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共産党の大会決議案に「自衛隊を活用」が復活 [反核・平和]

本文中リンクを追加しました.25日14時現在この記事へのアクセスが1,000を超えました.2018年7月19日現在,2,595アクセス.1401577.gif2022年6月29日現在3,485.
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「護憲派による解釈改憲/もう一つの『パブリックコメント』を」の記事の後半部分とほぼ同じ内容ですが,共産党の大会決議に的を絞って再論します.)

全国の九条の会や護憲派の皆さんにとっては無関心ではいられない問題だと思います.

共産党の大会が来年1月15日から開催され,決議案も発表されています.その中に,実に5大会16年ぶりに,急迫不正の主権侵害の場合は「自衛隊を活用する」という文言が復活しています.16年前の22回大会でのその部分の文章と,今回の文章を並べてみます.

22回大会(2000年)(“・・・”は省略箇所)
・・・自衛隊が憲法違反の存在であるという認識には変わりがないが、これが一定の期間存在することはさけられないという立場にたつことである。これは一定の期間、憲法と自衛隊との矛盾がつづくということだが・・・
そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。国民の生活と生存、基本的人権、国の主権と独立など、憲法が立脚している原理を守るために、可能なあらゆる手段を用いることは、政治の当然の責務である。
23回24回25回26回大会は記述なし
27回大会(今回)
かなりの長期間にわたって、自衛隊と共存する期間が続くが、こういう期間に、急迫不正の主権侵害や大規模災害など、必要に迫られた場合には、自衛隊を活用することも含めて、あらゆる手段を使って国民の命を守る。日本共産党の立場こそ、憲法を守ることと、国民の命を守ることの、両方を真剣に追求する最も責任ある立場である。
一見,「あるものは活用する」と容易に耳目に入りそうな言説ですが,これは次のような重大な問題,特に「護憲派による解釈改憲」という問題を含んでいます.

問題の箇所は「(20)日米安保条約、自衛隊――日本共産党の立場」の節にあります.党綱領から自衛隊,安保に関する文章を短く引用したあとの所です.
http://www.jcp.or.jp/web_jcp/html/26th-7chuso/27taikai-ketsugi-an.html#_20

引用された党綱領は「自衛隊が憲法違反」と断言していますが,それを廃止する方策については,海外派兵立法の廃止と軍縮措置とが書いてあるだけで,自衛隊を必要と考える世論をどう積極的に変えて行くかについては全く書かれていません.むしろ,「日本を取り巻く平和的環境が成熟」するのを待つかのような言い方は,政府・自民党の「日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」という軍拡のためのレトリックとウリ二つです.つまり暗に現在の「平和的環境」=「安全保障環境」は自衛隊廃止を出来る状況ではない,と認めていることになります.これは明白な自衛隊肯定論,必要論であり,自衛隊の存在自体が「日本を取り巻く平和的環境」の阻害要因になっているという視点は,この文章に関する限り全くありません.

より重大なのは,その後に,「急迫不正の主権侵害」の場合は「自衛隊を活用」することもある,と言う点です.大規模災害の場合とまとめて書くという文章作法も乱暴ですが,主権侵害のケースで隊員が手にするのは恐らくスコップではないでしょう.つまり自衛戦争も辞さず,と述べているのです(この表現は16年前の22回大会決議に初めて見られましたが.冒頭に書いたようにその後過去4回の大会決議にはこの記述はありませんでした).違憲の自衛隊だがその存在自体は容認するというのが消極的な「解釈改憲」とすれば,自衛戦争の容認はむしろ積極的な「解釈改憲」と言わなければなりません.

自衛隊を「活用」という曖昧な言葉も問題です.普通には,武装した集団を「急迫不正の主権侵害」の際に「活用する」と言えば,軍事的活用つまり応戦・交戦と取られるでしょう.単にバリケードを作ったりして非暴力で対抗するだけだ,というのなら,はっきりそう明記すべきです.隊員が実際に交戦するのかしないのかがかかっているのです.これは海外であれ国内であれ同じです.もし交戦を意味するなら,軍法のようなものを整備しなければなりません.さもなければ刑法の「正当防衛」の範囲でしか武器の使用が出来ないことになります.

また,「自衛隊を活用」により本当に「国民の命を守る」ことが出来るのかどうか,言葉だけではないといことを示すには,実際的な検証が必要になります.それは,侵略の想定や,演習などを認めるということです.少なくとも武器の更新,弾薬の補充は認めることになるでしょう.もしそうでなければ,隊員から「準備もさせないで戦えと言うのか?」と問われるでしょう.

また,本気で武力侵略しようとする国があれば,それなりの軍事力を投入するはずで,応戦すれば(双方の)多大な人命の損失を覚悟しなければなりません.「あらゆる手段を使って国民の命を守る」(もちろん自衛隊員も国民である)ことが必ず保証される,都合良く防戦できるはずだ,少なくとも損害はより抑えられると考えるのは,言わば「原発避難訓練」をそのまま信じるのと同じように非現実的でしょう.「軍隊による国土防衛」の過大評価ではないでしょうか.もし「あるものは使わなければ」という程度の考えによるのであればもってのほかです.

また決議案には,自衛隊「活用」の目的として,(あらゆる手段を使って)「国民の命を守る」ことを掲げていますが,自国民は武力で守るが,他国民を守ること(PKF,PKOなど)まではしない,という区別も説明しづらいでしょう.

共産党が,あるいは護憲派の多くが自衛隊違憲論や廃止論を前面に出さないのは,いうまでもなくそれどころではない,「集団的自衛権」や紛争地への自衛隊派遣という深刻な事態があるからで,それを食い止めるのが先決,と考えるからでしょう.政治的共同戦線を組もうとするとき,「一致できる妥協点」によらなければなならい,ということも理解できます.しかしだからと言って「原理主義」的主張をやめることは誤りです.アジェンダの範囲を右へ右へと押しやり狭めるものであり,決定的なのは一貫性のなさで説得力を欠くということです.

他方,武力によらない「代替防衛」(Alternative Defence)では,少なくとも戦闘による死者は出ません.この方法論の研究と実践とが護憲派に真に求められているのではないでしょうか.

カントの「永遠平和のために」の第三条項の冒頭に,「常備軍はいつでも武装して出撃する準備を整えていることによって,ほかの諸国をたえず戦争の脅威にさらしている」とあります.「自衛」隊も例外ではありません.それどころか,侵略的な米軍の事実上の支配下にある軍隊ではないでしょうか.

どこの国の軍隊に関しても言えることですが,「攻められる」心配と同等の頻度,熱心さで,自国の軍隊が他国を「攻めてしまう」ことを心配する必要があります.両者の数学的確率が等しいことを理解することが重要です.
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那覇でのJSA九州・沖縄シンポでの発表の後半部分ではこの大会決議のことを暗示したつもりでしたが,何人の人にそれを感じてもらえたでしょうか?
レジュメ http://ad9.org/blog/mytalks/JSA-Okinawa2016resume.pdf
スライド http://ad9.org/blog/mytalks/JSA-Okinawa2016repr.pdf
録音 http://ad9.org/blog/mytalks/801_0420t.mp3
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小西誠

ご意見に全く賛成です。しかし、ここ数年というか1年、2年の共産党は、実際にはもっと「自衛隊の現実的承認・認知」に行き着いているように思えます。
先日、BSフジで、小池さんが司会者から中国脅威論について意見を求められていましたが、中国への対抗が必要だなどという意見を述べていましたね。間違いなく、共産党は、この「中国脅威論」で総崩れするでしょう。

中国の「防空識別圏」設定問題への対応、先島諸島ー南西諸島への自衛隊の増強への沈黙をみると、すでにそれが始まっていると思えます。今後、厳しい批判が必要でしょう。
by 小西誠 (2016-12-20 18:07) 

バッジ@ネオ・トロツキスト

最近の日本共産党は、醍醐氏に批判された「NHK問題」や今月の東京・板橋区議の除籍事件などなど、大問題から小問題まで、もう、ほとんど科学的社会主義政党の態をなしていませんね。
永年にわたる党員づくりの失敗・放棄のツケが、いよいよ全面化し始めているようです。

もう、「共産党」を名乗って欲しくもありません。
実態は、せいぜい「国民党」でしょうから。

21世紀には、世界的に新たな左翼の胎動が始まるのではないかと予想し、期待もしています。
日本共産党も、左派社民勢力としてそれまでの「ツナギ」として存在してくれさえすればそれで十分です。旧ソ連共産党もミヤケンが「復元力」を期待していたようには再生されずに旧体制の崩壊と共に終わってしまいましたから、日本共産党も早晩ソ連党同様の末路をたどることでしょう。残念ですが、そう見た方がリアルです。
by バッジ@ネオ・トロツキスト (2016-12-21 12:05) 

宗純

記事中の、
『どこの国の軍隊に関しても言えることですが,「攻められる」心配と同等の頻度,熱心さで,自国の軍隊が他国を「攻めてしまう」ことを心配する必要があります.両者の数学的確率が等しいことを理解することが重要です.』も、
『侵略的な米軍の事実上の支配下にある』ことも明らかな事実であると思いますが、
日本の自衛隊は、いわゆる『軍隊』ではない。
自衛隊の新しいエンブレムが抜身の日本刀の禍々しデザインなのですが、真ん中に創立年の『since 1950』が入っている。
最初見たときは2ちゃんねる風にSineeの文字を無理やりローマ字読みする『死ねえ!』かと思ったが、
前置詞のsince(・・・から)で、これマッカーサーの警察予備隊National Police Reserveですね。
誰でも命は一つしかないので、
あの軍事オタク政治家石破茂が喝破したように『命令拒否は死刑か懲役300年』でないと、本当の戦争は矢張り無理ですよ。
今の自衛隊法でも敵前逃亡は懲役7年だが、
5年前の福島第一原発が相次いで爆発した時に『安全が担保されていない』として自衛隊が逃亡したが、誰一人も処罰されていません。

by 宗純 (2016-12-26 14:21) 

yamamoto

逃亡した自衛隊員がいたとは知りませんでした.しかし命令拒否は勇気のいることです.我が国の「企業戦士」の多くが会社の理不尽な命令を拒否できず過労死,過労自殺に追い込まれている状況を見れば,隊員の不服従にもあまり期待できないという気がします.
by yamamoto (2016-12-26 16:31) 

宗純

『逃亡した自衛隊員がいた』といった次元の話ではないのです。
話はもっと深刻で、
71年前に侵攻したソ連軍を見た日本軍が満州開拓団などの日本人を見捨てて大慌てで逃亡したことを髣髴させるソックリ同じ出来事が5年前に起きていた。
個人ではなく組織としての『自衛隊が逃亡した』のです。
この事実は、実は日刊ゲンダイが即座に報じているのを見ているのですが、地元紙や全国紙が一切報じない。
日刊ゲンダイ以外でも、自衛隊の車列がサイレンを鳴らして渋滞する避難民の車をどかして、原発のある方と逆方向に逃げている事実は、福島県民の目撃証言などがあるのですが、この驚愕的ニュースが真実であるかどうかの確認が出来ない。
ところが半年後、何んと、朝日新聞がWeb記事としてアップしたのですから驚いた。自衛隊の逃亡劇は、テレビのワイドニュースとしても扱っているのです。
なんと福島第一原発の爆発当時に、自衛隊が逃亡したとの、日刊ゲンダイとか県民の目撃情報は正しかったのです。
あの軍事オタクの石破茂の『死刑か懲役300』は、この事実を踏まえた語られた。
死刑か懲役300年の対象が『命令違反』ではなくて『命令拒否』であるところに注意!
ところが、フクシマの単語を意識的に抜くから、意味不明になり叩かれたのです。
東京新聞ですが参議院選挙終盤に、この石破茂の『死刑か懲役300年』を報道、その2日後には赤旗が報道しているのですが、
実は石破茂発言自体は何カ月も前の古い話なのです。
東京新聞としては石破茂発言で、自民党大勝の流れを何とかして止めようとしたのでしょう。
by 宗純 (2016-12-27 11:18) 

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