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トリチウムのマルチヒット効果 [仕事とその周辺]

「反戦情報」最新号に「『脱被ばく』におけるメディアと専門家の責任」というタイトルの文章を寄稿しましたが,その中からトリチウムの生体影響に関する部分を転載します.以下で物理の話は定説であり間違いありませんが,マルチヒット効果が実際に起きているかどうかは仮説の域を出ません.
1401577.gif掲載号が旧号になったので,全文を転載します.こちらをクリック→htmlpdf
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トリチウム

 福島第一からの汚染水問題でにわかに有名になったが,別名「三重水素」と呼ばれるこの核種は,化学的には水素そのものなので除染フィルターで取り除くことができない.また,原発の平常運転でも大量に環境に放出されていた.これは全国でも玄海原発が特に目立って多く,過去最多では2010年1年間に10の14乗ベクレル(100テラベクレル)という値が九電のホームページで公表されている[注4].トリチウムはベータ線しか出さず,しかもそのエネルギーも極めて小さいため(セシウム137が出すベータ線の約30分の1),内部被ばくでのベクレル当たりの線量は小さい.このため大量の放出が容認されるなど,その危険性が軽視されてきたきらいがある.

 しかしベータ線のエネルギーが小さい(スピードが遅い)ということは逆に,ベータ線が走った場所に濃いイオンを作ることを意味する(ガンの粒子線治療で人体内部の病巣に集中的に線量を与えることが出来るのは,粒子線が止まる直前,つまりスピードが小さくなった所でより濃くイオンを作るためである).このためトリチウムの場合は,ベータ線が発射されたまさにその細胞でいきなり大量のイオンが出来る.

 もちろんどんなベータ線でも体内で止まるかぎり,その止まり際で同じように濃いイオンが出来る.しかしトリチウムでは,これに加えて「元素転換効果」[注5,6]も悪影響を及ぼすことが考えられるため,発射された細胞が「ダブルパンチ」を受けることになるかも知れないのである.元素転換効果とは,放射線を出したあと別の元素に変わり,それが生体分子を破壊するなど悪影響を及ぼすことである.トリチウムはベータ線を出したあとヘリウムに変わるため,水素として重要な生体分子の構成要素となっていた場合,その分子が分子として成り立たなくなる.つまり,隣の原子と手をつないでいたのに突然手を離すという「裏切り」をやるのだ.

 つまり,トリチウムが出すベータ線が発射された細胞内での濃いイオン濃度と,同じ細胞内での元素転換効果とが相俟って,セシウム137の場合と同様にマルチヒット効果を生じるのかも知れない.

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[注4] 九電ホームページ > 原子力・環境・エネルギー > 原子力情報 > 当社の原子力発電 > 原子力発電所の放射線管理 > 廃棄物の処理
[注5] ECRR-2010年勧告日本語版168ページ
[注6] 同じく筆者のブログ2013年1月8日の記事「原発からのトリチウム放出」を参照.

1401577.gif追記:トリチウム発生源の一つ,ホウ素と中性子の核反応について,専門的なメモをFBに書きました.
https://www.facebook.com/kouichi.toyoshima/posts/438716779567410
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yamamoto

今日(2014年2月27日)の毎日,「くらしナビ・科学」の欄にトリチウムのことが少し詳しく書いてありましたが,元素転換効果には全く触れていません.
by yamamoto (2014-02-27 11:30) 

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