがとうございます。
私は豊島耕一と申します。福岡県久留米市に住んでいます。九州大学理学部で原子核物理学を専攻し、理学博士の学位を取得しました。久留米大学放射線治療センターに3年勤務した後、佐賀大学で31年余りにわたって、物理学の教育と研究に携わってきました。私自身の専門が原発の技術の中心にある核反応や放射線と直接関わりがあるため、核兵器の問題とともに原発にはこれまで強い関心を持って来ました。ここでは主にその専門の立場から意見を述べます。

チェルノブイリ原発事故と緊急対策マニュアルの出版
1986年のチェルノブイリ原発事故は私にとっても大変な衝撃でした。原発が動いている限り日本でも起こりうるし、そのリスクが存在する以上、万一の時の市民レベルでの対処法の知識が不可欠です。またそれを提供することが科学者の責任でもあると考え、その3年後に仲間と原発事故対策マニュアルを出版しました。とは言え私も、日本の原発はソ連とは原子炉のタイプが違うから、あれほどひどいことにはならないだろうと思っていました。しかし福島原発事故を目の当たりにして、この考えは全く浅はかだったと言わざるを得ません。

その「マニュアル」も数年で絶版となり、そのまま放置していたところに福島原発事故が起こったのです。急遽、出版社の同意を得て、事故の6日後に全部をネット上に公表しました。しかし事故4日後の15日の早朝に放射能プルーム(放射能を含む大気の塊)が関東圏を襲いましたので、これには間に合わなかったことになります。絶版状態で事故を迎えてしまったことと併せ、悔やまれます。このマニュアルは、同じグループで急遽改訂版を作り、事故から2ヶ月後に出版しました。

首都圏を襲った放射能プルームは知らされず
放射能プルームが関東圏を襲った翌日の16日に、福岡のテレビ局のスタジオに招かれ、その前夜にスタッフと長時間の打ち合わせをしましたが、その時に、米軍横須賀基地の周辺の空間線量のデータを見せました(こちらに転載)。ネット上に公開されているもので、先に述べた、まさに15日朝の線量の急上昇を示すものでした。平常値の毎時15ナノグレイだったのが急上昇し、朝5時20分から1時間半は毎時100ナノグレイの最大目盛りを突き抜けています。スタッフの人たちは衝撃を受けたようでしたが、結局この重大な事実に放送では全く触れませんでした(→出演時のブログ記事, 関連記事「遅すぎる発表」)。首都という人口密集地の多数の人々を襲う放射能プルーム、この放射線に被曝するかどうか、放射能の塵を呼吸するかどうかは、後に述べるように、確率的・統計的に、首都圏の人々の健康に大きな影響を及ぼしたはずです。このような事実をメディアが隠さなければならないということに、放射能被害の恐ろしさを感じずにはいられません。

高崎市の観測所が記録した関東圏の大気中の放射能
放射線量だけでなく、空気中の放射能濃度も関東圏で高い値が記録されています。これは、福島原発事故の直後から群馬県高崎市にある核実験監視のための放射能観測所が継続的に発表していたデータに見られます。それによると、ピークを記録した3月15日[注1]の濃度は、セシウム137と134だけで1立方メートル当たり12.6ベクレルです。単位にミリもマイクロも付きません!そしてこれは平常値つまり事故の前の濃度のなんと1億倍にもなります(こちらにグラフ)。ひと月ほどで濃度は下がったとはいえ、100ミリベクレルから数十ミリベクレルの状態が何年も続きました。最近でも、福島県では2017年の平均値として、福島市の0.057ミリベクレル、双葉郡大熊町ではその一桁上の0.36ミリベクレルという値が記録されています[注2]。これらは事故前の濃度の100倍から1,000倍で、大気圏内核実験の影響が残る1970年代の値に匹敵します[注3]。呼吸によって体内に取り込まれた放射能は、長期間にわたって内部被曝を引き起こします。体内に仕組まれたミクロの時限爆弾となるのです。

危惧される広範な健康被害
福島原発事故による直接の被害を最も被ったのは、いうまでもなく原発周辺を中心とする福島県民ですが、その放射能被害でさえ、例えば子供の甲状腺ガンのようにメディアから無視されています。しかし関東圏の住民という巨大な被曝集団については、その影響について語られることさえありません。ここで私が関東圏の放射線、放射能の状況を取り上げたのは、これが常識に反する異常なことだからです。

国際放射線防護委員会(ICRP)は「集団線量」、つまり、被曝線量をある人口集団で積算した量を定義しており、集団への放射線による健康への確率的影響の尺度としています。さらに、この確率的影響は「線形・しきい値なしモデル」、つまり低い被曝線量であってもその線量に比例して影響が表れるものと想定しています。

この世界的に権威を持つ機関の想定に従えば、一人一人の線量が低くてもその人数が多ければ、集団線量に応じて確率的に必ず健康被害が表れるということです。これに基づく推定計算がいまだに見られない、公表されないことも、大きな隠蔽の一つだと思います。ガンや突然死など個別の事象と放射線との因果関係を特定することは不可能で、この点が化学物質による公害などと全く異なります。それをいいことに、統計的に必ず表れるであろう、いや、すでに表れているであろう確率的影響に東電や国が目を瞑ることは犯罪に等しいのではないでしょうか。

エネルギー源としての不適格性、有害性
次に、原発事故の問題を離れて、原発そのものの、エネルギー源としての不適格性と、有害性のうち最も深刻な問題ついて述べます。

原発を推進ないし肯定する人たちの最後の拠り所は、地球温暖化問題かも知れません。再生可能エネルギーの開発と導入は爆発的ですが、エネルギー需要の全部を賄うにはまだ至っていません。そこに原発の出番があると言うのでしょう。しかしウランの資源量は、発熱量ベースで比較して石炭や石油に比べて圧倒的に少なく、化石燃料の中ではCO2排出が最も少ない天然ガスと比べても、その半分以下です[注4](関連ブログ記事)。つまり、その程度の時間しか持たないと言うことです。仮に原発を百年程度動かせたとしても、最後に述べるようにその使用済み燃料の管理が10万年以上というのでは、あまりにも世代間倫理に反し、資源としての地位を認めることはできません。

ウランは、その大半を占めるウラン238をプルトニウムに転換する高速増殖炉があって初めてエネルギー資源として大きな地位を占めることができますが、もんじゅの廃炉に見られるように、その見通しは全くないのです。

最後に、使用済み燃料に含まれる大量の放射能は、化学毒物などと違って無害化できません。もし無害化しようとすれば原子核反応による他はなく、たとえ原理的に可能だとしても、これに要するエネルギーも費用も途方もないものとなるでしょう。また、その過程で新しい放射能が副産物として生じるという、モグラ叩き現象も起きるでしょう。したがって、フィンランドのオンカロで行われようとしているように、10万年以上も人間の生活圏から隔離しなければなりません。日本にそれに適した場所は見つかっていませんし、あるとも思えません。つまり、日々新たに放射能を生み出す原発の運転は一刻も早く止めなければならないということです。

あらゆる点で原発の稼働は不適切、不道徳であり、裁判所には、一刻も早く停止すべきであるという判断を、常識に基づいて下していただくようお願いします。
ありがとうございました。

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[注1] 3月15日6時55から16日6時55分まで
[注2] 公益財団法人日本分析センターのサイトによる。
https://www.kankyo-hoshano.go.jp/01/0101flash/01010122.html
[注3] 平成18年度第15回広島県保健環境センター業績発表会要旨の、松尾健氏の「広島県におけ
る環境放射能調査」による。
[注4] ウラン資源量については、日本原子力産業協会のサイトを、天然ガスは日本ガス協会のサイト
を参照。
http://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2015/02/uranium2014_fig&tab.pdf
https://www.gas.or.jp/tokucho/shigen/
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永嶋國雄

チェルノブイリ原発事故とか福島第一原発事故のような大事故は原子力安全条約で禁止されています。東電が条約を破り、原子力規制委員会が東電の違反を容認しています。
詳細は
http://genboken.wixsite.com/mysite
by 永嶋國雄 (2019-12-14 16:47) 

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