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高レベル放射性廃棄物処分問題での地震学者の発言 [社会]

高知県東洋町の町長が高レベル放射性廃棄物の最終処分場に独断応募しましたが、その問題で毎日新聞に重要な記事を見つけました。神戸大学都市安全研究センター教授・石橋克彦氏の発言です。
日本中至る所に活断層*や火山があることを考えると、東洋町の件に限らない、原発そのものを続けていいのかという深刻な問題が突きつけられているように思われます。
 * 活断層のデータ:http://www.e-pisco.jp/equake/fault/fault.html

筆者、石橋克彦氏の了解を得て以下に記事を転載します。(同氏のサイトの次のpdf文書をテキスト化したものです.)
http://historical.seismology.jp/ishibashi/opinion/070318hatsugenseki_ishibashi.pdf
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毎日新聞/2007年3月18日付朝刊/オピニオン面「発言席」

発言席 震源断層上に核のゴミ捨て場
 神戸大学都市安全研究センター教授・石橋克彦

近い将来、南海巨大地震に直撃される高知県東洋町が、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地調査応募で揺れている。

高レベル放射性廃棄物とは、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムなどを抽出した後に残る核のゴミで、ガラス固化体にする。強烈な放射能と発熱を30〜50年間地上で冷やした後、地下300メートル以深に埋め捨て(地層処分)することになっている。大規模な地下坑道を掘り、約4万本の固化体を遠隔操作で埋設する巨大事業だ。生命・環境への放射能の害が数十万年も続くから、絶対に地表に漏れ出してはいけない。

原子力発電環境整備機構(原環機構)は、ガラス固化体を金属容器と粘土で包んで安定な地層に埋めれば安全だとして、処分場建設地を選定中である。まず、現地調査のための文献調査候補地を、全国の市町村を対象に02年末から公募している。

これまで応募はなかったが、東洋町長が今年1月、住民や議会、周辺自治体の反対を無視して応募した。窮迫した町の財政のために、調査中に周辺自治体と共にもらえる年間10億円の交付金が目当てだという。原環機構は応募を受理し、経済産業省に調査計画を申請した。住民多数が応募に反発しているなか、経産省は認可するらしい。

しかし東洋町は、安全な処分場の選定が全般的に困難な地震火山列島・日本の中でも、特に条件が悪い。100〜150年ごとに発生する南海地震の巨大な震源断層の直上に位置するからである。このことは、中央防災会議による、次の南海地震の想定震源域からも明らかだ。

ここに処分場を造った場合の危険性は、過去の南海地震の際の事実と地震学の一般知見から、大きく二つ考えられる。

第一は、数十万年の間に巨大地震に数千回も襲われることである。地震の揺れは地下では小さいと言われるが、震源断層の直上では十分激しい。また、揺れとは別に岩盤の変形が必ず起こる。それらの結果、処分場の安全性能が劣化する恐れが強い。さらに、周辺岩盤の地下水の動きが促進される可能性がある。最悪の場合、派生的な断層のずれが処分場を直接破壊することも否定できない。これらの影響が累積すれば、それほど遠からずに、ガラス固化体から放射能が漏れ出し、地表に運ばれることがありうるだろう。

第二は、固化体埋設中に南海地震に直撃されることである。現在、2030年代末から約50年間埋設作業をおこなうとしているが、前回の地震が1946年だったから、操業中に次の巨大地震が発生する確率が非常に高い。ガラス固化体を運搬・操作している船や車両、港、道路・橋、処分場の地上施設、長大な立坑と地下施設、遠隔装置などが突然の激しい揺れと大津波に襲われれば、固化体が散乱・損傷して強い放射能がばらまかれ、東洋町と周辺は人が住めなくなる恐れがある。

民意に反した町長の応募を受理するのも問題だが、これほど危険な場所の応募を認めるのも科学的に重大な欠陥である。活断層と火山に近ければ調査対象にしないというが、直下の巨大断層も当然考慮すべきだ。こんな欠陥制度と、疲弊した地方を電源特別会計の交付金で釣る手口は、住民間に不幸な対立を生み、地域社会を破壊して、無責任きわまりない。

原環機構は、安全だというまやかしの説明を撤回し、東洋町の文献調査の計画を取りやめるべきである。そもそも、こんな理不尽な手法を使わなければならないこと自体が、地層処分の無謀さと、核のゴミを出し続ける原発の根本的問題点を、明白に物語っている。(毎週日曜日に掲載)


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コメント 2

レイランダー

『大地動乱の時代』を読んで以来、石橋教授に心酔しています。ホームページで書評を書いたこともありました。
http://civil-faible.hp.infoseek.co.jp/34_daichi_douran.htm
震災論をつきつめれば文明論になる、という言葉が今でも胸に突き刺さっています。

原発震災の問題点は上の通りでしょうが、なおかつ「交付金」目当てとか、「村おこし」「町おこし」の動機から進められていく住民不在の地方行政そのものが、問題にされなければならないと強く感じます。
by レイランダー (2007-03-23 23:30) 

けんちゃん

  とにかく今日の甘利産業経済大臣の発言のレベルの低さには驚きました。懸命に真摯に東洋町の人たちは勉強会を開きました。
 反対派の学者だけでなく、賛成派の学者も招待し、冷静に意見を聞いています。

 上から見下ろすような大臣の発言。それほど安全な施設なら甘利氏の地元の選挙区に高レベル放射性廃棄物最終処分場をこしらえてから物をいうべきでしょうね。

 できもしないくせに地方の人間を馬鹿にする発言。このような大臣がいるから原子力政策も捏造データでインチキなのでしょう。
by けんちゃん (2007-04-24 20:59) 

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