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テレビ報道職についての重要な分析 [メディア・出版・アート]

1401577.gif続編(その2)はこちら,さらにその3
wlunbalance.jpg「テレビ報道職のワーク・ライフ・アンバランス: 13局男女30人の聞き取り調査から」というタイトルの本があります.メディア問題を新しい視点で分析したもので,現在の政治状況とも深くかかわります.その中から一節を紹介します.

第1章・テレビ報道職がつくられるまで,の第2節第4項,「『まっさら』なまま職につく」の部分(2節の筆者は小室広佐子氏,太字は引用者)

テレビ報道職の生育環境は、父は専門職や大企業勤務、自営業で、経済的にも文化的にも中産以上の階層に属する家庭であり、専門的職業をもつ父からは小さいころから報道についての話を聞かされ、専業主婦の母からは女性も仕事をもつよう強く背中をおされた。出身大学は一流の4年制大学で、勉強以外の習い事もこなし教育にはお金を惜しまない家庭環境にあった。

学生時代は記者を志して大学の門をたたいた者もいれば、テレビという新しいメディアに関心のある者もいた。そして報道にもテレビにも関心のなかった者も放送局に入社した。

調査を通じて、日本のテレビ報道職は、欧米のように大学や専門機関でジャーナリズムを学び、中小の放送局で実績を積むというキャリアアップシステムとは異なる供給プロセスを経ていることが確認された。すなわち、日本の放送局は、すでに持ち備えている報道職としての専門的能力を測って採用するのではなく、専門職としては色のつかない「まっきら」な状態の学卒者を、一般教養や英語など、専門性とは別の尺度の試験を課して新人として採用するシステムをとっている。

さらにいえば、報道職としての訓練を受けていないどころか、報道職を希望もしていなかったのに専門職に従事している者もいる。ある者は映像や演劇、あるいはアナウンスというテレピ的な表現者を志し、ある者は地元の大企業として放送局に就社した。報道職につくことを全く考えずに学生時代を過ごしても、入社試験さえ突破すればテレビ報道職への扉が聞かれたという人たちが少なからずいる。大学までの教育とテレビ報道職という専門職の接続がなくても、報道職として十分に活躍している。こうして入社した彼ら・彼女らが、その後どのように報道職にたどりついたかは、次節以降に委ねたい。

また、調査対象となった報道職の生育環境が特定の社会層であり、入社に際しては、学校推薦、コネ、入社試験と、幾重ものふるいにかけられた。ふるいにかけられて残ったごく一部の人たちが放送局に入り、報道職に就いている。メディア表現は、意識的にも無意識にも制作者の価値観が反映される。報道とて同じである。このことを考えると、報道職の輩出が偏った社会層から選抜され,報道職への志望動機が欠如し、就職前の専門的訓練が不在であることに問題はないのだろうか。

小玉美意子は、社会のなかで相対的に有利な地位を獲する条件を備えている人々を“主流(メジャー)”の人々と規定し、マス・コミュニケーションはそうした社会において中心的な役割を果たしている機関に関連・所属している“主流”の人々の意見を社会に伝える役割を果たしており、そこに構造的歪みがあることを指摘する(小玉2012:11-19)。

調査対象となったテレビ報道職の人々自身が、成育環境、教育環境、そしてから見て“主流”の人々にあたり、彼ら・彼女ら主流の人々が、テレビというメディアを通して主流の人々の意見を伝える役割を果たしている。

メデイアは現実をそのまま反映しているのではなく、現実を再構成して提示する。主流の人々が、専門的な訓練なしに、自己の価値観を客体化して批判的に検証する作業を怠るとしたら、いとも容易に主流の人々の価値観によって現実が再構成され、メディアに提示されてしまう。特定の社会階層からの人材供給と専門的訓練の欠知は、特定の価値観を再生産することにつながる危険性をはらんでいるのではないだろうか。
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