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「反戦情報」への寄稿 - 玄海原発の再稼働問題 [社会]

玄海原発の再稼働問題に関して,やらせメール発覚直前までの状況をまとめています.掲載誌が旧号となったため,本ブログに転載します.
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hansenjoho715cov.gif玄海原発—「再稼働」をめぐる状況について

それでもまた「安全神話」?
福島第一原発の大惨事と,それによって引き起こされた広範囲に及ぶ甚大な放射能被害は,原子力の「安全神話」に多かれ少なかれ洗脳されていた私たちに強い衝撃を与えた.これだけの犠牲が払われた以上,フクシマを「今後二度といかなる類の安全神話にも騙されない」という強い戒めとしなければ,私たちはあまりにも愚かということになろう.
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ところが,玄海原発が立地する玄海町の岸本町長は,海江田経産相が「安全対策は国が責任を持つ」と発言したことなどを理由に,7月4日,九州電力の眞鍋社長に玄海2号機,3号機の再稼働に同意することを伝えた.また,佐賀県の古川知事も,「大臣がわざわざ来て安全性に国が責任を持つと言ったから」「安全性はクリアされた」と,同様の発言をしている.はたして,福島第一原発の大事故の前には「国が安全に責任を持つ」と言っていなかったのだろうか?このような両氏の態度のいい加減さを批判するのに「非科学的」という言葉すら使いたくない.

アジア・太平洋戦争の敗戦から「逆コース」までは数年かかった.喩えとしていいかどうか分からないが,今回の「原発敗戦」からの再稼働という逆コースは,敗戦,敗走の真最中でのUターンである.驚くべき忘却力,と言うよりも「短期記憶」の能力さえ疑いたくなるほどだ.そもそも「再稼働」などを議論している場合ではない.今なお運転中の原発をどう止めていくかの議論をしなければならなかったはずだ.浜岡さえ止めれば全国の原発がおとなしくなる,というわけではない.

フクシマ直後から再稼働をもくろむ古川知事
全国のトップを切って「再稼働」へと走りつつある佐賀県だが(本稿公刊時に再稼働されていないことを祈るが),これまでの県の動きと,これに対する市民運動について見てみよう.

佐賀県の古川知事は,福島原発事故の直後の3月15日には,国の原子力行政や原発自体に対し「信頼は大きく損なわれた」として,国に耐震基準や防災計画の見直しを求める考えを示していた.しかし同時に,2号機,3号機の再稼働については,延期要請は検討していないとも述べていた.実際には今日(7月6日現在)に至るまで両機とも稼働できず,定期検査開始以来それぞれ約6ヶ月と8ヶ月,停止が続いている.

古川知事の再稼働についての(外見上の)慎重姿勢が一転したとされるのが,6月17日の県議会での「中部電力浜岡原発の停止要請問題を除けば,(運転再開問題での)国の説明は一定程度理解できる」という発言が報じられた時である.しかし,3.15発言のように知事は当初から再稼働させるつもりであったし,また,知事の「慎重姿勢」というのは「擬態」でしかないことを,地元の市民運動家たちは見抜いていた.それは,プルサーマルを全国に先駆けて実施した時の,市民と知事とのやりとりから学んだことであった.そのため,知事の動きに先手を打つべく,再稼働に関しては市民・県民への十分な説明が必要と,「玄海原発プルサーマル裁判の会」ほか2団体の連名で6月1日,県に次の2点の申し入れをしていた.
(1)保安院による玄海町周辺各市町への「住民説明会」開催を要請すること
(2)玄海原発の2号機3号機の再稼働は認めず,1号機及び4号機も停止し,耐震等厳しい検証を求めること

このあと,同グループは再三にわたって知事の回答を求めて県庁に赴き,そのたびごとに住民説明会を強く求めた.このうち6月10日と24日の交渉には筆者も参加した.県が応対するのは「原子力安全対策課」という部署だが,10日の会議室のやりとりでは,「知事への要望を受けるのが私たちの仕事」と言って,「何時回答をもらえるか」と尋ねても「分からない」の一点張り.「知事は私たちの文書を確かに読んだのか」との問いかけにも「分からない」という不誠実そのものの態度で,まるで郵便ポストと変わらない.

「原発反対運動対策課」
結局,知事に取り次ぐはずの原子力安全対策課(原対と略)が,逆に知事とのコミュニケーションを遮断する役割をしていることが判明した.要望書はたしかに庁内の事務ルートで秘書室までは運ばれたのだろうが,原対は知事に回答を促すこともせず,単に放置しただけである.むしろ,知事にそのように対処するよう指示されていたのかも知れない.要望書のことを原対は知事に直接伝えたのでもなく,ただ一通のメールを送っただけであることも分かった.

このような事実は,会議室でのやり取りで埒があかず,知事室に押し掛けて,そこでの原対のトップらしき人を廊下で問いつめて判明したのである.つまり,知事室でもそこで応対するのは知事の秘書ではなく,「原対」であった.原対とは「原子力安全対策課」の略ではなく,実は「原発反対運動対策課」のようだ.知事と市民との間をつなぐのではなく,知事から市民を遮断するために存在している.もちろんこの課が自主的にそうしているわけではなく,知事の命令によるものだろう.知事は,原発批判派に誠実に対応しようとする気は全くないようだ.

この時のことだが,知事室に10名ほどで赴こうとした際,県の職員が廊下で我々をブロックするという事態まで生じた.毅然として「自由通行」し全員が秘書室前まで到達したが,それから閉庁までの2時間あまり,偶発的ながら「座り込み」行動となった.

県庁戒厳令
この県の職員による庁舎内の通行妨害,すなわち人間バリケードは,24日の抗議行動の際にはより徹底したものだった.この行動は,その直前に知事が発表した閉鎖的な「住民説明会」に抗議するためであった.その説明会というのは,「住民代表」数名に,テレビのスタジオで安全・保安院が説明し,これをケーブルテレビとインターネットで中継するというものだ.しかも発表が実施日のわずか6日前といういい加減さだ.

hansen715p15s.gifこの時は私自身は会議室でのやり取りまでしか参加しなかったが,県庁から大学のオフィスに戻ってしばらくすると,現場からのメールが写真付きで送られてきた.そこに写っていた職員による隙間のない「バリケード」には驚いた.まさに県庁戒厳令である.前回と違って,知事はこの時オフィスにいたのだが,多数の職員に囲まれて「逃走」したとのことである.

このような「原対」のありかたや,知事とこの課との情報のやりとりの詳細などは,実は知事室前の座り込みで初めて全貌が明らかになったと言える.行動のレベルによって得られる情報の質も変わってくるという好例だろう.

つながる市民団体
問題の説明会はそのあと適切にも「説明番組」と言い換えられて,予定通り6月26日の午前10時から実施された.これは単なる再稼働のためのアリバイ作りであるとして,「裁判の会」が現場での抗議活動を呼びかけた.佐賀の他の複数のグループ,そして福岡など周辺からも参加があり,会場のケーブルテレビ局前には,早朝からバナーなどを張り巡らし,出演者を待ちかまえたが,安全・保安院の関係者は裏口から,柵を乗り越えてビルに入った.抗議行動参加者はリレートークなどで気勢を上げていたが,開始時刻ころには直接の「公開」を求めて,一部の参加者はゲートにいたガードマンの制止を振り切って玄関に詰めかけた.進入を阻止しようとする局の職員やガードマンとの間で騒然としたやりとりとなったが,しばらくして全員が節度を持って後退した.

終了後,保安院の職員が乗ったタクシーが走り去ろうとするのを抗議行動参加者が発見し,十数人で取り囲む事態となったが,これも特に乱暴な行為にまで至ることはなかった.

玄関前の「混乱」もタクシー包囲も,多数の取材のテレビカメラにとっては格好の「絵」になる材料だったようだ.後者は,テレビクルーが興奮した声で,現場で見ている者からすればかなり大げさな表現で,中継(録画撮り?)をしていた.

“佐賀の田舎”の従来の行儀の良い抗議形態からすれば,かなりの人にとってややカルチャーショックという面もあったのかも知れない.しかしメディアの注意を引き付けることは大変重要で,あらゆる面で「非暴力」を貫きながらも「巧言令色」には努める必要がある.故人曰く「巧言令色を以て仁を為す」(?)

参加者の一部は局のゲート前で抗議を続け,またそこで応対に現れた資源エネルギー庁の杉本孝信氏とのあいだで青空討論となった.大半は(筆者も)近くの公共集会所に場所を移して,そこで件の番組のネット中継を視聴した.一般出演者はだれもが疑問に思うような良い質問を繰り出していたが,保安院の回答はほとんどどれも抽象的ないし答えになってないものばかりだったように思う.

古川知事は「良いやりとりになっていた」と評価したが,終了後記者会見した出演者からは不満の声が多かった.メディアの評価も「不十分」というもので,これを再稼働への重要なステップにしようとした古川知事の目論見は外れたようだ.

「説明会」には「説明会」を
すると知事は間髪を入れず,新しい「説明会」を7月8日に県主催で実施すると発表した.これまた発表のわずか一週間後という慌ただしさである.何が何でも再稼働を急ぎたいという古川知事の焦りがうかがわれる.人数は550人だが,市・町ごとに定員が決められ,超えた場合は抽選というものだ.原発に近い玄海町と唐津市がそれぞれ50人で,それ以外は市が20人,町が10人となっている.同じ市でも最大の佐賀市と最も小さな多久市とでは人口に10倍の開きがあるので,県都の住民は軽く見られている.また,「説明番組」に対するメールを九電が組織したことが「しんぶん赤旗」で暴露されたが,この前歴からすると今度は応募工作も予想される.

地元の市民団体は,今度は「抗議」ではなく「裏番組」でこれに対抗する.いや,県主催のイベントこそが,むしろ閉鎖的な裏番組と言うべきだろう.県とほぼ同時刻の18時30分から,佐賀駅近くのメートプラザで,複数の専門家を招いてオープンな「市民がつくる玄海原発説明会」を開催する.また,11日の県議会の原子力安全等特別委員会には県庁を取り囲む千人アクションも計画されている.

玄海1号機圧力容器の老朽化にともなう危険な状況も広く報道されるなど,メディアの変化の兆候もある.これは県民世論に,そして福岡,長崎など近県の人々の見方に影響を及ぼすだろう.もちろん佐賀の状況は全国から注目されている.地元の市民運動家たちは,全国で初めてプルサーマルを許してしまったという「負い目」から,今度こそ同じ轍は踏まないと不退転の決意で臨んでいる.
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yamamoto

「県庁戒厳令」パラグラフの最後の,「行動のレベルによって得られる情報の質も変わってくる」ことを私は,県庁と古川知事に対する「ストレステスト」と言っています.
by yamamoto (2011-08-25 10:23) 

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